DVや性暴力、虐待被害者をケアする「法看護師」とは?|「山﨑絆塾」より

法看護」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 法看護とは、暴力と虐待の被害者と加害者への特別なケアを指し、1990年代より北米やカナダを中心に発展した、比較的まだ新しい看護領域である。
3月6日(日)に行われた「第9回山﨑絆塾」にて、主田英之氏兵庫医科大学法医学講座)が日本ではまだなじみの薄いこの法看護について解説した。


先行するアメリカでの事例を挙げながら法看護について解説する主田氏

 

法医学の対象は亡くなった人だけではない

アメリカでは独立した事務所もある法看護師​

性暴力専門の看護師SANE(セイン)とは

 

法医学の対象は亡くなった人だけではない

最初に、監察医が事件をといていくドラマをいくつか紹介し「残念ながら、実際にはこういったことはありません」と話し始めた主田氏は、法看護学についての説明を行う前に、まず「法医学」についての説明からはじめた。

 

法医学というと、亡くなった人が対象というイメージがあるが、「“死”だけではない」と主田氏は言う。

日本法医学会による法医学の定義は「医学的解明助言を必要とする法律上の案件、事項について、科学的で公正な医学的判断を下すことによって、個人の基本的人権の擁護社会の安全福祉の維持に寄与することを目的とする医学である」となっており、主田氏が指摘するとおり、法医学の対象は亡くなった人に限ったものではない

 

主田氏によると、臨床医学と法医学の違いは「臨床医学は生きている方を対象として治療を目的としたものであるのに対し、法医学は亡くなった方、生きている方を問わず『何故そうなったのか』という原因を究明するもの」であるという。

ちなみに、生きている方へ行う法医学としては、暴力や虐待、性犯罪などに絡んだものなどが多いという。そして、そういった方へ行うケアに「法看護」が有効なのだと主田氏は説明する。

 

アメリカでは独立した事務所もある法看護師

法看護とは、犯罪の被害者や加害者より犯罪の法的証拠を科学的に採取・保存し、適切なケアを行う看護のことを指す。

1992年には「国際フォレンジック看護協会(IAFN)」が設立され、日本でも2014年に「日本フォレンジック看護学会」が設立された。ちなみに、「フォレンジック(forensic)」とは「法の・裁判の」という意味である。

 

日本ではまだ、法看護師として臨床現場で活動している看護師は少ないが、アメリカでは、アメリカ看護協会における特定分野としても認定されている。
法看護師の業務として、DVや性暴力、児童・高齢者虐待の記録や証拠品(加害者の体液など)の採取と保管、また被害者のケアや関連機関との連携などがあるという。
また、こういった業務が成り立つのは、アメリカでは看護師が採取した検体や記録が裁判で証拠品として採用されたり、看護師自身の証言が裁判で求められるなどの権限が認められているためである。

 

ちなみに、アメリカでは法看護師の独立した事務所があり、証拠を採取するための機材はもちろん、保管しておく機材もそろっており、被害者が直接事務所に訪れることもあれば、病院からの要請により、法看護師が病院に出向くこともあるという。

 

性暴力専門の看護師SANE(セイン)とは

法看護師の中でも性暴力については、性暴力専門看護師Sexual Assault Nurse Examiner:SANE)がおり、被害にあった人の心身のケアのほか、医療現場での証拠の採取や医療関係者などの言動による二次被害を防ぐなど、被害者が心身に受けるダメージをできるだけ軽減していくための対応を行っている。
法看護師すべてがSANEというわけではないが、講演の中で主田氏が紹介したサンディエゴにある法看護師の事務所には、8名のSANEが12時間交代で勤務しているという。

 

日本では「女性の安全と健康のための支援教育センター」が2000年からSANE養成講座を開いており、2014年までに約300名が修了しているという。
また、日本フォレンジック看護学会でもSANE養成プログラムを開催しており、今後はSANE認定制度も始めていく予定だという。

 

日本では、性暴力は親告罪被害者本人や法定代理人などの告訴がなければ公訴を提起できない犯罪)であるが、被害者は、被害にあった直後に訴えるかどうかまではなかなか考えられない。さらに、いざ訴えようと思っても、時間が経ってからでは十分な証拠の採取ができず、被害を証明することが難しくなる場合も多いという。

もし、アメリカのような法看護師の事務所が日本にあれば、採取した証拠を保管しておくこともできるため、「被害者は落ち着いて考える時間を持つことができ、たとえ時間が経って訴えたとしても、証拠に基づいた捜査ができる」と主田氏は述べる。

 

しかしながら、SANEが実際に日本の臨床現場で活動していくには、医療機関同士はもちろん、司法機関(検察など)や行政機関(役所・警察、中央省庁など)といったさまざまな機関との連携が課題となると主田氏は指摘する。
さらに、法的整備やどこが費用を負担するかという運営の問題などもあるといい、先に紹介したサンディエゴにある事務所でも、「運営には苦労していたようだ」と主田氏は補足した。

 

最後に、法看護について、日本ではまだカリキュラムに取り入れている看護大学は少ないが、主田氏は「法看護に必要となる知識は臨床に出たときに役立つ知識でもある。ぜひ看護教育のカリキュラムに取り入れていってほしい」と述べ、講演を終えた。

 

【看護roo!編集部】

 

山﨑絆塾

国内の災害だけでなく、海外の紛争地・被災地での救護活動を行ってきた災害看護のエキスパートである山﨑達枝氏が、東日本大震災での救護活動をきっかけにはじめた活動。
主に災害に関する勉強会や東日本大震災の被災地への視察、支援活動などを行っている。

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