消化器外科の術前ケア
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回は消化器外科の術前ケアについて解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医
術前に必ず確認しておくこと
手術を行う前には、十分に患者さんの情報を収集しておく必要があります。具体的にどのような情報を収集するのか、そしてその必要性を見ていきましょう!
氏名や生年月日といった情報に加え、これまでに罹患した、あるいは治療中の疾患などもきちんと確認しておく必要があります。
氏名、生年月日、年齢、身長、体重
本人確認には氏名や生年月日の確認は必須です!
麻酔や投薬にあたり、年齢や体重で使用する薬剤の量などは変化します。
体重が3桁あるような高度肥満の場合などは、術中に特別な機械を使うこともありますし、術後管理にも大きく影響します。
容易にコミュニケーションがとれるかどうか、認知機能や理解度もこの時点で把握しておきましょう!
現病歴
どのような経緯で現在の診断に至ったかや今回の手術の目的を明確にすることで、術前オリエンテーションが行いやすくなります。
術前の状態を把握しておくために、画像所見や術前のルーチンの検査結果も確認しましょう。
癌の場合は告知がなされているかどうかもしっかり確認しておきましょう。
既往歴
❶抗凝固薬・抗血小板薬の内服歴
術中・術後の出血に影響があります。
これらの薬剤を内服している=もともとは血栓ができやすい状態なので、内服を中止している場合は、術後の脳梗塞や肺塞栓、DVTなどに注意が必要です。
❷内分泌疾患(主に糖尿病)
糖尿病の患者さんは、血流不全によって創傷治癒が遅くなる傾向にあるため、術前から血糖コントロール目的で入院することもあります。
免疫能が低下するため、感染性合併症のリスクが増大します。
特に膵臓の手術はインスリン分泌に影響を及ぼすので、術後もしっかりと血糖の推移を把握しておきましょう。
❸腎疾患
NSAIDsの使用で腎機能が低下することがあるため、腎機能障害のある患者さんへは、術後にNSAIDsの使用が制限されることがあります。
透析を導入している場合は、シャントの状態や通常の排尿状態(透析患者さんは排尿量が少ない)を術前に把握し、イン・アウトバランスを確認しましょう。
❹心血管疾患
高血圧は出血傾向や、想定外の合併症につながります。
降圧薬を内服している場合は、術前から血圧コントロールを行うことがあります。
術後に内服できない期間は、輸液から降圧薬を投与することもあります。
術前に通常時の心電図波形を把握することで、術後の波形変化に気づくことができます。
❺脳疾患
脳梗塞や脳出血の既往歴がある場合は、術前に麻痺の有無などを把握しておく必要があります。
❻呼吸器疾患
主に肺癌や気胸、喘息やCOPDなど、呼吸に関する既往歴はしっかりと情報収集しておきましょう。
呼吸状態や酸素飽和度は術後の離床にも影響します。
術前にスパイロメーターで呼吸機能を把握しておきましょう。
術前から呼吸リハビリテーションが行われることもあります。
喫煙歴がある場合、術前からの禁煙指導が必要になります(術前8週間以上の禁煙が推奨されています!)。
❼感染症
感染症、特に血液感染するものの場合は、針刺しや曝露でスタッフへ感染するおそれがあります。
血液検査の結果を確認し、必ず連絡項目に記載するようにしましょう。
❽手術歴
過去に手術を受けたことがあれば、いつごろ、どのような手術だったかを確認しましょう。
特に麻酔施行時や、覚醒・抜管時の様子を聞いておきます。
身につけているものなど
❶歯
口腔環境、特に歯の状況(動揺歯や義歯の有無)を確認しておきます。
術中は人工呼吸管理を行うため、動揺歯があると気管挿管のときに抜けたり、さらに抜けた歯を誤嚥してしまうリスクがあるため、必要があれば動揺歯を術前に抜歯することもあります。
同じ理由で、義歯も必ず術前にはずしてもらいましょう。
❷指輪
緊急手術のときに問題になりやすいです。
電気メスで火傷をしたり、術後に末梢がむくんで指輪がはずせなくなることがあるので、早い段階ではずしてもらいましょう。
やむをえずカットする場合は、患者さん本人やご家族にきちんと確認をとります。
❸ネイル
こちらも緊急手術のときに問題になりやすいです。
ネイルは、術中のSpO2が測れなくなったり、末梢のチアノーゼが確認できなくなることがあります。
ポリッシュ(いわゆるマニキュア)なら除光液で簡単に落とすことができますが、ジェルネイルの場合は落とすのに専用のリムーバーを使用する必要があり、剥離の際の爪への負担も大きいので、術中全身管理を行う麻酔科に一報入れておくのも手です。
❹刺青(タトゥー)
刺青がある場合は、MRI検査の際に火傷をすることがあります。
刺青は肝炎ウイルスなど血液感染する感染症のリスクがあるため、血液検査の結果も確認しておきましょう。
最近はワンポイントで入れている人も多く、すぐに気づかないこともあるので、患者さん本人やご家族へ刺青の有無は必ず確認しておきましょう。
その他
❶ご家族
術中・術後に何かあった場合に備え、キーパーソンのご家族とすぐ連絡がとれる手筈を整えておきましょう。
家族背景にはいろいろと事情がある場合もあるので、ご家族の理解度や協力態勢ができているかなども確認しておく必要があります。
問題がある場合は早い段階からMSWなどに介入を依頼し、術後の態勢を整えておきましょう。
緊急手術の場合には全部把握するのは大変そうですけど…
それでも、最低限把握しておきたいことばかりだよ。患者さん本人の意識状態がよければ本人に、それが難しいならご家族にしっかり確認しておこうね!
特に注意が必要なときや内服管理については、術中に全身管理を行う麻酔科医と協力して指示を出すからね。
必要に応じて指示を仰いでね。
脱水は手術の敵!
手術室入室のとき、オペ室ナースに最終飲食の時間を細かく聞かれますが…
全身麻酔を行うと筋弛緩が起こるため、嚥下反射も抑制されます。麻酔導入時に胃の内容物を嘔吐すると気管に入り、誤嚥性肺炎を起こすリスクがあるため、基本的に術前は絶飲食になります。
ただし、最近では経口補水液(アルジネード®ウォーター、 OS-1など)を術直前まで経口摂取することが術後の早期回復につながるとして、術直前まで経口摂取を推奨している施設もあります。純粋な液体成分だけなら相当早く胃を通過することがわかっているので、割と直前まで飲んでも大丈夫です。脱水がなければルートもとりやすいですよ!
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【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂