肺高血圧症(PH)
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は肺高血圧症(PH)について解説します。
大久保早苗
さいたま赤十字病院CCU看護係長
慢性心不全看護認定看護師・呼吸療法認定士
肺高血圧症(PH)とは?
肺循環障害は、肺循環のいずれかが障害される病態のことをいいます。
肺循環とは、右心→肺動脈→肺毛細血管(ガス交換)→肺静脈→左心までの経路のことをいいます。
肺循環は通常、低圧(肺動脈圧は平均10~20mmHg)ですが、何らかの原因で平均肺動脈圧が25mmHg以上となった場合を、肺高血圧症(PH;pulmonary hypertension)といいます(図1)。
肺動脈圧が急激に上昇すると右心室は対応できず、右心不全となります。一方、肺動脈圧が徐々に高くなった場合は、右心室の肥大によって収縮力を高め、代償しようとします。しかし、高い肺動脈圧が持続すると肺血管が障害され、代償できなくなり、心拍出量が低下し、右心不全となります。進行性の予後不良な疾患です。
肺高血圧症(PH)の主なリスク因子(表1)と臨床分類(表2)は下記のとおりです。
memo:アイゼンメンジャー(Eisenmenjer)症候群
左右シャント性の先天性心疾患により肺高血圧となり、左右シャントが出現した状態。
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患者さんはどんな状態?
右心不全と、低酸素血症による症状が出現します(表3)。
低酸素血症による症状は、COPD、先天性心疾患などに伴う肺高血圧症でみられます。
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どんな検査をして診断する?
心エコーにてスクリーニングを行い、結果よりPHが疑われる場合には、左心性心疾患・肺疾患によるものを考慮し、一般的な検査を進め、右心カテーテル検査により確定診断します(表4、図2)。その後、病型診断を行います。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)を考慮するときには、換気血流シンチグラフィにより肺全体の血流を可視化し、換気血流ミスマッチ(換気はあるが血流が途絶している状態)を確認します。さらにCTEPHを疑うときには、肺動脈撮影を行います。
酸素化・予備機能に対する検査の目的は表5です。
急性肺血管反応性試験を行う場合は、陽性であればカルシウム拮抗薬を、陰性であれば肺血管拡張薬を投与します。
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どんな治療を行う?
薬物療法
肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対しては、肺血管拡張薬(表6)を単独または併用して投与していきます。
PAHでは、微小肺血管での血栓形成が認められるため、経口抗凝固薬の内服を考慮します。しかし、エポプロステノール(プロスタサイクリン誘導体)持続静注使用中の患者さんには、出血のリスクが高いため、抗凝固薬の使用は推奨されていません。
PAH以外については、原疾患の治療を勧めます。
PHに伴う右心不全に対しては利尿薬を使用します。トルバプタンを使用する際には、電解質や脱水による低血圧・低心拍出量症候群に注意していく必要があります。少量の強心薬を使用することもあります。
酸素療法
酸素吸入は肺血管抵抗を減少させるため、在宅酸素療法(HOT)を行います。
肺移植、外科的治療
薬物療法で効果が得られない55歳未満の進行例では、肺移植(脳死肺移植、生体肺移植)を検討します。
CTEPHにおいては、肺動脈血栓摘除術やカテーテルによるバルーン肺動脈形成術を行う場合もあります。
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看護師は何に注意する?
突然の胸痛、呼吸困難、低酸素血症症状を呈するため、ほかの呼吸器疾患との鑑別が必要となります。
症状の観察
バイタルサイン・呼吸状態の観察を行います。特に右心不全による症状に注意します。
右心不全による症状では体内への水分貯留が起こるため、定期的に体重測定を行うことで評価しやすくなります。利尿薬を内服している場合には、体重が利尿薬の効果の指標になります。
薬剤管理
肺血管拡張薬投与時には、投与方法に応じた指導を行います。薬剤師との協働により適切な投与が行えるように指導していくことで、薬物療法の継続に対する支援を行います。
特にプロスタサイクリン誘導体の持続静注(図3)を行っている患者さんに対しては、在宅持続静注療法への切り替えを行っていく必要があるため、家族への指導とともに、訪問看護との連携も図っていきます。
退院支援
感染をきっかけに急性増悪を起こすこともあるため、感染予防の指導や、インフルエンザや肺炎球菌の予防接種について確認を行います。
症状の進行によっては社会生活が困難となるため、社会・心理的サポートが必要となります。社会資源の活用に対する支援や仕事の継続に対する支援、病状や予後に対する精神的な支援のほか、意思決定支援を行います。
避妊の指導
PAHの患者さんは、妊娠・出産における死亡率が高くなっています。そのため、基本的に妊娠は避けることを推奨し、避妊についての指導を行います。
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肺高血圧症(PH)の看護の経過
肺高血圧症(PH)の看護の経過は以下のとおりです(表7-1、表7-2、表7-3、表7)。
表7-1 肺高血圧症(PH)の看護の経過(発症から入院・診断)
表7-2 肺高血圧症(PH)の看護の経過(入院直後・急性期)
表7-3 肺高血圧症(PH)の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社