特発性間質性肺炎(IIPs)
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は特発性間質性肺炎(IIPs)について解説します。
佐野由紀子
さいたま赤十字病院10F西病棟看護師長
慢性呼吸器疾患看護認定看護師
特発性間質性肺炎(IIPs)とは?
間質性肺炎は、肺間質の線維化によって拘束性換気障害(肺が広がらず、容量が減少)と拡散障害をまねき、呼吸困難を呈する疾患です(図1)。
原因不明の間質性肺炎の総称を、特発性間質性肺炎(IIPs;idiopathic interstitial pneumonias)といいます(表1)。
特発性間質性肺炎は慢性型と急性型に分かれ、多くは慢性型です。急性型は呼吸不全が急速に進行し、数週~数か月で死亡することも多くあります。
肺胞性肺炎と間質性肺炎の違いは図2のとおりです。
主要な特発性間質性肺炎は、病理組織パターンによって6つに分類されています(表2)。中でも特発性肺線維症(IPF;idiopathic pulmonary fibrosis)が最も多く、半数以上を占めています。
特発性間質性肺炎の急性増悪
特発性間質性肺炎はゆっくりと経過しますが、経過中に急速に呼吸不全が進行する急性増悪が起こります(図3)。急性増悪が起こると、1~2か月で致死的状態に陥ることが多く、予後不良で50~80%の死亡率と報告されています。
急性増悪は原因不明と定義されていますので、原因が明らかな肺炎、敗血症、心不全、気胸などを判別、治療することが重要です。気管支肺胞洗浄(BAL;bronchoalveolar lavage)、肺生検、薬剤、手術により生じることもあります。
気管支鏡を用いて、肺の一部に生理食塩水を入れ、回収した液体を検査する。肺に関する疾患の診断に用い、主にびまん性肺疾患の診断に実施する。
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患者さんはどんな状態?
特徴的な症状として、乾性咳嗽、労作時呼吸困難があります。
間質の炎症や線維化により肺活量が低下し、肺拡散能の低下が起こります。
聴診では、両下肺野を中心に呼気終末時に捻髪音(fine crackles)が聴取できます。
身体所見では、ばち指を認めます。
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どんな検査をして診断する?
X線:粒状影・網状影が両肺の下肺野の外側優位にびまん性にみられます(図4)。また、拘束性換気障害により肺の容量が減少するため、横隔膜が挙上します。
CT:両肺底部に蜂巣肺を認めます。
生検:問診、身体所見、呼吸機能検査などで特発性間質性肺炎が疑われるものの、蜂巣肺などがみられず典型的な所見が得られない場合は、気管支肺胞洗浄(BAL)、経気管支肺生険(TBLB)や外科的肺生検(SLB;surgical lung biopsy)を検討することがあります。近年はクライオバイオプシー(TBLC;transbronchial lung cryobiopsy)を検討することもあります。
血液検査:KL-6、SP-D、SP-A、LDHなどの上昇は、間質性肺炎の鑑別に有用です。また、間質性肺炎の活動性を反映するため、病状経過の判断に用いることができます。
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どんな治療を行う?
根治的な治療法はなく、進行を遅らせる治療や、対症療法が中心となります。
特発性肺線維症(IPF)の安定期は、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)による治療を行います。
ステロイドの反応が良好なパターンには、ステロイドや免疫抑制薬などが選択されます。
労作時呼吸困難が特徴的で急激な酸素飽和度の低下がみられるため、安静時に比べ酸素流量の増量を必要とする場合があります。労作時の酸素飽和度の観察を行い、適切な酸素流量を設定することが重要です。
急性増悪時の治療
急性増悪時にはステロイドパルス療法に加え、免疫抑制薬などが用いられます。
急性増悪時に人工呼吸器管理を選択した場合は、酸素化に加え、肺が硬く膨らみにくくなっているため、気道内圧の観察が重要となります。また、ステロイドや免疫抑制薬などの使用により人工呼吸器関連肺炎(VAP)のリスクも高まるため、感染対策が必要です。
特発性間質性肺炎の臨床病理学的疾患名と治療反応性は図5のとおりです。
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看護師は何に注意する?
急性増悪は予後不良です。初期は感冒様症状や軽い症状で始まることもあるので、受診行動、日常生活の管理、指導が重要となります。
生活指導
日常生活:規則正しい生活によって過労や睡眠不足による身体への負担を減らすことができます。
禁煙:喫煙は悪化を促進するため、禁煙は咳嗽の軽減、体重減少の防止、感染防止の観点から重要です。
感染予防:インフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種を行い、インフルエンザシーズンには人ごみへの外出を控えるよう指導します。急性増悪は上気道感染がきっかけとなることが多いので、手洗い、含嗽の励行が重要です。
温度・湿度:安定した室温と適度な湿度を保つようにします。冬季におけるマスク着用は気道の加湿のため効果的とされています。
食事:バランスの取れた食事を少量ずつ、複数回に分けて摂取します。過食によって横隔膜が挙上して呼吸困難感が増強することがあります。就寝前の食事や飲酒は誤嚥を起こしやすく肺感染症併発の原因となりうるので、できるだけ避けるように指導します。肺高血圧症を合併している患者さんにおいては、右心不全の合併に注意して塩分制限を行い、下肢の浮腫、急な体重増加に注意します。
排便:便秘、腹部膨満は横隔膜を圧迫し、呼吸困難を増強させ、食事摂取にも悪影響を及ぼします。排便時のいきみも呼吸困難を増強させることがあるため、食事内容や緩下剤による排便コントロールは重要です。
薬物療法のケア
ステロイド薬や免疫抑制薬による副作用の観察、抗線維化薬のうちピルフェニドンでは光線過敏症に対しての生活指導が重要となります。
memo:光線過敏症
日光により過度の日焼けやかゆみ、色素沈着を起こす。対策としては、長袖の着用、帽子や日傘の使用、日焼け止め(SPF50+、PA+++)を使用し、紫外線にあたらないようにすることなどがある。
在宅酸素療法(HOT)のケア
労作時に酸素飽和度の低下がみられるため、労作時の酸素飽和度を観察し、酸素流量を決定することが重要です。
呼吸リハビリテーション
間質性肺炎に対する呼吸リハビリテーションの有効性が報告され、呼吸困難や健康関連QOLの改善が可能であるとされています。
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特発性間質性肺炎の看護の経過
特発性間質性肺炎の看護の経過は以下のとおりです(表3-1、表3-2、表3-3、表3)。
表3-1 特発性間質性肺炎の看護の経過(発症から入院・診断)
表3-3 特発性間質性肺炎の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社