非結核性抗酸菌症
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は非結核性抗酸菌症について解説します。
佐野由紀子
さいたま赤十字病院10F西病棟看護師長
慢性呼吸器疾患看護認定看護師
非結核性抗酸菌症とは?
抗酸菌のうち、結核菌とらい菌以外の菌を非結核性抗酸菌(NTM;nontuberculous mycobacteria)といいます。これらによる感染症を、非結核性抗酸菌症といいます。
NTMは水や土壌などの自然環境に生育しており、ヒトからヒトには感染しません。
非結核性抗酸菌症の主な原因菌をみると、Mycobacterium avium(アビウム)と、Mycobacterium intracellulare(イントラセルラーレ)を合わせたMycobacterium avium complexが約80%、Mycobacterium kansasii(カンサシ)が約10%を占めています。
Mycobacterium avium complexによる感染をMAC症といいます。
memo:MAC症
中高年の女性に多い結節・気管支拡張型、呼吸器疾患(特に陳旧性肺結核、COPDなど)をもつ男性に多い線維空洞型、比較的若年層に多い過敏性肺炎型、孤立結節型、全身播種型の5つに大別され、近年では結節・気管支拡張型が急増している。
既存の呼吸器疾患に続発することも多くみられます。
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患者さんはどんな状態?
呼吸器症状:咳嗽、喀痰、血痰、喀血、労作時の呼吸困難がみられます。
進行例では微熱、全身倦怠感がみられます。
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どんな検査をして診断する?
画像検査:X線、CT検査を行います(図1)。結節・気管支拡張型は中葉・舌区に気管支拡張を伴う多発小結節影がみられ、線維空洞型では上葉に空洞影がみられます。過敏性肺炎型は両側にびまん性の粒状影、すりガラス陰影がみられます。
細菌検査:塗抹、培養、PCR検査により菌種同定を行います。
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どんな治療を行う?
抗結核薬などの多剤併用療法による長期間の投与が必要となります。
一般的に肺結核症より難治で、有効な薬剤がなく完治が得られないことも多いですが、Mycobacterium.kansasii は薬物療法のみで完治が見込めます。
治療効果増強と耐性菌の出現防止を目的に、MAC症はクラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトールの3剤、Mycobacterium kansasiiでは、イソニアジド、リファンピシン、エタンブトールの3剤を使用した多剤併用療法を行っていきます。
治療効果は、喀痰検査によって判定します。排菌が停止しても空洞や気管支拡張病変の残存があり、再発の危険性が高いと判断された場合や、薬物療法に抵抗性がある場合、急激な進行を認める場合は、外科療法も考慮されます。
外科的治療を施行する場合、肺葉切除が主体となります。根治治療ではなく、病状のコントロールが目的となります。術前術後の薬物療法は欠かすことができません。
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看護師は何に注意する?
画像診断による肺結核症との判別が困難な場合は、PCR検査の結果が出るまでは肺結核症の可能性を考慮し、入院は個室隔離して感染防止対策をとっておきます。
痰の自己喀出が困難な場合は、自己喀出ができるように体位ドレナージを行うほか、吸引を行い気道クリアランスを図ります。呼吸が楽な姿勢の調整も行いましょう。
薬物療法開始後は、副作用の出現を観察します。
長期間の薬物療療法が必要となり、再発することもあるため、精神的なサポートが必要となります。
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非結核性抗酸菌症の看護の経過
非結核性抗酸菌症の看護の経過は以下のとおりです(表1-1、表1-2、表1-3、表1)。
表1-1 非結核性抗酸菌症の看護の経過(発症から入院・診断)
表1-3 非結核性抗酸菌症の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社