肺結核症

『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は肺結核症について解説します。

 

 

佐野由紀子
さいたま赤十字病院10F西病棟看護師長
慢性呼吸器疾患看護認定看護師

 

 

肺結核症とは?

肺結核症は、結核菌による呼吸器感染症です。感染症法で2類感染症に指定されており、診断後はただちに保健所に届け出なければなりません。

 

memo:結核菌

Mycobacterium tuberculosis 。抗酸菌は、結核菌群と非結核性抗酸菌に分類される。通常の染色では染まらないが、抗酸菌染色(蛍光法やZiehl-Neelsen法)で染まる菌のことを結核菌という。染色された菌が酸やアルコールで脱色されにくいという特徴がある。


結核登録者数は、令和元(2019)年末現在は34,523人であり、前年より2,611人減少していますが、罹患率は先進国の中では最も高くなっています(表1)。また、70歳以上では増加が続いています。

 

表1 2018年の結核罹患率

2018年の結核罹患率

 

最近では、HIV感染をはじめとする免疫不全の合併症として注目されています。

 

感染経路は、飛沫核感染空気感染)です。

 

初感染後、比較的早期に発病する一次結核と、初感染後長時間経ってから発病する二次結核(既感染の発症)があります(図1)。多くは既感染であり、そのほとんどが成人です。

 

図1 一次結核(初感染)と二次結核(既感染)

一次結核(初感染)と二次結核(既感染)

 

 

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患者さんはどんな状態?

80%以上が自覚症状で発見され、呼吸器症状や全身症状がみられます。

呼吸器症状:咳嗽(2週間以上続く)、喀痰、血痰、喀血、胸痛がみられます。
全身症状:発熱、寝汗、全身倦怠感、体重減少がみられます。

 

 

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どんな検査をして診断する?

画像検査:X線、CTを行います。
細胞検査:塗抹、培養、核酸増幅法(PCR検査)、菌種同定、薬剤感受性(全菌の薬剤に対する耐性菌の割合を測定し、薬剤の感受性を確認します)。
病理検査乾酪性肉芽腫図2)を伴う類上皮細胞が特徴的で、抗酸菌染色で菌が確認されれば、結核菌あるいは非結核性抗酸菌による病変と判断できます。

 

図2 乾酪性肉芽腫

乾酪性肉芽腫

 

memo:類上皮細胞

上皮細胞に類似した細胞。

 

インターフェロンγ遊離試験(クオンティフェロン®検査)、ツベルクリン反応検査で、接触者検診や感染の診断を行います(表2)。

 

表2 インターフェロンγ遊離試験とツベルクリン反応検査

インターフェロンγ遊離試験とツベルクリン反応検査

 

これらはスクリーニング検査で、体内に結核菌が存在する可能性を示すのみであるため、結核が疑われた場合は、診断のための検査を実施します(図3)。

 

図3 肺結核症のX線、CT

肺結核症のX線、CT

 

図4は結核の診断フローチャートです。

 

図4 結核の診断フローチャート

結核の診断フローチャート

日本呼吸器学会:咳嗽に関するガイドライン 第2版,メディカルレビュー社,東京,2012:37.より転載(2020.12.01アクセス)
※ 塗抹陰性の培養陽性例においては、結核のみだけではなく非結核性抗酸菌症の可能性もあるため、PCR検査を追加して確定診断をするよう努めます。

 

 

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どんな治療を行う?

抗結核薬などの多剤併用療法による長期間の投与が必要となります。

 

患者さんの治療を行うとともに、他者への感染防止耐性化防止も重要となります。

 

薬物療法

治療の目的は、病理学的に治癒に導くのではなく、肺結核症の症状緩和と、後遺症の防止、残存菌による再発率の低下にあります。

 

結核菌にはどの薬剤に対しても一定の確率で自然耐性菌が存在していることが知られています。菌量の多い治療初期での単剤投与は耐性菌の増殖をまねくため、感受性のある薬剤を複数使用した多剤併用療法を行います。

 

標準治療では、リファンピシン(RFP;rifampicin)もしくはリファブチン(RBT;rifabutin)、イソニアジド(INH;isoniazid)およびピラジナミド(PZA;pyrazinamide)3剤と、エタンブトール(EB;ethambutol)もしくはストレプトマイシン(SM;streptomycin)のいずれか1剤が用いられます(図5)。

 

図5 結核の標準治療

結核の標準治療

日本結核病学会治療委員会:「結核医療の基準」の改訂—2018年.Kekkaku 2018,93(1):64.より作成(2020.12.01アクセス)

 

結核治療中、結核菌が耐性化する大きな原因としては、患者さんの不規則な内服が挙げられるため、DOTS療法が非常に重要となります。

 

memo:DOTS療法

directly observed treatment short course(直接服薬確認療法)。長期間の複数薬剤の内服が必要となるため、不規則な投与や中断を防ぐ目的で、第3者による内服支援を行う。入院中から外来、院外薬局による通院、自宅訪問による残薬チェック、電話などによる服薬確認などが行われる。

 

 

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看護師は何に注意する?

塗抹検査陽性の場合は、結核と非結核抗酸菌症の診断が未定であっても、結核疑いとして空気感染予防対策を実施します。

 

長期に及ぶ薬剤治療となるため、副作用の出現の観察や、適切な内服管理が重要となります。

 

体力や免疫力低下により再び発症することもあるため、体力の維持に努める指導も重要です。

 

感染対策

飛沫核感染(空気感染)するため、感染対策を徹底します(図6)。

 

図6 喀痰抗酸菌塗抹陽性患者さんへの感染対策

喀痰抗酸菌塗抹陽性患者さんへの感染対策

 

memo:陰圧室

室内の気圧を低くして、空気感染する病原体が室外に流出しないようにした部屋。

 

服薬管理

内服薬の不規則な投与や中断を防ぐため、内服の管理が重要となります。

 

抗結核薬の副作用を観察します(表3)。

 

表3 抗結核薬の副作用

抗結核薬の副作用

 

排痰の援助

痰の自己喀出が困難な場合は、自己喀出ができるように体位ドレナージを行うほか、吸引を行い気道クリアランスを図ります。呼吸が楽な姿勢の調整も行いましょう。

 

 

リハビリテーション

呼吸リハビリテーションを実施します。二次結核症は高齢者や免疫力が低下している患者さんが多く、呼吸リハビリテーションによる適切な栄養管理、運動などを実施していく必要があります。

 

 

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肺結核症の看護の経過

肺結核症の看護の経過は以下のとおりです(表4-1表4-2表4-3表4)。

 

表4-1 肺結核症の看護の経過(発症から入院・診断)

肺結核症の看護の経過(発症から入院・診断)

 

表4-2 肺結核症の看護の経過(入院直後・急性期)

肺結核症の看護の経過(入院直後・急性期)

 

表4-3 肺結核症の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)

 肺結核症の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)

 

表4 肺結核症の看護の経過

※横にスクロールしてご覧ください。

肺結核症の看護の経過

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社

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