気管支拡張症

『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』より転載。
今回は気管支拡張症について解説します。

 

 

佐野由紀子
さいたま赤十字病院10F西病棟看護師長
慢性呼吸器疾患看護認定看護師

 

 

気管支拡張症とは?

気道系疾患では、気道に慢性的な炎症が生じ、気道の防御機能低下や気道の過敏性の亢進が起こります。これにより、気道の狭窄による気流制限や、気道の閉塞をまねく病態となっています。

 

気道系疾患の一つである気管支拡張症は、先天異常または感染症、免疫異常などによって気道の感染と炎症を繰り返し、気管支および細気管支が不可逆的に拡張した病態です。

 

気管支拡張症の主なリスク因子と感染経路は表1のとおりです。

 

表1 気管支拡張症の主なリスク因子と感染経路

 

主に細菌感染による慢性気道炎症から気道閉塞をきたしやすくなり、気道閉塞によって細菌繁殖が起こります。生体の反応によりサイトカインが産生され、気道損傷が増悪し、さらに細菌が定着するという悪循環が生じてしまいます(図1)。

 

図1 気管支拡張症の病態

気管支拡張症の病態

 

難治性の呼吸器感染症を伴い、その結果呼吸機能の悪化と、時に予後不良な経過をたどります。

 

代表的な原因疾患として、囊胞性線維症があります。そのほか原発性線毛機能不全症候群、小児期呼吸器感染症後気管支拡張症、近年では非結核性抗酸菌症に伴う気管支拡張症が増加しています。

 

memo:囊胞性線維症

膵臓や消化管、汗腺、生殖器、気道など外分泌に機能異常をきたす疾患遺伝子の異常によるもの。痰が粘稠となって排出しにくくなり気道感染を繰り返し、気管支拡張症を引き起こす。日本ではまれ。欧米で多くみられる。

memo:原発性線毛機能不全症候群

気道の上皮などに存在する線毛の機能異常により気道の防御機能が低下し、気管支拡張症や慢性副鼻腔炎を生じる病態。

 

 

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患者さんはどんな状態?

慢性的な多量の喀痰(膿性~血性)、時に血痰喀血が生じます。

 

鼻閉、後鼻漏、嗅覚障害などがあります。

 

痰を常に伴う湿性咳嗽や後鼻漏を伴う症例では、水泡音(coarse crackles)を聴取することがあります。

 

 

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どんな検査をして診断する?

気管支拡張症の検査は以下のとおりです(図2)。

 

CT:0.5~1.0mmスライス厚の高分解能CT(HRCT;high-resolution computed tomography)の普及によって診断精度が上がっています。
X線:軽度の病変は描出されず、進行すると気管支壁の拡張および肥厚を示す画像となります。
気管支鏡検査:出血部位や病変検索のために行われます。

 

図2 びまん性気管支拡張症(カルタゲナー症候群)のX線、CT

びまん性気管支拡張症(カルタゲナー症候群)のX線、CT

 

memo:カルタゲナー症候群

原発性線毛機能不全のうち、慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、内臓逆位を3徴とする疾患。

 

 

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どんな治療を行う?

薬物療法

気管支拡張症の程度が軽度で限局している場合は、対症療法を実施します。持続的な喀痰や咳嗽の症例では、去痰薬や気管支拡張薬や抗コリン薬の吸入などを行います。

 

びまん性汎細気管支炎(DPB)と同様に、気管支炎制御目的のためマクロライド系抗菌薬の少量長期療法(6か月~2年)も考慮します。

 

気道炎症の制御目的で、ステロイドの吸入をする場合もあります。

 

肺炎球菌やウイルスなどによる急性増悪時は、マクロライド系抗菌薬を継続投与しながら、起炎菌に対する薬剤を1~2週間投与します。重症例では入院のうえ、点滴投与が考慮されます。

 

気管支動脈塞栓術

喀血に対して、基本的には止血剤を投与しますが、危機的な喀血に対しては、血管造影下での気管支動脈塞栓術にて止血する場合があります(図3)。

 

図3 気管支動脈塞栓術

気管支動脈塞栓術

 

外科的治療

気管支拡張症が限局しており、その部位に起因する症状が内科的治療では十分コントロールできない場合にはその部位の切除も考慮されます。

 

囊胞性線維症、原発性線毛機能不全症候群では肺移植も適応になります。

 

その他の治療法

低酸素に対する在宅酸素療法(HOT)を含めた酸素療法や、痰の喀出を容易にする体位ドレナージを行います。

 

 

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看護師は何に注意する?

気道はガスの輸送路となっているため、閉塞により危機的な状況に陥る可能性があり、すみやかに閉塞を解除する必要があります。長期の薬剤治療が必要なため、服薬指導や症状コントロールなどセルフケア支援が重要となります。

 

気管支拡張症は先天的な気管支機能の障害によるものと、慢性副鼻腔炎慢性扁桃炎、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症などによって生じることがあるので、既往を聴取しておく必要があります。

 

高頻度に喀血がみられる疾患であるため、喀痰の観察は重要となります。大量の喀血による窒息を起こさないよう、喀出した血液や血痰は必ず吐き出すように指導しましょう。また、患側が明らかな場合は、患側が下の側臥位にして、健側へ血液の流入を防ぎます。

 

マクロライド系抗菌薬などの適切な内服、吸入の支援を行い、慢性炎症のコントロールを図ります。

 

去痰薬や気管支拡張薬の適切な内服、吸入の支援により、気道分泌物の排出を促します。

 

慢性的に多量の痰(膿性~血性)が喀出されるため、自己喀出ができるように体位ドレナージネブライザーを実施します。自己喀出が困難な場合は適宜吸引を行います。呼吸が楽な姿勢の調整も行いましょう。

 

冬季には、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種してもらいます。

 

喫煙者には禁煙を指導します。

 

 

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気管支拡張症の看護の経過

気管支拡張症の看護の経過は以下のとおりです(表2-1表2-2表2-3表2)。

 

表2-1 気管支拡張症の看護の経過(発症から入院・診断)

気管支拡張症の看護の経過(発症から入院・診断)

 

表2-2 気管支拡張症の看護の経過(入院直後・急性期)

気管支拡張症の看護の経過(入院直後・急性期)

 

表2-3 気管支拡張症の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)

気管支拡張症の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)

 

表2 気管支拡張症の看護の経過

※横にスクロールしてご覧ください。

気管支拡張症の看護の経過

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社

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