吸引
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は吸引について解説します。
勅使河原育美
さいたま赤十字病院ICU看護師
呼吸療法認定士
どんな治療?
吸引とは、痰などの分泌物が十分に自己喀出できない患者さんに対して、鼻腔・口腔・気道からカテーテルを用いて機械的に分泌物を除去することをいいます。
正常でも痰は50~100mL/日産生されていますが、そのほとんどが唾液とともに嚥下されたり、蒸発したり、吸収されたりするため、痰として喀出されることはほとんどありません。
しかし、肺炎などにより炎症が起きると、痰の産生量が増加し、1,000mL/日以上産生されることもあります。
痰が貯留し続けることで、窒息、無気肺、ガス交換障害、肺炎、気道抵抗の上昇などをまねきます。そのため、痰や異物を気道から取り除くことにより、気道が塞がれることなく、開放された状態を保つようにします。
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看護師は何に注意する?
吸引とは、痰や分泌物を取って終わりではなく、吸引の準備・手技の実施・実施後の観察・アセスメント・感染管理を一連の流れで行います。
吸引には鼻腔・口腔・気管の損傷、出血やそのほかの合併症のリスクがあるため、十分にアセスメントしてから行う必要があります(表1、表2)。まずは自己喀痰を促し、それでも十分に痰や分泌物を喀出できない場合に実施しましょう。
memo:ラトリング
胸郭を手で触れたとき、痰などの分泌物が呼吸により振動として触知できるもの。
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吸引の実際
口腔・鼻腔吸引の流れとポイント
1)実施前の準備
吸引が必要な状況か、アセスメントを行います。
吸引には苦痛が伴うため、実施前に必ず患者さんに声かけをします。
医療者は、痰などの飛沫に曝露されないように個人防護具(マスク、ゴーグル、手袋、エプロン)を着用し、菌やウイルスを運ぶ媒介者とならないよう、吸引の実施前後は必ず手指衛生を行います(図1、表3、図2)。
図1 個人防護具(PPE;personal protective equipment)
2)吸引圧の設定
吸引圧は、成人の場合13~20kPa(100~150mmHg)に設定します(図3)。
吸引カテーテルはふさいだ状態で設定圧を確認します。
3)吸引の実施
吸引カテーテルを接続し、吸引を実施します。注意点は表4です。
1回の吸引にかける時間は10秒以内とし、吸引カテーテルの挿入から抜去までの時間は15秒以内になるようにしましょう。1回で十分に痰や分泌物が吸引できないときは、呼吸状態を観察しながら複数回に分けて吸引し、1回にかける吸引時間を守りましょう。
吸引カテーテルを口腔・鼻腔内に挿入するときは吸引圧をかけずに挿入します。
注意! 見えない部分に吸引圧をかけたままカテーテルを挿入すると、粘膜を損傷する可能性があります。
4)通水
カテーテル内に通水用の水を流し、カテーテル内の痰や分泌物を吸引セット内に移動させます。
痰や分泌物の粘度が高いときは、数回、通水用の水を吸引します。
5)吸引終了
使用した物品を片づけます。
患者さんの呼吸状態が吸引をしたことで悪化していないか、または改善したかを観察します。
手指衛生を実施します。
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開放式気管吸引の流れとポイント
人工呼吸器管理中の患者さんに行う気管吸引には、開放式と閉鎖式の2種類があります。開放式気管吸引は、人工呼吸器の回路を一旦はずし、気道を開放した状態で行います。
1)実施前の準備
吸引が必要な状況か、アセスメントを行います。
吸引には苦痛が伴うため、実施前に必ず患者さんに声かけをします。
医療者は、痰などの飛沫に曝露されないように個人防護具(マスク、ゴーグル、手袋、エプロン)を着用し、菌やウイルスを運ぶ媒介者とならないよう、吸引の実施前後は必ず手指衛生を行います(表5)。
2)カフ上部の吸引
気管内に痰や分泌物が垂れ込まないよう、気管よりも先に口腔・鼻腔・カフ上部を吸引します( 口腔・鼻腔・カフ上部吸引の順序に決まりはありません)(図4)。
吸引ポートの吸引口に粘膜が接着し吸引できないときは、無理に吸引しないようにしましょう。
3)吸引圧の設定
吸引圧は、成人の場合13~20kPa(100~150mmHg)に設定します。
吸引のカテーテルはふさいだ状態で設定圧を確認します。
4)気管カニューレからの吸引
気管カニューレが事故抜去されないように注意しながら、気管カニューレと人工鼻の接続部を外します(図5、図6)。外した回路は、不潔にならないようにします(滅菌手袋に付いていた紙の上にのせるとよいです)。
吸引に使用するための滅菌手袋を装着し、気管に入る部分のカテーテルは清潔に保ちます。
気管カニューレの長さを考慮し、カテーテルを挿入します(図7)。
吸引カテーテルは必要以上に奥に入れると気管分岐部にあたって気管を損傷し、出血や潰瘍形成につながる可能性があります。
1回の吸引にかける時間は10秒以内とし、吸引カテーテルの挿入から抜去までの時間は15秒以内になるようにしましょう。1回で十分に痰や分泌物が吸引できないときは、呼吸状態を観察しながら複数回に分けて吸引し、1回にかける吸引時間を守りましょう。
5)外した回路の再装着
外した人工鼻を再装着します。
6)通水
カテーテル内に通水用の水を流し、カテーテル内の痰や分泌物を吸引セット内に移動させます。
痰や分泌物の粘度が高いときは、数回、通水用の水を吸引します。
7)吸引終了
使用した物品を片づけます。
患者さんの呼吸状態が吸引をしたことで悪化していないか、または改善したかを観察します。
手指衛生を実施します。
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閉鎖式気管吸引の流れとポイント
閉鎖式の気管吸引カテーテルを使用することで、気管チューブと回路を開放せずに吸引ができます(表6)。基本的な手順は、開放式気管吸引と同様です。
1)閉鎖式吸引カテーテルのコントロールバルブのロックを解除
コントロールバルブを180度回して、コネクティングチューブを吸引バルブに接続し、コントロールバルブを押して吸引圧がかかるか確認をします(図8)。
2)閉鎖式吸引カテーテルを挿入する
気管チューブと閉鎖式吸引カテーテルの接続部位は外れやすいため、接続部を把持し、吸引カテーテルを気管内に進めます。
注意! 吸引による苦痛や閉鎖式吸引カテーテルを挿入した違和感で、患者さんの体動が激しくなる場合があり、思わぬ気管チューブの抜去につながる可能性があります。
吸引カテーテルの先端が気管チューブから1~2cm出るように進めます(図9)。
3)吸引カテーテルを抜く
コントロールバルブを押して吸引圧をかけながら吸引カテーテルを引き抜きます。
気管チューブの先端から吸引カテーテルが飛び出した部分で吸引するときが、気管分岐部に貯留した痰を最もよく吸引できます。ここに少し時間をかけ、気管チューブ内に吸引カテーテルがあるときは、患者さんの苦痛や、酸素投与下では投与されている酸素を吸引することにつながるため、すばやく引き抜くようにします。
4)通水
吸引カテーテルのマーカーがスリーブ内にくるまで引き抜きます(図10)。
洗浄液注入ポートより、洗浄水を注入します。このときに必ず、マーカーがスリーブ内にあることを確認しましょう。
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社