甲状腺機能低下症

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は甲状腺機能低下症の検査・治療・看護について解説します。

 

牛久清美
東海大学医学部付属八王子病院看護部主任

 

 

甲状腺機能低下症とは?

甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの分泌が低下することにより、一過性あるいは永続性に基礎代謝が低下し、さまざまな症状をきたす疾患です(図1)。

 

図1甲状腺機能低下症の病態

図1甲状腺機能低下症の病態

 

女性に多く発症します。

 

原因は不明な部分もありますが、橋本病、亜急性甲状腺炎、下垂体性甲状腺機能低下症、クレチン症などがあります(表1)。また、ヨードの摂りすぎによっても甲状腺機能は低下します。

 

memo:ヨード

甲状腺ホルモンの主原料で、主に昆布・わかめ・のりなどの海藻類に多く含まれている。

 

表1甲状腺機能低下症の原因疾患

表1甲状腺機能低下症の原因疾患

★1 thyroid-stimulating hormone

 

 

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患者さんはどんな状態?

甲状腺機能低下症の症状は図2のとおりです。

 

図2甲状腺機能低下症の症状

図2甲状腺機能低下症の症状

 

精神機能の低下により、意欲の低下記憶力の低下抑うつ状態がみられます。

 

初期は身体症状が出ないこともあり、疲労や更年期障害・うつ病と間違われやすく、確定診断がつきにくいです。

 

身体症状としては、便秘徐脈体重増加易疲労感、体温低下による悪寒浮腫嗄声脱毛肌の乾燥や、手足の裏が黄色になるカロチン血症が出現します。

 

 

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どんな検査をして診断する?

血液検査、甲状腺の触診、超音波検査、CTを行います(表2)。

 

表2甲状腺機能低下症の検査

表2甲状腺機能低下症の検査

 

 

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どんな治療を行う?

一過性の場合

症状が軽度の場合は、治療の必要はありません。

 

症状が強度の場合は、合成T3製剤を数か月間投与し、経過を観察します。

 

永続性の場合

合成T4製剤を投与します。用量は、少量から維持量になるまで数か月かけて調整します。

 

下垂体性甲状腺機能低下症の場合は、外科的治療を行います。

 

フキダシ:甲状腺機能低下症の治療を中断・放置すると…動脈硬化が生じやすくなり、心筋梗塞につながります意識喪失や失神発作などが起こります妊婦の場合は、胎児に精神発達遅延が生じやすくなります

 

 

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看護師は何に注意する?

ADLに対する支援

活動性の低下を認めた場合、ADLが低下しないよう支援をします。日中は覚醒し夜間は睡眠できるよう、生活リズムを考慮したかかわりをします。

 

ADLが低下した場合、筋力が低下して、転倒・転落のリスクが上昇します。ベッド周囲の環境整備を行い、転倒・転落の防止に努めます。

 

精神症状に対する支援

認知機能の低下を認めた場合は、脳活性化リハビリテーションの考えに基づいた看護を行います。快刺激が患者さんの笑顔を生むため、患者さんが嫌がることはせず、楽しめたり、喜べたりするかかわりが大切です。患者さんと視線を合わせ、対等な立場で相手の意見を尊重して聞きます。

 

身体症状に対する支援

身体的機能の低下を認めた場合は、低下した部位・機能に合わせた看護をします。患者さんの能力を活かして、その人にできる活動の機会や場を提供します。できたことは称賛し、失敗は未然に防いで、失敗体験を積ませないように支援します。

 

便秘に対しては水分摂取を促し、温罨法・マッサージを行うほか、適度な運動を勧めます。

 

浮腫がある場合は体重の測定を行い、IN・OUTバランスを把握します。体重増加がみられてIN OVERが継続し、心負荷の可能性がある場合は、医師に報告します。

 

徐脈がある場合は心電図モニターを装着し、波形の経過観察を行います。

 

低体温がある場合は、保温をします。

 

失神発作が出現して意識レベルが低下する可能性もあるため、注意して観察していきます。

 

退院支援

入院日から、本人・家族より家での暮らしについて情報収集します。情報を踏まえて「やりたいこと」「できること」の折り合いを付けて目標を設定します。

 

医師、看護師、リハビリテーションスタッフ、MSW、薬剤師、管理栄養士などとのチームで、目標に向かって「その人らしい暮らし」ができるようサポートします。

 

ADLが低下した場合は、入院中から介護認定の申請、ケアマネジャーや訪問看護ステーションなどとの契約を進めます。すでにケアマネジャーや訪問看護ステーションと契約している場合は、連絡をとり、患者さんの現在の状態と、退院後の注意点などの情報交換を行います。

 

退院前には服薬指導栄養指導の機会を設定し、退院後の不安を改善し、生活のイメージができるような援助を行います。特に、内服薬は飲み忘れないよう指導を行います。

 

自宅でも行えるようなリハビリテーションを紹介します。

 

 

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看護のポイント

多くの症状が出現するため、全身症状や精神症状のケアに加え、日常生活援助が必要となります。また、髄膜炎や麻痺といった神経症状の出現に注意して観察を行っていきます。麻痺や意識障害がある場合は、転倒・転落の防止も重要となります。

 

 

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甲状腺機能低下症の看護の経過

甲状腺機能低下症の看護を経過ごとにみていきましょう(表3)。

 

表3甲状腺機能低下症の看護 一覧

表3甲状腺機能低下症の看護

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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