頭部外傷
『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は頭部外傷の分類や看護のポイントについて解説します。
西山久美江
東京純心大学看護学部看護学科講師
急性・重症患者看護専門看護師
頭部外傷とは?
頭部外傷は、頭部に外力が直接あるいは間接的に加わって頭皮、頭蓋骨、脳実質に生じる損傷です(図1)。
★1 急性硬膜外血腫
★2 脳挫傷
★3 急性硬膜下血腫
★4 慢性硬膜下血腫
受傷機転は、交通事故、転倒・転落が多く、重症度は意識障害の程度(軽症:GCS 13点以上、中等症:GCS 9~12点、重症:GCS8点以下)で判定されます。
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頭部外傷の全体像
頭部外傷はなぜ起こる?
脳は頭蓋骨で保護され、脳脊髄液が衝撃を吸収してくれますが、それ以上の外力が加わると損傷します。
出血や脳実質の損傷によって頭蓋内圧が亢進すると、脳ヘルニアとなり生命危機に陥ります。
どのように分類する?
機械的外力そのものによって生じる一次性脳損傷と、受傷後に引き続いて全身あるいは頭蓋内の要因が悪化することで生じる二次性脳損傷(血腫による脳の圧迫、脳浮腫、頭蓋内血腫、頭蓋内圧亢進、脳虚血)があります(図2)。
頭部外傷の主なリスク因子は表1のとおりです。
頭皮の損傷
頭皮は血管が豊富で、裂傷では出血量が多くなります。頭皮の静脈は頭蓋骨、頭蓋内の静脈と交通しており、逆流防止弁がないことから、感染が加わると炎症は頭蓋内に進展しやすいため、異物や挫滅組織を取り除き、創部の洗浄や消毒を正しく行っていく必要があります。
頭蓋骨の損傷
頭蓋骨骨折は、損傷部位によって円蓋部骨折と頭蓋底骨折に分けられます(図3)。
頭蓋円蓋部骨折には、線状骨折、陥没骨折があります(図4)。線状骨折は、骨折線が中硬膜動脈や静脈洞を横切っているときは、硬膜外血腫となる可能性があり、陥没骨折は、外力が局所的に加わったときに生じ、成人では粉砕骨折となり、硬膜や脳を損傷することが多いです。
頭蓋底骨折(図5)では、皮下出血、鼻出血、耳出血、髄液漏、気脳症(図6)や、損傷を受けた神経に由来する麻痺が現れます。
●前頭蓋底:
Ⅰ 嗅神経
●中頭蓋底:
Ⅱ 視神経
Ⅲ 動眼神経
Ⅳ 滑車神経
Ⅴ 三叉神経
Ⅵ 外転神経
●後頭蓋底:
Ⅶ 顔面神経
Ⅷ 内耳神経
Ⅸ 舌咽神経
Ⅹ 迷走神経
Ⅺ 副神経
Ⅻ 舌咽神経
硬膜・クモ膜・脳表の損傷
頭部外傷により硬膜の外側(頭蓋骨と硬膜の間)に出血するものが硬膜外血腫で、硬膜動脈の断裂により生じることが多いです(図7)。
硬膜下(硬膜とクモ膜の間)に出血するものが硬膜下血腫で、損傷部位の脳の血管や、架橋静脈の断裂により生じます。
memo:外傷性クモ膜下出血
脳挫傷、びまん性脳損傷、椎骨動脈の破裂により外傷性クモ膜下出血が生じることがある。
脳の損傷
一次性脳損傷は、局所性脳損傷とびまん性脳損傷に分けられます。
局所性脳損傷は、画像上損傷部位が局所的に存在しているものです。外力が限局的に加わって発生する場合や、頭蓋に加速・減速の衝撃が生じたときに頭蓋骨内で脳が移動し、前頭葉先端や側頭葉先端が頭蓋骨と衝突して脳損傷を起こします。
びまん性脳損傷は、受傷時に意識障害があるが画像上頭蓋内に病変を認めないもので、外傷時に頭蓋内で脳全体が激しく動くことで、広範囲にわたって脳が損傷されます。
二次性脳損傷は、受傷後に時間の経過とともに発現する脳の損傷で、血腫の増大による脳の圧迫、脳浮腫、脳内血腫などによって、放置すれば頭蓋内圧が亢進し脳ヘルニアとなります。
患者さんはどんな状態?
頭皮のみの裂傷で出血を主として受診する患者さんや、意識障害のみられる患者さんなど、状態はさまざまです。軽症のように見えても、受傷後早期に病状が大きく変化し、急変する可能性もあります。
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看護師は何に注意する?
急性期
患者さんの搬入後は、バイタルサイン、意識レベルを把握しつつ、気道確保がされているか確認し、酸素投与や、必要に応じて気管挿管、人工呼吸管理を行います。同時に静脈ルートを確保し、血圧管理、必要に応じてショック対応など循環管理を行い、全身状態の安定化を図ります。
並行して本人あるいは目撃者から受傷機転、受傷時の状況や、その後の経過などを可能な範囲で情報収集しつつ、画像診断を行います。
意識障害を伴う場合、頸椎損傷が否定されるまでは頸椎の保護を行います。
病状が変化しやすいことを念頭に、継続的にバイタルサイン、意識レベル、瞳孔所見、四肢の動きなどを観察します。
慢性期
意識障害が遷延している患者さんでも、特に小児や若年の患者では、回復してくることもあります。栄養管理や感染、DVT、廃用症候群などの合併症予防に努めるとともに、根気よく外部からの良質な刺激を与え、意識レベルの回復をめざします。
脳が広範囲に破壊された頭部外傷では、後遺症として多様な障害が残る場合が多いです。機能回復、就労、社会参加までをめざしたリハビリテーションを継続して行っていくことが重要となります。
頭部外傷後の合併症として、外傷性てんかんをきたすことがあります。
memo:外傷性てんかん
受傷後8日以後に発症する晩期てんかんであり、多くは受傷後1年以内に出現する。晩期てんかんに対する抗けいれん薬の予防効果は明らかでないといわれている。
頭部外傷後の後遺症として、高次脳機能障害を認めることがあります。受傷後に身体機能は回復したにもかかわらず、注意障害や、行動・情緒の障害、前向性健忘、遂行機能障害、パーソナリティの変化などの症状が現れ、社会復帰が妨げられることがあります。患者さんの様子の観察や訴えに耳を傾け、家族からも患者さんの言動面の変化や病前との違いについても確認することが重要です。各専門職がチームとなって、患者さんや家族を支援し、治療やリハビリテーションを行っていきます。
退院支援
画像上異常所見を認めず、意識や神経所見にも異常を認めない患者さんは、帰宅の指示となります。その際には文書(表2)を手渡して、帰宅後も生活行動や注意観察が必要であること、異常が生じた際に受診してもらうことを患者さん・家族に指導します。
表2受傷後の注意についての文書の例(東海大学医学部付属八王子病院の場合)
入院が必要であった患者さんも、急性期を脱したら自宅への退院あるいはリハビリテーション病院、施設などへの転院を検討します。患者さんの生活背景を考慮した生活指導や、家族にも患者さんの状況を現実的に把握してもらい、協力が必要であるということを認識してもらいます。また社会資源の活用方法なども紹介します。
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看護のポイント
予後の規定は、受傷時の機械的外力そのものによって生じる一次性脳損傷のみならず、受傷後に引き続いて生じる二次性脳損傷が大きな要因となります。二次性脳損傷を最小限にとどめるため、いかに迅速に変化をとらえ対応するかが重要となります。
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頭部外傷の看護の経過
頭部外傷の看護を経過ごとにみていきましょう(表3-1、表3-2、表3-3)。
看護の経過の一覧表はこちら。
表3-3頭部外傷の看護の経過 一般病棟、自宅療養(外来)に向けて
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社