脳腫瘍の放射線治療

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は脳腫瘍の放射線治療や看護のポイントについて解説します。

 

小澤真由美
東海大学医学部付属八王子病院看護部副主任

 

 

脳腫瘍の放射線治療とは?

頭部への放射線照射の対象疾患は、脳腫瘍が主となります。脳腫瘍には、原発の悪性腫瘍と、転移性の悪性腫瘍があります。

 

脳腫瘍には多くの種類があり、種類と大きさなどにより、照射の目的や方法が違います(表1図1図2)。

 

また、組織型によって照射範囲が異なります。脳腫瘍には全脳照射だけでなく、全脳全脊髄照射の適応となるタイプの腫瘍もあります。

 

表1脳腫瘍の種類と治療法

表1脳腫瘍の種類と治療法

 

memo:Gy(グレイ)

放射線治療で用いられる単位。吸収線量といわれ、放射線が物質(人体も含む)に当たったときにどれくらいのエネルギーが吸収されたかを表す。

 

memo:ガンマナイフ

ガンマ線を脳深部の病変に集中して照射する治療法。周囲の正常脳組織への放射線の影響を最小限におさえる。

 

図1放射線の照射範囲

図1放射線の照射範囲

 

図2脳腫瘍の種類と部位

図2脳腫瘍の種類と部位

 

対象となる年齢も小児から高齢者まで広く、照射の目的も根治や症状緩和、緊急照射など多岐にわたります。

 

フキダシ:脳腫瘍をもつ患者さんは、生命維持に直結する機能障害や意識障害、神経学的障害、麻痺などを有するため、不安や苦悩が強くなります。治療に対する不安をもつ患者さんや家族も少なくないため、十分な説明とサポートを行う必要があります

 

 

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看護師は何に注意する?

放射線治療前の看護のポイント

放射線治療を受ける患者さんは、がんという病気そのものに対する不安だけでなく、さまざまな不安を抱えている場合が多いです。看護師は、患者さんが放射線治療に対しどのような不安を抱いているのかモニターし、介入していく必要があります。

 

たとえば、放射線に対して、熱い、焼けるといった誤ったイメージや、自分が放射線治療を受けることで周囲の家族などが被曝するのではといった不安をもっていることもあります。正しい知識を伝え、内容に応じて適切に介入することで、不安の軽減に努めます。

 

照射前から意識レベルけいれん麻痺の状態を観察しておきます。治療による有害事象と原疾患による症状の変化を早期に鑑別し、適切な対応をするためです。

 

意思決定への援助

治療方法の選択は、症状が出現し緊急を要する場合と、予防的な照射(肺がんの脳転移予防など)の場合があります。緊急の場合には、機能的に患者さんの意思決定が困難な場合もあるため、家族を含めた治療選択への支援が必要になります。

 

晩期有害事象である認知症では、治療の効果により治ったとしても、患者さん・家族は、その後にコミュニケーションが困難であるなどのイメージをもち、不安を増強することがあります。そのため、正しい知識を提供することが大切です。

 

治療にかかる日数や費用、治療法についても、常に相談できる環境を提供しましょう。

 

精神的な苦痛に寄り添う

意識障害、神経障害、麻痺などにより、患者さんは身体的な苦痛のみならず、精神的な苦痛を感じています。治療を開始しているにもかかわらず、脳浮腫などによる嘔気や視野欠損、錐体外路症状が出現すると、患者さんや家族は病状が悪化しているのではないかという恐怖が強くなります。そのため、有害事象についての指導や、患者さん・家族が気持ちを表現できる環境の調整が必要となります。

 

memo:錐体外路症状

無動、振戦、筋強剛、姿勢保持障害などの症状のことで、これらの症状を2つ以上有する場合にパーキンソニズムといわれる。

 

患者さんは、失禁や徘徊などの行動の変化が生じると、苦痛を強いられたり、意図しない行動により自尊心が傷ついたりする場合があります。患者さんの尊厳が失われないような医療者の声かけが必要です。

 

家族支援

神経症状の出現があるため、家族はその様子を受け入れることへの戸惑いを感じます。患者さんと家族の尊厳が失われないような配慮と支援が必要です。

 

放射線治療の流れと看護のポイントを図3に示します。

 

図3放射線治療の流れと看護のポイント

図3放射線治療の流れと看護のポイント

 

memo:シェル

シェルは、ホットプレートや恒温装置で70℃前後に加温すると軟化する性質をもつ、熱可逆性合成樹脂でできている。
照射野をシェルに書き込むことができ、患者さんの顔にマーキングせずに済むことが利点である。

 

 

放射線照射後の看護のポイント

シェルの使用は放射線皮膚炎の増強因子となるため、使用部位を注意して観察します。

 

全脳照射による有害事象は一過性のことが多く、晩期有害事象の出現も少ないといわれています。しかし、神経症状を伴うことで不安が増強する場合が多いため、その点を含めたケアが必要になります(表2)。

 

表2全脳照射の有害事象

表2全脳照射の有害事象

 

memo:放射線照射後の脳浮腫

治療により腫瘍が反応することで一時的に出現することがある。脳浮腫により神経症状の増悪や悪心・嘔吐が生じると、患者さんは苦痛を感じるうえ、病状が悪化しているのではないかと不安になることがある。そのため、一時的な症状であることを説明し、早期に副腎皮質ステロイドや高浸透圧利尿薬の投与を行って症状軽減を図る。

 

日常生活への留意点と患者指導

有害事象を予防するためのケアを行うとともに、患者さんが日常生活の中で行える予防策を指導します(表3)。

 

表3有害事象と予防策

表3有害事象と予防策

★1 脳浮腫、頭蓋内圧亢進
★2 けいれん
★3 高次脳機能障害

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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