脳卒中リハビリテーション

『本当に大切なことが1冊でわかる脳神経』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は脳卒中リハビリテーションについて解説します。

 

奈良枝実
元東海大学医学部付属八王子病院看護部
難波 優
東海大学医学部付属八王子病院看護部

 

 

発症後早期からのリハビリテーションが重要

脳卒中はわが国の死因第4位(平成30年[2018年]人口動態統計より)であり、65歳以上の要介護者で介護が必要となった原因の第2位です。早期からリハビリテーションを開始し、ADLの維持向上に努め、また、介助量の軽減へとつなげる必要があります。

 

「脳卒中ガイドライン2015 追補2017対応」によると、廃用症候群を予防し、早期のADL向上と社会復帰を図るために、十分なリスク管理のもと、できるだけ発症後早期から積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められています1)

 

脳卒中リハビリテーションの主な内容

座位訓練

座位訓練は、体幹筋の強化、脊椎骨の骨粗鬆症予防、心肺負荷の軽減、心理的退行変化の予防などが期待できます(図1)。

 

はじめて座位をとるときは、必ず血圧や脈拍数などのバイタルサインをチェックし、起立性低血圧に注意して様子をみながら徐々に座位時間を長くしていきます。

 

memo:起立性低血圧

座位訓練の際は、起立性低血圧に注意が必要。血圧の低下は座位後5分程度で出現するため、血圧測定を行い、状態変化に注意しながら離床する。

 

図1座位訓練の例

図1座位訓練の例

 

立位訓練

立位訓練は、主に両下肢および股関節周囲筋の筋力強化を図ります(図2)。座位の耐久性が向上し、体幹筋の筋力強化や、バランス感覚の向上が達成されたのちに行います。体力がなく、易疲労性のある患者さんが多いため、一度に長くたくさんの訓練を行うよりも、無理のない範囲で、短く時間を区切って繰り返すと効果的です。

 

図2立位訓練の例

図2立位訓練の例

 

歩行訓練

歩行訓練を行うことで、患者さんの筋力やバランス能力は飛躍的に改善する可能性があります(図3)。

 

歩行訓練時は、患者さんの健側で手すりや杖を持ってもらい、看護師は患側について見守りや、脇の下を軽く支えるなどの援助を行います。

 

図3歩行訓練の例

図3:歩行訓練の例

 

摂食嚥下訓練

摂食嚥下訓練は、1)食物を用いずに行う間接訓練、2)実際に食物を用いる直接訓練に分けられます。これらを適切に行い訓練することによって、栄養不良や脱水、誤嚥、食べる楽しみの喪失という問題を改善します。

 

セルフケア訓練

片麻痺のある患者さんの場合、利き手ではない側でセルフケアを行う場合もあり、セルフケアの獲得には時間を要します(図4)。

 

日常生活援助のなかで、患者さんの身体的特徴や効果的な介助方法を把握し、自立を促し、過度な援助とならないよう注意します。患者さんが毎日繰り返し行うなかで、自分に合ったセルフケア方法を確立することが大切です。

 

図4片麻痺のある患者さんの更衣の方法

図4片麻痺のある患者さんの更衣の方法

 

離床が制限されている患者さんの場合

神経学的所見が増悪している場合や、離床することによって症状が悪化する危険性が高い場合は、安静の保持が大切です。

 

病棟では離床が制限されている患者さんに対しては、バイタルサインや神経学的所見に留意しながらベッド上でポジショニング図5図6)や関節可動域(ROM)訓練図7)などを行い、拘縮予防に努めます。

 

体位変換を行い、適宜ポジショニングを行うことで褥瘡予防にもつながります。

 

図5ポジショニングの例

図5ポジショニングの例

 

図6ウェルニッケ・マン姿勢

図6ウェルニッケ・マン姿勢

 

図7関節可動域(ROM)訓練

図7関節可動域(ROM)訓練

 

重度の麻痺があり、自力座位保持が困難な患者さんの場合

座位は日常生活動作を行うにあたっての重要な基本動作であり、リハビリテーションを進める第一歩となります。

 

車椅子乗車背面開放座位訓練などを実施し、リハビリテーションだけではなく肺炎予防や覚醒を促すかかわりも必要です。

 

一般的には、車椅子への移乗・乗車を始める前に、ベッド上ギャッチアップによる座位訓練を行い、段階的に身体を慣らしていきます。

 

麻痺や意識障害により協力動作が得られない場合は、全介助が必要となります(図8)。

 

一方、指示理解が良好で協力動作が得られる場合には部分介助となります。

 

麻痺側の下肢がベッド柵やフットレストに引っ掛かり損傷しないよう、注意が必要です。

 

図8自力座位保持が困難な患者さんの移乗の方法

図8自力座位保持が困難な患者さんの移乗の方法

 

軽度の麻痺やふらつきが強い患者さんの場合

歩行器や4点杖などを使用した歩行訓練を行います(図9)。

 

歩行訓練では、新たに生じた障害のある身体の動かし方を学ぶことが重要です。理学療法訓練で指導された正しい順番と方法で反復して練習することで、安定した歩行動作を早く獲得することにつながります。

 

小脳失調症状が残存している患者さんはふらつきや嘔気が強いため、医師と内服薬の検討を行い、離床できるようなかかわりが必要です。

 

図9歩行訓練のイメージ

図9歩行訓練のイメージ

 

 

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摂食嚥下リハビリテーション

「脳卒中ガイドライン2015 追補2017対応」によると、脳卒中の急性期では約70%の例で嚥下障害を認めるとあります1)。麻痺の出現や先行期の問題などにより食事摂取が困難であり、経管栄養が開始となる患者さんも少なくありません。

 

食べるという行為は、さまざまな筋肉や神経、臓器が必要であり、食事そのものがリハビリテーションにもつながります。

 

患者さん・家族からは、「食事だけが唯一の楽しみ」「なるべく口から食べさせたい」という言葉が多く聞かれます。つらい療養やリハビリテーションの中で少しでも楽しみになるものがあるのは大切なことです。看護師やリハビリテーションスタッフは患者さん・家族の楽しみを見いだしながら長期的目線でかかわる必要があります。

 

嚥下訓練には間接訓練直接訓練があり、患者さんの状況に合わせて実施します。

 

 

間接訓練

間接訓練は、基礎訓練ともいい、食物を用いずに行う訓練です(図10)。医療者が主導で行う「他動間接的嚥下訓練」と、患者さん側が主となって行う「自動間接的嚥下訓練」に分けられます。

 

主に誤嚥が疑われる患者さんや意識状態が安定しない患者さん、麻痺や構音障害が残存している患者さんなどに対する最初のアプローチとなります。

 

直接訓練と併行して行う場合もあります。

 

具体的には口腔ケアや深呼吸、首・肩・体幹の運動を行い、筋肉をほぐしリラクゼーションを目的とした嚥下体操、スポンジブラシを用いた口腔体操、頸部可動域訓練、構音訓練、喉頭挙上訓練、前舌保持訓練、のどのアイスマッサージなどを行います。

 

日ごろ行っている看護ケアの中で間接訓練を取り入れる工夫をすることで、日常業務の中でも患者さんの嚥下機能にしっかりアプローチすることができます。

 

図10間接訓練

図10間接訓練

 

直接訓練

直接訓練は、食物を用いた訓練のことです(図11)。

 

食品調整や姿勢の調整、体幹角度の調整、交互嚥下や複数回嚥下の促しなどを行います。

 

食品や姿勢によって誤嚥する可能性があるため、むせこみや咽頭残留、声の変化など注意深く観察する必要があります。

 

むせずに誤嚥する場合もあります(不顕性誤嚥)。これは嚥下造影検査をしなければわかりません。

 

発熱の有無や呼吸音、痰の性状など、全身状態を観察しながらリハビリテーションを進めていきます。

 

図11直接訓練

図11直接訓練

 

memo:不顕性誤嚥

睡眠中や無意識のうちに唾液が気道に流れ込むもので、異物が気道に入ったときに起こる「咳き込み」や「むせ」などの反射がみられないのが特徴。誤嚥のサインとして以下のようなものがあげられる。

  • 顔色が悪くなる
  • 呼吸パターンの変調がある
  • 喉もとで痰がからむ
  • 音がする
  • 食後に咳や痰の量が増える

 

 

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廃用症候群を予防する

廃用症候群とは

廃用症候群とは、過度の安静や活動低下により身体に生じるさまざまな状態のことを指します(図12)。

 

図12廃用症候群の例

図12廃用症候群の例

 

筋肉は使わないと線維が縮んで細くなり、筋力が低下します。また、質も変化し疲労しやすくなります。絶対安静の状態では、1週間で10~15%の筋力が低下するといわれています。

 

高齢者であれば、さらに全身の機能が低下すると考えられます。運動が不足すると心機能も低下します。

 

寝たきりの状態である患者さんが急に起き上がることによって、起立性低血圧を引き起こすこともあります。起立性低血圧がある患者さんに対しては徐々にベッドをギャッチアップしたり、弾性ストッキングを着用したり、バイタルサインに注意しながら離床し、廃用症候群の予防に努めます。

 

認知症、うつ、発動性低下などの精神活動低下も、廃用症候群の概念に含まれています。

 

memo:発動性低下

自発的に活動する意欲が低下し動けなくなった状態。

 

廃用症候群予防のポイント

認知機能や活動性の低下などにより、昼夜逆転や不穏状態になることもあるため、生活リズムを整えるかかわりが重要です。

 

日常生活リズムをつけるため、食事摂取時は椅子に座る、日中の覚醒を促す、散歩をして外の景色を見る、頭や身体を動かすなど、認知機能低下の予防に努めましょう。

 

リハビリテーションの時間だけが廃用症候群の予防ではありません。更衣や車椅子の乗車などの日常生活動作すべてが予防につながります。日々のケアの中でも過剰な援助はせず、患者さん自身で身体を動せるような援助を行いましょう。大切なことは介護をするのではなく、セルフケアを援助し、ADLの自立を促すことです。

 

 

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症状に合わせて療養生活を調整する

麻痺がある場合

脳卒中の患者さんは麻痺が残存し、利き手が不自由になる場合があります。

 

食事をとる動作が困難なときは、柄を太くし、持ちやすい・食べやすい形状のスプーンを使用する、皿が滑らないように滑り止めシートを使用するなど、食具・食器の工夫が必要です(図13)。

 

図13麻痺がある患者さんの食事

図13麻痺がある患者さんの食事

 

半側空間無視がある場合

半側空間無視がある患者さんの場合は、食事を見せ、どこに何があるかを把握してもらいましょう(図14)。

 

見える範囲にセッティングするなどの配慮を行い、なるべく自分で食事摂取ができるようにかかわります。

 

図14半側空間無視がある患者さんの食事

図14半側空間無視がある患者さんの食事

 

memo:半側空間無視

視力に障害はないが、脳の障害により空間の片側だけ認識ができない状態のこと。

 

 

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回復期・慢性期もリハビリテーションを継続する

急性期を脱した後は、回復期、慢性期へと移行します。自宅での生活に向け、リハビリテーションは長期にわたり必要となります。リハビリテーションを継続し、目標が達成できるよう医療者は患者さん・家族とゴールを決め、サポートします。

 

在宅で排泄や入浴は可能か、家事ができるか、寝室環境はどうかなど、在宅環境やマンパワーの確認をし、それぞれの家庭に合ったリハビリテーションを行うことが大切です。そのためにはリハビリテーションスタッフや医師、MSW、看護師、ケアマネジャー、家族とカンファレンスを実施し、その人のADLや今後の方向性、必要な支援などを考えていく必要があります。

 

できるADLと、しているADLの差が生じている場合があるため、なるべく自分でできることはしてもらい、今後をふまえたかかわりが必要です。そのためにも看護師間での情報共有や評価、かかわり方の検討も必要です。指導や励まし、精神的サポートを通じて患者さんの残存機能を最大限に生かし、社会復帰やADL・QOLの維持・向上が図れるよう支援しましょう。

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 脳神経』 編集/東海大学医学部付属八王子病院看護部/2020年4月刊行/ 照林社

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