患者さんが転んでしまったとき、どのように起き上がらせ、介助するとよい?|介助のポイント

『エキスパートナース』2015年9月号<根拠に基づく転倒予防Q&A>より転載。
転んでしまったとき、どのように起き上がらせ、介助するとよい?について解説します。

 

柗下紗矢佳
国立病院機構東名古屋病院リハビリテーション科

 

転んでしまったとき、どのように起き上がらせ、介助するとよい?

転んでしまったとき、どのように起き上がらせ、介助するとよい?

 

〈目次〉

 

患者を安全に床から起こすことは、介助者の身体の安全も守ること

入院中の患者の転倒や、車いす・ベッドからの転落事例は少なくありません。起居や移乗、歩行などの介助を行うなかで、特に患者を床から起こす場合は、患者の身体機能レベルや転倒時の環境によって介助量が変化します。

 

そこで、臨床現場で役立つ「床からの立ち上がらせ方・起こし方」の具体的な内容を紹介していきます。

 

また、医療現場では、介助時の腰痛が原因で体を壊し退職される方も多くみられます。安全に患者を起こすための前提として、はじめに介助時の腰痛予防対策についても紹介したいと思います。

 

介助による腰痛への対策「重心を接近させる」

介助者の腰痛対策は非常に重要です。腰椎はただ前屈しただけで腰痛になるわけではありません。直立姿勢を基準にしたとき、20°以上の前屈み姿勢(図1)になるだけで第3腰椎への負担が約1.5kgに、さらにその姿勢で20kgの重りを持つと負担は約2.2倍 になるといわれています(1)

 

図120°以上の前屈み姿勢

20°以上の前屈み姿勢

 

そのため介助時の腰痛対策方法として、「腰椎前屈の状態で持ち上げない、長時間その状態でいない」ということに気をつける必要があります。

 

腰椎に負担をかけない持ち上げ方は、図2(右)のような方法です。介助場面では患者と介助者の重心の位置が近づくように行うことが、腰痛予防対策として重要です(2)

 

図2腰に負担をかけずに患者を起き上がらせる方法

腰に負担をかけずに患者を起き上がらせる方法

 

床からの立ち上がり介助の方法①:いすを用いる方法(図3

床からの立ち上がり介助の方法の1つ目は、「いすを用いる方法」です。この介助方法は、床からの立ち上がり動作のなかで最も安全性が高いものです。

 

床に手をついたまま立ち上がる動作方法もありますが、転倒する患者の多くは、健常者と同じような筋力や関節可動域、バランス能力を満たしていない可能性が高いので、安全面や患者の負担を軽くするためにも、つかまって立ち上がることのできるいすや台を、患者の近くに置くことがポイントとなります。

 

部分的な介助のみを行うので介助者の負担も軽減されますが、ある程度の患者の理解力と協力動作が必要となるため、事前に患者の身体状況の把握も重要です。

 

図3いすを用いた床からの立ち上がり介助の方法

いすを用いた床からの立ち上がり介助の方法

 

 

床からの立ち上がり介助の方法②:前方(図4―①)・後方からの介助(図4―②

床からの立ち上がり介助の方法の2つ目は前方・後方からの介助です。

 

前方・後方からの介助は、以下のときに適応となります。

 

  • 近くにいすや台など支えとなるものがない環境下にある場合
  • 軽介助~中等度介助レベルの、立ち上がりのタイミングに合わせた下肢の踏んばりの協力動作が得られる患者の場合

前方か後方かは、転倒時の環境や患者の状態、また介助者の介助しやすい方を実践するなどして使い分けるとよいでしょう。

 

図4―①前方から介助で起こす方法

前方から介助で起こす方法

 

図4―②後方から介助で起こす方法

後方からの介助で起こす方法

 

床からの立ち上がり介助③:2人介助(図5

床からの立ち上がり介助の方法の3つ目は「2人介助」です。この介助方法は、全介助レベルの患者が適応となります。

 

無理に1人で起こそうとすると、腰痛を発生させる要因となったり、患者を起こしきれずに、再度転倒させてしまったりというような2次被害が生じる恐れがあります。そうした場合にこの方法を用いるようにします。 

 

また患者の体型や重量が介助者よりも大きい場合も、無理をせず2人、もしくは2人以上の介助を行うようにしましょう。

 

図52人介助で起こす方法

2人介助で起こす方法

 

 

練習によって介助技術とともに方法の“選択眼”を身につける

繰り返しになりますが、床からの立ち上がり方と起こし方の介助方法は、患者の身体機能レベルにより変化し、患者と介助者の「体型」「重量」「重心の位置の関係」「転倒時の環境」によっても変化します。

 

紹介した介助方法を参考に、まずは介助者同士で練習し、転倒時の状況にあった適切な介助方法を選択して、患者と介助者ともに安全・安楽な介助方法を実践できるようにしましょう。

 


[引用文献]

 

  • (1)田中義行:介護職の腰痛予防と悪化を防ぐラクラク介護技術.高齢者安心安全ケア 実践と記録 2014;12(2):35.
  • (2)田中義行:潜在力を引き出す介助.中央法規出版,東京,2010:91-93,218-219.

[参考文献]

 

  • (1)福本正明:写真とイラストですぐ分かる! 安全・やさしい介護術.西東社,東京,48-51.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

P.117~121「転んでしまったとき、どのように起き上がらせ、介助するとよい?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2015年9月号/ 照林社

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