「摘便」をうまくやるコツは?「浣腸」との併用の注意点も

自力で排泄できない患者さんの便を出すための摘便浣腸
「なぜ、先輩たちはうまくできているのか。そのコツを知りたい」-。そう思ったことありませんか?

はじめに、ある研究グループが報告した、看護師が経験を通して考えだした摘便のコツを紹介します。
便の硬さによって指の使い方を変えるのがポイントです。

 

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便が硬い場合の摘便のコツ

前述の方法は、日本看護技術学会の技術研究成果検討委員会の「グリセリン浣腸研究グループ」が紹介したものです。訪問看護師の観察調査時に、ある訪問看護師さんが実際に行っていた方法で、先日開かれた学術集会の交流セッションの場で報告されました。

 

便が硬い場合には、指の腹側を便の塊にひっかけ、便がちぎれないように、そっとたぐり寄せながらかき出します。塊が大きければ、できるだけ肛門の近くまで引き寄せてから、少しずつ崩してかき出します。そうすれば、手が届きにくい位置に便が残ってしまう事態を避けることができるといいます。

 

また、便が硬いと、便そのものが肛門や痔核に当たり、出血を起こしやすいため、事前に緩下剤で便の性状を調整しておくことも、スムーズに実施するコツの一つです。

 

便が軟らかい場合の摘便のコツ

一方、便が軟らかい場合には、指が便をすり抜けてしまい、指に便をひっかけることができません。そのため、人差し指の爪側に便を乗せ、爪側から手の甲に向かって押し出すようにします。その動作を何度か繰り返します。

 

参加者からは、「便が軟らかい場合は何度もかき出す必要があるが、手の甲側に乗せる方法であれば、腸の粘膜を傷つけずに済むので理にかなっているのではないか」との意見が聞かれました。

 

 

摘便と浣腸の併用リスク

グリセリン浣腸研究グループは、2006年に日本看護協会がグリセリン浣腸の緊急安全情報を通達したのをきっかけに活動を開始しました。立位でのグリセリン浣腸による腸管穿孔の報告が相次いだためです。

 

研究グループはその後も、安全な浣腸や摘便などの排便ケアについて考える取り組みを続け、2011年には活動報告をまとめた小冊子「グリセリン浣腸Q&A(2015年に改訂)を公表。学会のホームページ上で掲載し、注意喚起を呼びかけています。

 

そのQ&Aのなかで目を引くのが、グリセリン浣腸と摘便を併用する危険性について指摘されている点です。

 

研究グループによると、グリセリン浣腸を実施すると、グリセリン液による化学的刺激で、直腸粘膜の上皮が一部脱落し、その回復に24時間を要するそうです。また、その状態で摘便を行うと、弱っている粘膜を傷つけ、そこからグリセリン液が血管に入り、溶血や穿孔を起こす危険性があるため、グリセリン浣腸と摘便の併用は避けた方がよいとしています。

 

併用回避の推奨は、基礎研究や事故事例の分析などを元に示された見解で、現在のところ、ガイドラインや指針などにはなっていません。しかし、不要な併用を避けるなど、一考の余地はあるでしょう。

 

 

摘便と浣腸を併用せざるを得ない理由

とはいえ、摘便と浣腸のどちらかだけで便を出すことが難しいケースがあるのも事実です。

 

実際、前述の交流セッションでも、高齢の患者さんや、脊髄損傷の患者さんなど、自分で腹圧をかけることができない患者さんには、浣腸と摘便を併用せざるを得ないとの意見が複数ありました。

 

また、研究グループの2016年の調査でも、便を出しきれないときにグリセリン浣腸と併用している方法として、摘便が120人(90.9%)と1位でした。看護の現場で必要とされていている排便ケアであることがわかります。

 

 

浣腸と摘便を併用する理由としては、本人や家族の希望が一番多かったものの、ナース自身が判断しているケースも多くみられました。

特に、訪問看護の現場では、便が残り続けることによる患者さんの不快感や介護者の負担を懸念して、限られた時間の中で排便ケアが実施されていることも要因のようです。

 

 

 

摘便と浣腸を併用する場合、どちらを先にすべき?

 

そこで、冒頭の摘便のコツの話に戻ります。どうしても浣腸と摘便を併用せざるを得ない場合、その手技を工夫することで、多少のリスクを減らせるのではないか。研究グループはそう考えたといいます。交流セッションでは、その可能性や現場での現状について話し合われました。

 

話し合いの中で、浣腸と摘便を併用する場合にどちらを先にするかが話題に上がりました。意見としては、訪問看護師が到着する前に介護者が浣腸を事前に実施しておくというケースもあれば、病棟のケアで摘便をしても便が下りてこない場合には浣腸をするというケースもありました。どちらが先かは現場によってまちまちで、今のところ共通見解があるわけではないことがわかりました。

 

研究グループの吉田みつ子さん(日本赤十字看護大学)は、「摘便をすると粘膜を傷つける可能性が非常に高いので、摘便をして粘膜が傷ついているところに浣腸液が入ったら、恐らく血中に浣腸液が入っていって、有害事象が起きるのではないか」と話し、摘便による粘膜損傷のリスクを指摘しました。

 

研究グループの栗田愛さん(人間環境大学)も、「粘膜を傷つけると、そこからグリセリン液が血液内へ移行した場合に、溶血や腎機能障害の原因になることも解明されています」と説明。しかし、ケアの現場では先に摘便をするケースもあることから、「まずは損傷を起こさない方法での排便ケアが重要です」と強調しました。

 

また、研究グループの武田利明さん(岩手県立大学)は、「問題となった事例の詳細情報を得るのが難しく、腸管穿孔を起こした際の看護師の手技がどうであったのか、その実態がなかなかつかめない」といい、そもそも原因を追究するのが難しいと明かしました。

 

***

 

浣腸や摘便は、日常的に行われるケアです。しかし、そこにひそむリスクや安全な方法について、看護師みんなで広く情報を共有していく必要があるのではないでしょうか。

 

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

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