Q&Aでわかる 「何かあればナースコール」では説明不足?

看護師さんにとって、医療事故や医療訴訟は決して他人事ではありません。
第1話と第2話では、「入浴中に患者さんが熱傷で死亡してしまった事例」を元に解説してきました。
ここでは、看護師の皆さんが、法律について疑問に思うことをQ & A(Question & Answer)形式で解説します。
第3話は、「看護師の説明義務」についての「Q & A」です。

 

 

大磯義一郎谷口かおり
(浜松医科大学医学部「医療法学」教室)

 

入浴について「介助を付す義務」「浴室設備などの説明義務」「入浴看視の義務」の3つの義務が大切だということを学んでいただけたと思います。
そういえば、普段、患者さんに異常があった場合はどうするようにと伝えていますか?

 

私は、「何かあったらすぐにナースコールを押してくださいね」と伝えています。
多分、先輩も同僚もみんな一緒だと思います。

 

その言葉はよく聞きますが、本当にそれだけで良いんでしょうか?
ここで、看護師さんの説明義務について具体的に解説します。

 

看護師の説明義務とは何か? 「何かあればナースコール」は不適切?

看護師さんの説明義務って何ですか?
例えば、「何かあったらナースコールを押してください」というのは適切な説明ではありませんか?

 

看護師さんの業務である「療養上の世話」では、直接的に医療を提供することはありません。
しかし、患者さんが医療を受けるうえで、安全・安楽に療養できるように、適切かつ具体的に説明し、理解を得られるように努めなければならないという点で説明義務があります。
「何かあったらナースコールを押してください」は、抽象的・包括的であり、十分な説明ではありません。

 

看護師の説明義務

 

看護師にとって便利な言葉でも、患者さんにとっては不十分

検査や処置、看護ケアなど、あらゆる場面において、看護師さんには説明義務が伴います。

 

「何かあったら教えてください、または、ナースコールしてください」という言葉は、臨床現場でよく使われますし、忙しい看護師さんにとっては便利な言葉です。しかし、患者さんにとってはどうでしょう? 「何かあったら」は、患者さんそれぞれの解釈になりますし、「どういうことが何かあったらに当たるのか?」と疑問を持つ患者さんは多いようです。

 

患者さんがきちんと理解できるように、わかりやすい言葉で、具体的に説明することが大切です。

 

患者さんの受け取り方には違いがあるため、理解したかどうかの確認が必要

本件でも、「何かあったらナースコールで呼んでください」という声掛けが、説明義務に値するか問われていました。看護師さんなど、医療者側の「何かあったら」は身体的なことだけでなく、本件の場合には「浴室の使い方がわからなかったり、介助が必要だと思ったらナースコールをしてください」という意味が込められていました。

 

しかし、患者さんの立場にしてみれば、「使い方がわからない」ぐらいでナースコールを押して看護師を呼ぶことは躊躇しますし、患者さん個人の受け取り方によって大きく左右されるため、十分な説明であるとは言えません。

 

患者さんがきちんと理解できたかどうかを確認することが大切です。

 

memo法律に記されている説明義務(医療法第1条の4、2項)

医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は医療を提供するにあたり、適切かつ具体的な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るように努めなければならない。

 

Point!

  • 患者さんがわかりやすいよう具体的に示そう。
  • 患者さんがきちんと理解できたか、確認しよう。

 

⇒『ナース×医療訴訟』の【総目次】を見る

 


[執筆者]
大磯義一郎
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 教授
谷口かおり
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 研究員

 


Illustration:宗本真里奈

 


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