在宅人工呼吸療法における緊急時のために必要な事前準備は?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「在宅人工呼吸療法における緊急時の事前準備は?」に関するQ&Aです。
松田千春
東京都医学総合研究所難病ケア看護プロジェクト主任研究員
在宅人工呼吸療法における緊急時のために必要な事前準備は?
在宅人工呼吸療養者の病態はさまざまで、通常の病状変化に加えて、呼吸管理に関連したトラブルが生じることがあります。落ち着いて対応できるように、緊急時のための備えと予測が必要となります。
〈目次〉
家族が心得るべきリスクマネジメントの対応
HMV(在宅人工呼吸療法)*の継続にあたり、家族はいくつかのリスクマネジメントの対応を心得ておかなければならない。
緊急時に家族だけで初期対応しなければならないことも容易に想定できる。
1初期対応
在宅人工呼吸器の停止だけでなく、人工呼吸器の回路が破損したり、気管切開チューブが抜けたり、本人の病状変化で緊急対応を強いられることがある。
初期対応について関係機関で話し合い、医療職らと日常的な確認を行い、実施可能にしておく必要がある。
緊急時の連絡のために、関係機関への連絡票をわかりやすいところに貼ったり、あらかじめ電話の短縮ダイヤルにセットしておいたりすることが必要である。
緊急時に連絡する内容(住所、氏名、症状等)を事前に整理しておく必要がある(表1)
緊急時の連絡と支援体制
2在宅人工呼吸器トラブル対策
1)蘇生バッグ使用法の習熟
在宅人工呼吸器に関連したトラブル対策は必須である。
在宅人工呼吸器のトラブルが生じると、最悪の場合、作動停止に至ることもある。在宅人工呼吸器が停止したら、蘇生バッグで送気する方法に切り替えなければならない。
日常的に蘇生バッグの使用経験がある介護者でも、緊急時には、慌てて力いっぱい蘇生バッグを押してしまったり、どんどん早く押してしまったり、ということがありうる。医師、看護師の指導を受け、落ち着いて適正量を送れるように換気量計を用いた日常的な練習が必要である。
2)在宅NPPVの場合
NPPV(非侵襲的陽圧換気)*実施者の緊急時対応として、療養者自身が侵襲的人工換気を希望しているか否かについてはきわめて重要な課題である。事前に十分に話し合い、療養者自身の意思を周囲に伝えていくことが大事である。
3)家族への対応
本人だけでなく、家族の事故や病気、冠婚葬祭などにより緊急性が生じる場合がある。
HMVを支えるうえでは、家族の重度な疲労もあるであろう。その場合、レスパイトケアや療養通所介護を利用し、家族とともに安心して過ごせる療養環境が必要となる。
Column:蘇生バッグ使用のポイントは?
蘇生バッグ(バッグバルブマスク)による換気でエアが漏れないようにするためには、マスクをしっかり顔に密着させる必要がある。
1人で行う場合には、指の位置(EC法)を意識する。ベッドに膝を乗せ、足でバッグを支えて安定させてもよい。
マンパワーがある場合には、2人法(1人がバッグを密着させ、もう1人がバッグを押す)で行うのが確実である。
道又元裕
杏林大学医学部付属病院看護部長
- HMV(home mechanical ventilation):在宅人工呼吸療法
- NPPV(non-invasive positive pressure ventilation):非侵襲的陽圧換気
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社