適切なタイミングを見逃さない! 人工呼吸器離脱プロトコル導入のポイント
人工呼吸療法は現在、さまざまな領域で適応が拡大されており、重要な治療の一つとなっている。
しかし、長期にわたっての気管挿管は、人工呼吸器関連肺炎(VAP)のリスク因子でもあり、人工呼吸器の早期離脱は患者のADLを改善するといわれている。そのため、人工呼吸器をいかに早期に離脱させるかが重要になっている。
2015年2月に、日本集中治療医学会、日本呼吸療法学会、日本クリティカルケア看護学会が合同で「人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル」を発表した。
そのプロトコルについて、「第12回日本クリティカルケア看護学会」交流集会3「本格的に始まる人工呼吸器離脱プロトコルの導入と教育の拡大」で、同プロトコルについて講演が行われたのでレポートする。
人工呼吸器離脱プロトコルについて、それぞれの立場から発表した(右から)小谷氏、安田氏、西山氏、塚原氏
人工呼吸器離脱プロトコルの基準
プロトコル導入の「壁」をどう乗り越えるか
e-ラーニングで学ぶ人工呼吸器離脱プロトコル
人工呼吸器離脱プロトコルの基準
人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル(以下、同プロトコル)は、そのまま使用するのではなく、「各施設独自のプロトコルを作成するための一助となるもの」だと小谷透氏(昭和大学)は説明する。
小谷氏によると、人工呼吸療法は基本的に呼吸サポートチーム(RST)などの多職種がかかわるものである。そういったチームが協働し、人工呼吸器からの早期離脱を推進するための手法を示した手順書として、同プロトコルがチーム内の共通言語となることが目的の一つだという。
そのため、同プロトコルはどの施設でも利用できるものであり、人工呼吸器離脱に関する標準的内容を提案したものであるという。
小谷氏は「ぜひ同プロトコルを元に、各施設に応じたプロトコルを作成し、データに残してほしい」と要望した。
1)導入前の検討事項
人工呼吸器離脱については、各施設の状況で実施困難であったり、リスク因子が違っている場合がある。そのため、同プロトコルを導入する際には、まず施設ごとで運用の取り決めを行い、少なくとも以下の項目については検討しておかなくてはならないという。
- ・具体的な対象患者(疾患・病態)
- ・対象患者の選定方法(誰が選定するか)
- ・各基準の評価者とプロトコル指示者
- ・プロトコルの中止基準
- ・記録方法
- ・中止になった場合の対処方法
2)抜管に至るまでの過程はSAT、SBTで確認
同プロトコルでは、自発覚醒トライアル(SAT)、自発呼吸トライアル(SBT)それぞれに開始安全基準と成功基準が設けられており、ともにパスすれば抜管の検討に入るとされている。
しかし、これらの基準を満たしても「離脱の失敗もありうる」と小谷氏は明言する。この2つを同プロトコルに取り入れたのは、離脱の促進が狙いであり、「100%成功する抜管を目指しているわけではない」という。同プロトコルの目的は、あくまで早期に離脱できる人を見つけ、離脱できる人は早く抜管して社会復帰させるためのものだからである。
ただし、早期離脱が必要だからといって、「早すぎる抜管は再挿管のリスクがある」と小谷氏は言う。
再挿管例は無事に抜管できた症例と比べ、人工呼吸期間が12日、また院内死亡率が12から14%へとそれぞれ増加するなど、再挿管による患者へのリスクが増えたというデータもある。
そのためにも、「評価基準でしっかりと評価してほしい」と小谷氏は訴えた。
3)鎮静は浅鎮静で管理する
人工呼吸離脱ができない理由に、「鎮静が深いため」という理由を挙げる場合があるが、小谷氏によると、「人工呼吸中の鎮静は浅くするほうがいい」という。
その理由として挙げたデータによると、毎日の鎮静中断を行った患者と、通常の鎮静を行った患者とでは、人工呼吸期間は2.4日、ICU滞在期間は3.5日、入院期間は3.6日とそれぞれ短くなっている。
また、浅い鎮静については、アメリカの「PAD管理ガイドライン」でも日本の「J-PADガイドライン」でも推奨されており、「SAT、SBTを両方やることで効果がある」と小谷氏は話す。
4)プロトコルをベースにしたウィニング
プロトコルをベースにしたウィニングにはさまざまな利点がある。小谷氏はその利点について以下の5つを挙げた。
- ・個人の能力やスケジュールに離脱過程が影響されない
- ・規定のプロトコルに従い、訓練された医療スタッフが実行することで「中断のない」「均質で」「安全な」離脱が実現する
- ・離脱過程の記録が残しやすい
- ・施設の特徴に合わせやすい
- ・施設の経験を蓄積し、フィードバックしやすい
プロトコル導入の「壁」をどう乗り越えるか
小谷氏は同プロトコルを「チームで使うことが重要」であると強調するが、しかし、そのために「導入するのに大きな障壁がある場合もある」と述べる。
その「壁」は例えば、深すぎる鎮静により、プロトコル介入が遅延したり、知識の欠如からプロトコル介入を無視したり協力しないスタッフがいることなどであると話す。
小谷氏は「プロトコルを使う人が『いいもの』だと思わないとプロトコルの導入・継続はできない」と話す。そのために、個人ではなくチームでアプローチするが、そのときのチームリーダーは医師とは限らず、「その領域で経験がある人をチームリーダーにすると上手くいったという事例もある」と紹介した。
知識の欠如については自分たちで勉強するしかないが、成功した事例を共有し、評価することで「自分たちがやっていることには『意味がある』と思わせることがスタッフの満足度を上げるポイント」だとアドバイスした。
e-ラーニングで学ぶ人工呼吸器離脱プロトコル
同プロトコルを使うには、医師だけではなく、看護師の理解・知識の向上が必須となる。
そのため、同学会では教育の一環として、e-ラーニングシステムを作製しているという。
最後に、同システム制作を担当している塚原大輔氏(日本看護協会)がe-ラーニングの利点および、e-ラーニングに含まれる予定の動画を一部紹介した。
このe-ラーニングは2016年7月、日本クリティカルケア看護学会のホームページ上で公開される予定だという(2016年6月時点)。
【看護roo!編集部】
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2016年6月4日(土)~5日(日)
第12回 日本クリティカルケア看護学会学術集会
【会場】
自治医科大学
【集会長】
中村美鈴(自治医科大学看護学部)
【学会HP】