「振り返り」がポイント!新人・中堅・専門看護師の臨床判断能力トレーニング法

臨床看護の現場では、看護師が感じる「なんとなく」といった違和感が、患者や家族へのケアの重要なポイントとなる場合がある。
そういった違和感を敏感に感じ取り、より高度な看護の実践である臨床判断につなげるにはどうすればよいかについて、宇都宮明美氏(聖路加国際大学)が「第12回日本クリティカルケア看護学会」の教育講演4「クリティカルケア看護における思考と実践」で講演を行った。


新人、中堅、専門看護師のトレーニング方法について話した宇都宮氏

 

自分の看護を振り返ることで経験が蓄積される
新人、中堅、専門看護師それぞれに合った臨床判断能力トレーニングの方法

1)新人看護師の臨床判断トレーニング方法
2)中堅看護師の臨床判断トレーニング方法
3)専門看護師の臨床判断トレーニング方法

 

 

自分の看護を振り返ることで経験が蓄積される

宇都宮氏はまず、臨床判断を行うには、「思考」と「実践」の両方がそろわなければならないとし、「思考」と「実践」を定義することから始めた。
それによると、「思考」とは、考えや思いをめぐらせる行動であり、「実践」はある目的を成就するための過程であると定義付けた。

 

その定義を踏まえ、日ごろ、看護師がケアの際にどのような臨床判断を行っているか、その思考と実践をタナーの「クリニカルジャッジメントモデル(臨床判断モデル)」に当てはめて解説した。

臨床判断モデル


宇都宮氏によると、患者が入院したら、看護師はまずその患者の主訴を含めた入院にいたる背景(コンテクスト)を頭に入れ、ベッドサイドに向かう。
このとき、看護師はベッドサイドに向かう前に、頭の中である程度患者の状態などを「予期」しているといい、実際にベッドサイドで行うのは、予期したことと、実際の患者さんを見て初期把握したことの確認だという。
そして、その確認したこと(気づき)を元に、過去の経験や知識(直感)などからどのように看護を行えばいいかを考え(解釈)、行為に移す(反応する)のだと説明する。

 

しかし、宇都宮氏は「ここで終わってしまわないことが重要」だと言い、臨床判断モデルで最も重要なのは「省察(リフレクション)」の部分であると続ける。
そして、「自分が行った看護はどこが良かったのか、もしくはどこが足りなかったのか、終わった後にもう一度振り返ることで、経験が蓄積されていく」と強調した。

 

さらに、看護師は患者をケアする際、その患者に感情移入するが、「感情が入るほど臨床判断は上手くいく」と宇都宮氏は言う。
その理由は、「感情移入するほど、『この患者さんを早く離床させてあげたい』と思い、結果的にどうすればそれができるかをよく考えるようになる」ためだと説明する。

 

新人看護師、中堅看護師、専門看護師それぞれに合った臨床判断能力トレーニングの方法

臨床判断能力をどのようにして上げていくのかについて、宇都宮氏は新人と中堅ではそのトレーニング方法は違うと話す。
ちなみに、「臨床判断」と「臨床推論」を同一のようにとらえている場合があるが、臨床推論は宇都宮氏が先に定義した「思考」の部類に入り、両者は同じではない

 

1)新人看護師の臨床判断トレーニング方法

「新人に指導する際、人工呼吸器などの機械の使い方や看護の手順などを一通り説明し『分かった? じゃあやって』というような指導をしていないでしょうか?」と宇都宮氏は会場に問いかけると、続けて「その教え方では新人は育ちません」と指摘した。

 

●STEP1:気付き・初期把握の育成
新人のトレーニングのSTEP1は「気付き・初期把握の育成」だとし、「新人は臨床推論を十分に行うことができる状況に至っていないというエビデンスがある」と説明する。
そのため、そもそも新人看護師が知らない、分かっていないことをいくら説明しても新人は理解できないし、意味がないという。

 

そして、新人に教える場合に大切なことは、「それまで新人が教えられてきたとおりに教えること」と宇都宮氏は続ける。
入職してきた新人が学生時代にどのように教えられてきたのかを知り、その教え方のとおりに説明しなければ、新人は学生時代に学んできた病態や疾患などの「知識」と目の前の患者に出ている「症状」とを結び付けることができないという。

 

そのため、宇都宮氏は会場の参加者に「ぜひ、看護実習で学生と一緒に来ている教員に、基礎教育ではどのように学生に教えているのかをたずね、基礎教育で教えられていることを知ってほしい」と訴えた。

 

●STEP2:臨床推論の育成
さらにSTEP2の「臨床推論の育成」では、「臨床状況の正確な描写」が必要だとし、それには、手技などの正しい技術とそれをどのように使っていくかという思考過程を理解しなければならないと話した。

 

技術については、先輩看護師がまず機械の使い方や手技などをやって見せ、その後に同じことを新人にさせるシャドーイング」が効果的であると説明する。
これを繰り返すことで、新人は正しい手技を身に付けていくことができるという。

 

次に、思考については、先輩看護師が「自分が考えている思考過程を口に出して新人に伝える」ことが重要だと述べる。
患者情報やバイタル、フィジカルアセスメントなどを元に、患者にどのようなケアが必要か、何故そう考えるかを口に出して新人に説明することで、新人に「思考過程」を理解させるのだという

 

さらに宇都宮氏は、新人が疑問に思ったことを先輩看護師に聞ける関係を作ることも必要だと指摘する。
そのために、教育担当看護師は、新人が疑問に思ったことを先輩看護師に聞くことができるようなサポートをしなければならないという。

 

宇都宮氏は、「『うちの新人が育たない』という悩みを聞いたら『それは、先輩が自分の思考過程を口に出して伝えていないからです』と答える」と言うほど、新人教育においては、先輩看護師が自身の思考過程を口にすることが重要なのだと重ねて強調した。

 

2)中堅看護師の臨床判断トレーニング方法

中堅のトレーニング方法では、臨床判断モデルをコーチングの枠組みに使う。
つまり、「患者さんについて気付いたことは?」「この観察結果をどう解釈する?」「この状況についてはどうやって対応する?」というように、各段階でそれぞれ考えたこと、行ったことの「理由」を口に出すよううながしていくことで、自身のケアや考えを認識させるのだという。

 

3)専門看護師の臨床判断トレーニング方法

専門看護師の場合、トレーニングは「『誰かに教えてもらう』のではなく、自分自身で研鑽していかなくてはならない」と宇都宮氏は指摘する。
そのために、自分が行った看護の事例を書き出すことは自分の看護を言語化、可視化することになり、自身の看護を見直し、視野狭窄に陥らないようなリフレクションとなるという。

 

 

最後に、宇都宮氏は、患者と家族を一つのユニットとし、パートナーシップを構築していくことがこれからはより重要になるが、現在、患者や家族に看護の重要性や役割を分かってもらえていない場面が多いことを指摘した。

そして、それを分かってもらうためには、患者や家族の意向や希望をくみ取りつつ、積極的にガイドラインなどのエビデンスや研究を実践に取り入れ、治療や環境を調整していくことと、自分たちで看護の重要性や役割を口に出し、発信していくことが必要であると訴え、「皆さんがやる看護には限りがない。意識的に能力をブラッシュアップしていってほしい」と話して講演を終えた。

【看護roo!編集部】

 

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2016年6月4日(土)~5日(日)
第12回 日本クリティカルケア看護学会学術集会

【会場】

自治医科大学
 

【集会長】

中村美鈴(自治医科大学看護学部) 
 

【学会HP】

一般社団法人 日本クリティカルケア看護学会

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