FASTのエコー像(心嚢腔)
画像検査のなかでも、エコー(超音波)検査は、侵襲度が低く、簡便に行える検査です。
外来や病棟で、看護師が目にすることの多いエコー検査について、コツやポイントを消化器内科医が解説します。
[前回の内容]
今回は、「FASTのエコー像(心嚢腔)」についてのお話です。
加藤真吾
(横浜市立大学附属病院がんゲノム診断科)
FASTの重要性は理解いただけましたか?
命にかかわることもあるので、外傷の患者さんが来院したら要注意ですよ。
はい。先生に指示される前にエコーの準備もできるように心がけておきます♪
でも、FAST陽性のエコー像って、どんなのか気になります。
FASTで確認する場所は6箇所と多いので、3回に分けて紹介します。
まずは、心膜腔のエコー像を見ていきましょう。
〈目次〉
FASTのエコー像(心嚢腔)
患者さんに外傷がある場合、心嚢腔、胸腔、腹腔の出血の有無を確認する必要があります。FASTは、心嚢腔→モリソン窩→右胸腔→脾臓周囲→左胸腔→ダグラス窩の順番にプローブを当てていきます。
ここでは、心嚢腔のエコー像を紹介します(図1)。
図1心嚢腔のエコー検査を行う際にプローブを当てる位置
心嚢腔に行うFAST
心嚢腔は、心臓と心外膜の間の空間のことです。ここに、液体が溜まっている(貯留)かどうかを確認します。
図2と図3は、心嚢腔に液体が溜まっていない患者さんのエコー像です。
図2心嚢腔に液体がないエコー像(1)
図3心嚢腔に液体がないエコー像(2)
次に、図4と図5は、心嚢腔に液体が溜まっている患者さんのエコー像です。
図4心嚢腔に液体があるエコー像(1)
図5心嚢腔に液体があるエコー像(2)
心嚢腔に液体が見られ、心臓の動きが制限されると非常に危険な状態になるので、注意しましょう。なお、心嚢水が少量の場合は、それほど問題はありません。
エコー検査の準備
FASTは迅速に行うことが求められる検査のため、操作は、基本的にはすべて医師が行います。そのため、看護師は、外傷の患者さんが来たらエコー検査を行うということを覚えておけばよいでしょう。
基本的にエコー機器は患者さんの頭側、右側に置いて使うことが多いので、すぐに使えるように機器の準備をしておきましょう。特に救急外来は、モニター心電図や十二誘導心電図などコードを必要とする機器が多いので、移動時にコードが絡まないように配置することも大切です。
申し送り時のポイント
FASTが陽性となった場合は、何らかの処置が必要となる緊急事態です。逆に陰性であれば、とりあえずは落ち着いて初療を行うことができます。そのため、検査結果は正確に報告しましょう。また、受診背景も伝えましょう。
申し送り例①:FAST陰性の場合
患者さんは交通外傷で受診されました。
FASTは陰性で、精査の結果、大腿骨頸部骨折の診断で入院となりました。
申し送り例②:FAST陽性の場合
患者さんは交通外傷で受診されました。
FASTで腹腔内出血が疑われて、CT検査の結果、腹腔内出血と診断されました。
これから血管造影検査を行います。
記録記入時のポイント
検査結果の記録は、所見をすべて書く必要はないと思いますが、臨床上必要な陰性所見の記載は残しておくべきだと思います。FASTについては、どのタイミングで行ったのかも重要です。
例えば、最初は陰性だったFASTの結果が、時間の経過とともに陽性になる場合があるためです。
記入例:1回目のFASTで陰性、2回目のFASTで陽性の場合
Check Point
- FASTでは、心嚢腔に心嚢水があるかを探しています。FAST陽性の場合は緊急の処置が行われます。
- 申し送り時には、受診背景や検査結果をしっかりと伝えましょう。
- FASTはどのタイミングで検査を行ったかが重要になるため、看護記録には時間も記載しましょう。
次回は、右胸腔と左胸腔に行うFASTのエコー写真を紹介します。
FASTでみるエコー像の雰囲気を確認してみてください。
[次回]
- FASTで外傷患者の緊急処置の必要性を判断
- FASTのエコー像(モリソン窩)
- FASTのエコー像(脾臓周囲)
- FASTのエコー像(ダグラス窩)
- ⇒『初めてのエコー(超音波)検査』の【総目次】を見る
[執筆者]
加藤真吾
横浜市立大学附属病院がんゲノム診断科
Illustration:田中博志