肺癌患者さんの聴診音
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この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
より深い知識を習得したい方は、本文内の「目指せ! エキスパートナース」まで読み込んで下さい。
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。
[前回の内容]
今回は、腫瘍性肺疾患である「肺癌患者さんの聴診音」について解説します。
皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)
これから私が実際に担当した肺癌の患者さんの聴診音を聴いて、特徴を覚えていきましょう。
そういえば、基礎編でも「肺癌の患者さんではこの音!」って説明はなかったような・・・。
笛音やいびき音が聴こえるんですか?
う~ん、半分正解で、半分不正解です。
実は、肺癌の患者さんでは、「この副雑音が聴こえる!」という決まりはありません。
前胸部や背部を問わず、さまざまな副雑音が聴こえるんです。
ここでは、1人の肺癌の患者さんの症例をもとに、聴診音を紹介します。
〈目次〉
症例:左肺に肺癌と胸水がある患者さん
ここでは、左肺に肺癌(がん)と胸水のある患者さんの症例について簡単に紹介します。自分が担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。
【70歳、男性】
主訴:健康診断で異常があり、紹介受診。
既往歴:特になし。
現病歴:左下葉に肺癌の疑いがあり。
画像所見:胸部CTでは、左肺に胸水、左下肺に部分的な無気肺を認める(図1)。
図1左肺に胸水が見られる胸部CT画像
身体所見:やせ型であるが、特記すべき異常はなし。
聴診音①:前胸部の右下肺野で聴いた音
ココを聴こう!
2秒、5秒、6.5秒、8.5秒目:「グーグー」という音
上記以外の時間帯:「ヒューヒュー」という音
- 「グーグー」という音はいびき音、「ヒューヒュー」という音は笛音です。
- 多数の高い音が混じった笛音(多重音)が聴こえます。これらの音は、肺癌による気管支狭窄や、喀痰(かくたん)が内腔に付着していることが原因で、発生しています。
聴診音②:背部の左下肺野で聴いた音
ココを聴こう!
2.5秒、5秒、8秒目のピンク色の部分:「グーグー」という音
4.5秒目:「ゴロゴロ」という音
- 「グーグー」という音はいびき音、「ゴロゴロ」という音は水泡音です。
ナースへのワンポイントアドバイス
肺癌患者には、さまざまな合併症が現れる場合がありますので、患者さんの変化には気をつけましょう。合併症のなかでも、急激に進行するものとしては、癌性心膜炎、肺塞栓症、腫瘍による気道閉塞の3つがあります。呼吸器科を担当するナースは、これらについては覚えておいてください。
また、肺癌の患者さんでは、胸水を合併することが非常に多いため、胸水が溜まっているかどうかについても注意しておきましょう。
目指せ! エキスパートナース注意すべき肺癌患者さんの合併症
肺癌患者さんでは、特に、症状が急激に進行する合併症に気をつける必要があります。
癌性心膜炎
癌の心膜転移による心タンポナーデです。脈圧の低下や心拍数の上昇に注意しましょう。
心臓周囲に水が溜まって拡張障害を起こすことを心タンポナーデと言いますが、急激な進行の場合は、心臓周囲に貯留する水の量が少なくても心タンポナーデになることがあります。
肺塞栓症
癌患者は、血管内に血栓ができやすいため、肺血栓塞栓症が生じやすくなります。
時には、腫瘍塞栓症を起こします。下腿の腓腹筋内の静脈は、血栓の好発部位です。腓腹筋の腫脹や発赤、痛みの有無にも注意しましょう(必ずしも、これらの症状を伴わない場合もあります)。
心拍数の上昇や、突然の胸痛の有無(心電図も診断のヒントになることがあります)は肺塞栓のサインですので、見落とさないようにしましょう。
腫瘍による気道閉塞
腫瘍による浸潤が原因の気道閉塞では、必ずしも呼吸数は上昇しないので注意してください。
例えば、忍者が、すいとんの術で水面に竹筒を出して空気を吸う姿(または、ストローをくわえて呼吸をしようとした姿)を想像してみてください。普通に呼吸をする場合に比べ、吸気の時間は長くなるはずです。
このように、気道が閉塞した場合、呼吸時間は長くなりますが、呼吸数が上昇しないことを、理解いただけると思います。
上記の3つの合併症以外にも、肺癌の脳転移による痙攣や、腫瘍が産生するホルモンによる低ナトリウム血症、腫瘍の骨転移による脊髄圧迫症候群なども、治療が緊急に必要となる病態です。
*聴診音は、筆者が実際の症例で収録したものです。そのため、一部で雑音も入っています。
[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授
[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授
Illustration:田中博志
協力:株式会社JVCケンウッド