心電図の記録法|心電図とはなんだろう(1)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、心電図の記録法について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
はじめに
心臓とは何だろう(1)(2)(3)では、心臓の解剖と電気生理を勉強しましたね。
とても疲れたことと思いますが、解剖と電気生理は建物でいえば基礎工事です。土台がしっかりしている建築物は、少々の災害ではビクともしません。
心電図も基礎を理解していると、より難解な心電図も手に取るようにわかるようになりますから、決して無駄ではありませんよ。
さて、ここからはいよいよ心電図の勉強をします。がんばりましょうね。
まず、ディバイダー(キャリパーともいいます)を用意しましょう(なければ、文房具店で。コンパスでも可)。記録された心電図波の計測と確認に使用します(図1)。計測は、測定したい2点間にディバイダーを広げて固定します。この長さを記録紙の方眼紙に合わせて縦横の計測をします。
もう1つは、ある間隔が規則正しいかどうかを確認します。たとえば、心室の興奮波はQRS波として出現します。このQRS波が規則正しい間隔で繰り返されているかどうかを、QRS波の出現間隔で広げて固定し、次また次と見ていけば一定間隔かどうか確認できますし、計測もできます。
それでは本題に入りましょう。看護師はなんといっても現場です。いくら解読ができても、実際に心電図が記録できなければ、役に立ちません。
心電図を記録するための装置を心電計といいます。心電図とは、心臓の興奮波を体表で拾って増幅し、いろいろな方向から記録したものです。決まった12の方向から記録したものが、標準12誘導心電図ですから、まず一般的な標準12誘導心電図を記録してみましょう。
心電計の使用法と注意
体表から心臓の電位を記録するために、皮膚に接着するものが電極です。シール型、吸盤型、ハサミ式といろいろありますが、要は体表に密着させて、心臓のわずかな電位を感知して、記録します。
左右の手足の電極を四肢電極といい、4か所ですね。6か所の電極は胸部に装着するので胸部電極とよびます。
心臓の電気のフレは、皆さんの心と同じでデリケートなので、ノイズを防ぐために、付ける前には電極の装着部をよく拭いて、ペーストなどで接触をよくしておきます(図2)。
四肢電極
まず、四肢電極を付けます(図3)。
最近の心電計は親切に“右手”とか“左足”とかのシールが貼ってあるものもありますが、コードの先端に色がついています。これがポイントです。
右手は赤、左手は黄、右足は黒、左足は緑と決まっています。左右や手足の電極の付け間違えで、全く違う心電図になってしまいます。とくに急変時などは、間違えやすいので要注意です。
それでは覚え方を伝授しましょう。
右手→左手→右足→左足の順に、“秋吉久美子”。
“あ(赤)き(黄)よし、く(黒)み(緑)こ”というわけです(図4)。
さあ、声に出して言ってみましょう。
手足を右手→左手→右足→左足の順に動かしながら、あ(赤)き(黄)よし、く(黒)み(緑)こ。
覚えましたか。ここで、右足の黒はアースの電極です(図3)。アースとは地球で、電位のゼロをとる基準になっています。陰の主役、大切な役割をもっています。“黒子”っていうでしょう。
胸部誘導
次は胸部誘導です。これも付け方にキマリがあります。
全部で6個の電極があり、胸部誘導V1からV6に対応します。V1は第4肋間胸骨右縁、V2は第4肋間胸骨左縁、V3はV2とV4の中間で、V4はどこかというと、第5肋間で鎖骨中線上、V5はV4と同じ第5肋間のレベルで前腋窩線上、V6もV4、V5と同じレベルで中腋窩線上となっています(図5)。
しかし、皆さんはこの数行の漢字の多さに、さぞ疲れたことでしょう。それでは簡単な方法を伝授しましょう。
仰向けに寝ている患者さんの左側に立ちます。次に右鎖骨のつけ根を探してその下のクボミに自分の右手の小指を当てます。ここが第1肋間胸骨右縁です。薬指でその下のクボミを探してください。そこが第2肋間胸骨右縁、同様にその下のクボミは中指で第3肋間胸骨右縁、そして人差し指が第4肋間胸骨右縁でここがV1を付ける場所です。
小指から人差し指の順に「1、2、3、4」と掛け声をかけてもいっこうにかまいません(心電図をとられている人は驚くかもしれませんが……)。
V2はそこから平行移動して胸骨左縁のクボミに吸い付けます。V3はV2とV4の中間ですから、まずV4を付けます。左鎖骨の真中ぐらいを目で追って下に視線を下ろして、V2の第1肋間下にエイヤと吸い付けます。V3は、すでにつけてあるV2とV4の間です。V5はV4と同じレベルで、腕のつけ根から下ろしたあたり(前腋窩線)に付けましょう。最後にV6は、同じレベルで、わきの下のクボミの真ん下(中腋窩線)です。V1→V2→V4→V3→V5→V6と、3・4の順序を逆にするのがコツです。
わかったでしょうか。しかし、ここでまた問題が発生します。タコの足のようなコードのどれがV1で、どれがV6だかよくわかりません。ここでも色がポイントになります。V1:赤、V2:黄、V3:緑、V4:茶、V5:黒、V6:紫と決まっています。覚え方はいろいろありますが、“秋、緑茶くむ”というのがあります。
あ(赤)き(黄)りょく(緑)ちゃ(茶)く(黒)む(紫)。
装着編はこれでおしまいです。
まとめ
- 電極装着の際は、ノイズが入らないように気をつける
- 各電極は決められた位置に取り付ける
- 四肢電極は「あきよしくみこ」、胸部電極は「秋緑茶くむ」
NOTEさまざまな誘導の心臓を見る方向
標準(双極)四肢誘導
- Ⅰ誘導:左室の側壁を見る
- Ⅱ誘導:心臓を心尖部から見る。波形が最も明瞭
- Ⅲ誘導:右室側面と左室下壁を見る
標準(双極)四肢誘導
- aVR 誘導:右肩から心臓を見る。逆転した波形
- aVL 誘導:左肩から心臓を見る
- aVF 誘導:ほぼ真下から心臓を見る
<aVR、aVL、aVF の意味>
- 「a」:augmented(増幅された)のa
- 「V」:voltage lead( ここで計測した電圧)のV
- 「R」:right hand(右手)のR
- 「L」:left hand(左手)のL
- 「F」:foot(足)の F
胸部誘導
- V1誘導:主に右室側から心臓を見る
- V2誘導:右室と左室前壁側から心臓を見る
- V3誘導:心室中隔と左室前壁から心臓を見る
- V4誘導:心室中隔と左室前壁方向を見る
- V5誘導:左室前壁と側壁を見る
- V6誘導:左室側壁を見る
標準12誘導心電図
いまどきの心電計は優秀ですから、電源を入れてスタートボタンを押せば、アレヨという間に自動的に標準12誘導心電図が記録されます。
キレイな心電図をとるためには、筋電図や呼吸によるゆれを防ぐことが大切ですから、患者さんをリラックスさせて、呼吸を止めてもらうか、浅い呼吸をしてもらいましょう。
心電図は出ましたか?
1誘導ずつしか出てこないものから、12誘導まとめて出てくるものまで、いろいろなタイプがあります。ふつうの順番では、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、aVR、aVL、aVF、V1、V2、V3、V4、V5、V6と出てきます。3誘導ずつのタイプはⅠ、Ⅱ、Ⅲでワンセット、以下3誘導ずつで4セット出てきます。
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲを標準(双極)四肢誘導、aVR、aVL、aVFを単極四肢誘導、V1~V6を胸部誘導といいます。V1~V3を前胸部誘導、V4~V6を左側胸部誘導ということもあります。
Ⅰ~aVFまでの四肢誘導は、手足の電極から得た電気のフレを、組み合わせて心電図にしています。
心臓を前から見た(前額面・垂直面)電気の流れです(図6)。胸部誘導は、心臓を取り囲むように付けた電極からの電位ですから、心臓を上からのぞいた(水平面)電気の流れというわけです(図7)。
各誘導については次回記事で説明します。
まとめ
- 前額面:標準(双極)四肢誘導Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ、単極四肢誘導aVR、aVL、aVF
- 水平面:胸部誘導V1~V6
〈次回〉
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版