ナースのチカラ~私たちにできること 訪問看護物語~【1-3】

前回のお話

持田さんが考えた、木元さんの望みは「家族との和解」。
不仲の親子がついに顔を合わせます。

 

前回のお話。持田さんは考えた末、木元さんの息子さんを訪問看護ステーションにお招きしました。

 

 

「親父は自業自得の人生ですから、僕はもう諦めてますよ」 木元さんの息子の忠志さんは話します。

 

「とにかく暴力がひどかったし、母親も相当 泣かされて…。まぁいい想い出なんかないんですよ。あなたたちも相当辛く当たられたんではないですか?そもそも彼が麻薬(オピオイド)使いたがっているのが寂しいからだとしたって、僕はなんにもできないですよ」 木元さんが淡々と話す様子を見て、持田さんは冷静に分析します。 (饒舌…頭がいいんだろうな…堂々としてるし営業向きだ…お父さんと似ている。拒否が強い。結婚しているよね?今もトラウマを抱えて結婚生活を続けているのかな…?) 木元さんの言葉を受けて、師長さんは落ち着いた様子で話し始めます。「……なかなか大変な人生でしたね…。仕事柄…私はいろいろな親子を見てきました…。仲の良い親子、そうでない親子、いろいろ見てきて思うのは…」

 

「親子って似るんです悲しいかな………。」 忠志さんはショックを受けたようですが、師長さんはさらに続けます。 「あなたは今…善良で幸せなのかもしれないけれど、見ておくといいと思うんですよ。お父さんの最後を。」「こうは「なるまい」、でもいいし、あるいは少しは同情するかもしれません。親子というのは、とにかく生きざまを見せてくれるとてもいい勉強材料なんですよ」 そして最後に忠志さんに語りかけます。 「ですから我々はこれは木元さん…のためというより…あなたのために言ってるんです」「看護師さんは…………実際…私になにしろと…?」 忠志さんは師長さんに尋ねます。

 

「会うといいと思うんですよ。きっと…あなたが思っているお父さんとは違うと思いますよ」 師長さんは忠志さんをまっすぐ見つめて答えます。 忠志さんは少し考えてから、「許すつもりはない」と答えますが、師長さんは許さなくていい、と言います。 「会ってそのままのお父さんを見るといいと思いますなぜなら…。病(やまい)によって人は丸裸になるんです」

 

「…会うだけでいいんですか?」 「ええ…会うだけです。許す必要もないし、あなたは親を見捨てる権利がある」 忠志さんの質問に、師長さんは迷いなく答えます。師長さんの言葉を聞いて、持田さんは(”親を見捨てる権利”か…凄いな師長…私からは絶対出てこない言葉だわ…) と感心して、 「木元さんよろしければ私が同行いたしますし、なんでも相談してください」と後押しします。 そして、忠志さんを連れて訪問に行くことになりました。  訪問用の車に乗り込もうとしたとき、忠志さんは持田さんにこう話しかけます。 「看護師さんは僕みたいな人間が理解できないでしょう?親とここまでこじれるなんて」

 

「人間同士ですからいろいろなことがありますよね」 と、持田さん。 「僕は父と似ていると 言われたような気がして…。ドキっとしましたよ」 忠志さんは胸の内を打ち明けます。 「結婚して…粗野に妻を扱う時が俺にもあるんですよ…殴ってしまうんじゃないかと思う時もある…。この間妻のスマホを叩きつけちゃって…」「………怖いんですよね…父に会うのが…………。将来の自分を見るみたいで」

 

震えてうつむく忠志さんに、持田さんは少し驚きながら、持田さんは語りかけます。 「木元さん」

 

「………行けますか?」 「…はい…」 「いろいろな想いがあって…」 「そうですよね…そうですよね…」 震える忠志さんを励ましながら、持田さんたちは木元さんの自宅に向かいます。  ―放っておいたほうがよかったのかもしれない。そんなの自業自得と切り捨てる手もあった。あるいは、これは看護師の仕事じゃないと言うこともできたけど、私たちの思う範囲を越えたものを患者さんは持っている―

 

―それを信じずにはいられない時がある― 「忠志…」 木元さんは息子の忠志さんに再開するやいなや、感極まって泣き出します。 持田さんと増岡さんは親子2人きりで話ができるよう、部屋の外にそっと出ていきます。

 

「……果たして、これがよかったのかどうかはわからないでしょ?」 増岡さんは持田さんに問いかけます。 「もちろんそうよ。全てに正しいことなんてないわよ。…でも医者の治療と一緒よ”やってみないとわからないけど最善はつくす”」 「なるほど…」 部屋からは「忠志…」と泣きながら息子さんの名前を呼ぶ木元さんの声と、「もういいよ、泣きやめよ…」と制止する忠志さんのやり取りが聞こえてきます。 ―息子の忠志さんはこの後も時々会いにきてくれていて…―

 

「会ってみたらあまりに細くなってやつれてて昔の父との違いに驚きました…。あんなに泣くとは…」 「そうなのよね…。昔、暴力してた人ほど弱虫なのよ」 持田さんは忠志さんの相談を受けるようになっていました。 ―木元さんはそれから怒鳴ることも減り、痛みのコントロールもできるようになった。訪問時にたびたび息子さんがスプーンで介助する姿もみられた― ―そして2ヶ月後― 木元さんの自宅を訪問した持田さん。 「………1日ウトウトしてて尿量が減って 呼吸も浅い… いよいよだ…」 「息子さんに伝えましょう」 持田さんの言葉を、増岡さんは黙って聞いています。 「………」

 

持田さんは忠志さんにいよいよだということを電話で伝えます。 忠志さんは落ち着いて、一言「わかりました」と答えます。  連絡を受けた忠志さんはここ最近の木元さんとのことを思い出します。(最後の日々。あんなに嫌いな人だったのに…。仕事を休んでまで実家に帰って…。ついには嫁や子供まで見せたりして)

 

「これじゃあまるで親孝行みたいですよね…」 木元さんの家に到着した忠志さんは、受け取った書類を見ながら持田さんと増岡さんに語ります。 「ああでも…。死んじゃうんですよね…あの人…」 「まだできることがあります話しかけてください耳は最後まで聞こえているので」 「………話しかける?」 「そうです。聞こえているんです、答えなくても」 諦めたような口調の忠志さんに、最後まで話しかけてください、と持田さんは伝えます。(息子さんはあの後なにを話したのだろう。というか話はしたのだろうか………)

 

(私たちはそこでなにがあったのかわからない。そこは家族の領域で看護師はそこに入ることはできないからだ。)  訪問看護ステーションに戻り、持田さんは木元さん親子のことを報告します。 「亡くなった時は息子さん落ちついてました」 「それならよかったんじゃない?」 と、馬渕さん。師長さんも、「2人の時間ができたかしらね」と言います。  「今回のケースはタイミング難しかったけれどね」「あと師長にも助けられた」 「………」 持田さんたちが話しているのを、花は黙って見ています。

 

「木元さん結局 薬も増量しなかったねー」「息子さんも表情変わっていったよねー」 「………」  「花ちゃんどうしたの?」 花の様子がおかしいことに気がついて、幸代は声をかけます。 「あっいえ、なんでもないです」 (私にはできない。持田さんみたいな看護の視点に立って相手を見ることができない) 「最後はいい人になってたねー木元さん」と話す持田さんたちを眺めながら、花は木元さんとのやり取りを思い出します。(私には怒鳴りつけたのに…)

 

(いい人だなんて思えない…。私 向いてないかも。看護師、向いてないかも) (花ちゃん?) 持田さんのような看護の視点に立てず、看護師に向いていないかもと落ち込む花。 そんな花を、なんだか様子がおかしいと心配する幸代なのでした。

【おわり】

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【著者プロフィール】

広田奈都美(ひろた・なつみ) HP

漫画家・看護師。某地方総合病院にて勤務後、漫画家としてデビュー。著書は「僕達のアンナ」(集英社)、「お兄ちゃんがコンプレックス」、「ママの味・芝田里枝の魔法のおかわりレシピ」(秋田書店)他。

 

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