糖尿病と皮膚|全身性疾患と皮膚③

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は糖尿病と皮膚について解説します。

八木宏明
静岡県立総合病院皮膚科院長

 

 

Minimum Essentials

1糖尿病性足病変は糖尿病の重要な合併症であり、普段からのケアが重要である。発生初期の対応が患者の予後を左右する。

 

糖尿病と皮膚

糖尿病患者では、神経障害、代謝障害、血流障害、易感染性(感染しやすいこと)、感染の治りにくさなどの糖尿病共通の特徴を基礎として、さまざまなデルマドローム、難治性皮膚疾患を生じる。糖尿病に伴う頻度の高いデルマドロームと、近年、全国的に対策の進んでいる糖尿病性足病変について解説する。

 

 

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糖尿病に伴うデルマドローム

痒疹

「悪性腫瘍と皮膚」および「痒疹」参照。

 

黒色表皮腫(仮性型)

悪性黒色表皮腫参照。悪性腫瘍の合併がないものを仮性型とよび、仮性型は糖尿病に合併することが多い。

 

糖尿病性浮腫性硬化症

項部から上背部、さらに進行すると上腕部に生じる限局性の浮腫、皮膚硬化である。いったん発生すると糖尿病がコントロールされても改善せず、難治性である。

 

皮膚瘙痒症・皮脂欠乏性皮膚炎(乾皮症)

皮膚瘙痒症では、患者の引っ搔き行動による搔破痕(搔き壊し)が出現する。搔き壊しはやがて二次的な湿疹化へと進展する。一般的には、高齢者では皮脂や発汗機能の低下によりドライスキンになりやすく、とくに冬季に出現、悪化するが、糖尿病患者ではより若年で通年性に生じる。

 

ナイロンタオルの使用禁止、入浴時の石鹸の使いすぎやこすり過ぎに注意するよう指導する。保湿薬によるスキンケアが有用である。

 

感染症

細菌感染症

表在性感染症としては、毛包炎伝染性膿痂疹などの頻度が高い。症状に合わせて抗菌薬の外用や内服を行う。それよりやや深い真皮から皮下組織の感染は蜂窩織炎といわれる。上下肢に多く発生し、局所の発赤、熱感、腫脹、疼痛のほかに発熱などの全身症状を生じる。

 

さらに糖尿病のコントロール不良患者では、壊死性筋膜炎ガス壊疽など、感染が筋膜や筋肉に及び短時間で広範囲に拡大する重症感染症を合併することがある。これらの重症例は死亡率が高いため、強力な抗菌薬投与、緊急に広範囲の切開やデブリードマン、患肢切断などの外科的処置が必要となる。

 

ガス壊疽

汚染された傷口から、おもにクロストリジウム属の菌が侵入し、筋肉まで至る深く広範囲の急激な感染を引き起こす致死的な感染症である。感染した壊死組織にはガスが発生し、触診やX線でガスの貯留した空洞の存在が確認できる。

 

白癬症

糖尿病患者では足白癬の発生が高率であり、健常者と較べてより重篤、難治性である。感染から長期経過した例ではかゆみがないため、多くは無治療で放置されている。放置するとへの感染による爪変形のため爪周囲に傷ができたり、足趾間のびらんから二次性に細菌感染を生じ重篤感染症の温床となる。したがって、抗真菌薬の外用や内服など、適切な治療の継続が必要となる。

 

鶏眼・胼胝

糖尿病患者では足変形により一定の部位への圧迫が繰り返されるため、鶏眼・胼胝の合併が多い(図1a)。

 

図1コントロール不良な糖尿病患者に生じた胼胝(a、○)、壊疽(a、b、→)

コントロール不良な糖尿病患者に生じた胼胝(a,○),壊疽(a,b,→)

 

悪化すると疼痛のため歩行の妨げとなるだけでなく、胼胝から潰瘍形成に至り、さらには二次感染を起こす。皮膚科で定期的に厚くなった角質を削り落とす。患者の自己判断による不適切な処置が感染の原因となることがある。

 

 

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糖尿病性足病変

糖尿病性足病変は糖尿病の重要な合併症であり、神経障害や末梢血流障害を有する糖尿病患者の下肢に生じる感染、潰瘍、深部組織の破壊病変である(図1)。

 

糖尿病患者では動脈硬化、血管閉塞による下肢血流低下が顕著な例が多く、これが組織への栄養不足を招き直接的に壊疽の原因となる。

また糖尿病患者の足では、皮膚の乾燥による角層の亀裂や皮膚バリア機能の低下、鶏眼・胼胝、足白癬、爪白癬、潰瘍、知覚鈍麻による低温熱傷など、感染の温床となる皮膚病変が起こりやすい。

 

いったん感染を起こすと免疫低下から一気に進行してしまうこともあり、これら基礎病変のケアや継続した治療が大切である。

しかし、知覚鈍麻や糖尿病網膜症による視力低下のために、これら基礎疾患が悪化しても患者自身は気がつかないことも多く、医療者を含めた周囲の注意深い観察が必要となる。

 

動脈の血行障害による虚血の場合、おもに末端の壊疽で始まり乾燥壊死に至る。また、糖尿病性水疱や潰瘍、足白癬や胼胝、外傷による傷への細菌感染から生じる場合には湿性の壊死に陥る。壊疽に陥った組織は決して再生することはない。

 

足壊疽から患肢切断に至ることが多く、その後の予後に与える影響が大きいため、近年では教育入院やフットケア外来による患者への啓発などが盛んに実施され、壊疽の予防と早期治療の重要性が認識されてきている。

 

また血管バイパス術などの血管外科治療、カテーテルなどの血管内治療の進歩により、以前より切断を免れる率(救肢率)が高くなってきている。

 

 

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看護の役割

看護では入浴や着替えの介助などで患者に接するため、医師よりも患者の全身の皮膚状態を観察する機会が多い。

近年、褥瘡は広く認知され、看護の場面でも発生予防や早期発見などが徹底されるようになってきたが、その他の皮膚疾患に関する認知度はまだ低い。

 

本項で解説したデルマドロームや糖尿病に関連する皮膚症状は、軽度の症状で発生し、やがて重篤な状態に進行する疾患が多い。看護の場では常に患者の皮膚状態を注意深く観察し、異変の早期発見に努める必要がある。

 

チーム医療の重要性

糖尿病フットケアマネージメントでは、糖尿病内科、皮膚科、形成外科、整形外科、循環器科、血管外科、看護師、理学療法士などが連携して予防と治療にあたる必要がある。 病院ごとあるいは病院間での情報共有が必要であり、チーム医療の重要性が増している。

 

複数の科で一人の患者のケアを担当することにより、その時点で患者にとってもっとも適切な治療を受けられる可能性が高くなり、医療者側としても他科の治療方針などが参考になることも多く両者にとってのメリットは大きい。

 

足病変の予防

合併症予防のためにもっとも大切なことは、糖尿病のコントロールをしっかりと行うことである。多くの糖尿病患者にとって糖尿病は生活習慣病の延長であり、それまでの生活を見直すとともに、日常生活、食事、運動などを含めた生活の質(QOL)の改善が大切であるので、普段の外来や教育入院で指導し実践してもらう。

 

足病変についても、患者の病識の欠如が問題となる。下肢切断に至る重大な疾患であることを自覚してもらい、予防に努め、毎日自分の足を観察し、必要な場合にはすぐに皮膚科に受診するように指導する。

 

また毎日の保湿薬、足白癬などの治療薬の塗布を継続してもらう。足変形、鶏眼・胼胝の難治例では義肢装具士と相談する。

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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