出産準備教室のプログラミング

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は出産準備教室のプログラミングについて解説します。

 

長鶴美佐子
宮崎県立看護大学教授

 

 

出産準備教育とは

妊婦は、妊娠を受容し「産み育てるのは自分自身」であることを自覚し、自らの心と身体の変化を受け入れながら、心身の準備をしていくことが重要である。家族は妊婦の支援を行うともに、一緒に新しい家族を迎え育てていく準備をしていくことが求められる。出産準備教育は、それができるよう妊婦やその家族などを対象として行う健康教育である。一般に以下のような目標で実施されることが多い。

 

目標

①妊婦が自ら健康的なマタニティライフをつくり出すことができるようにする(妊娠期の健康維持・増進、異常の予防)。
②安全で主体性のある満足のいく出産を迎えることができるよう心身の準備ができるようにする(出産に向けての心身の準備)。
③母親や父親としての役割を認識し、親になる心の準備ができるようにする(親になる心の準備)。
④育児ができるよう新生児や育児に対する理解を深め、育児行動の準備ができるようにする(育児の準備)。
⑤家族のメンバーが、新しい家族の一員を迎える準備ができるようにする(家族の準備)。
⑥妊婦同士や夫同士、そして担当者(指導者)との交流をはかり、仲間づくりができるようにする(ネットワークづくり)。

 

母親学級の始まり

母親学級の始まりは、終戦直後の昭和22~24年(1947~1949)頃とされている1)。昭和24年に厚生省(現厚生労働省)よりE. マチソン著「母親学級−助産指導のしおり」が刊行され、マチソンの構想に沿った母親学級は、母親のために行われ、全国規模で普及し定着した2)

*E. マチソン:GHQ の公衆衛生福祉局(PHW)の看護課で助産婦を担当

 

 

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出産準備教育の分類

出産準備教育は、その対象や目的により母親学級(マタニティクラス)、父親学級、両親学級、祖父母教室、多胎妊婦クラスなどがある。

 

 

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プログラミングの実際

時代とともに出産準備教育に対するニーズは変化する。また担当者の出産準備教育や出産、育児に対する考え方がそのあり方を左右する。複数で担当する場合は、理解しあったうえでプログラミングすることが必要である。


一般に教育活動のプログラミングでは、まず目的・目標を明確にし、対象、内容、開催回数、参加人数、開催場所、日時、所要時間、運営形態や方法、担当者、費用、媒体、評価方法などを決定していく。

 

1目的・目標の設定

プログラミングでは、まず出産準備教育では何をねらいとして行うのか(目的)、そのためには受講後に参加者がどのようになってほしいのか(目標)を文章にしていく。さらに各々の目標ごとに下位目標(細目標)を立てていくと、盛り込む内容が明らかになる。また評価もしやすい。

 

目標の設定時の注意点

目標の設定に際しては、準備教育で使用できる時間数や目標達成に要する時間数を考慮しなければならない。これもあれもと欲張って多くの目標を設定せず、これだけは絶対達成したいという目標に絞っていく。盛りだくさんの内容は、参加者にとって不消化状態を引き起こし、運営自体も困難で、かえって目標達成がむずかしくなる。

 

2講義内容の決定

目的・目標に沿って講義内容が決定される。それらは順序性や連続性を考慮して、教育効果が上がるように構成する。妊婦の産前指導内容の例を示す(表1)。

 

表1 産前指導ガイド

産前指導ガイド

(竹村秀雄:母親学級・両親学級指導マニュアル.p28、メディカ出版、2000より改変)

 

開催時期と内容

妊娠初期・中期では、主に妊婦の健康的なマタニティライフづくりのための内容(妊娠期の経過と過ごし方、栄養、健康診査など)が、妊娠末期では出産・育児に関する具体的準備(お産の経過と心身の準備、赤ちゃんの理解と育児の実際など)が盛り込まれることが多い。

 

3対象者(参加者)の設定と把握

対象者の設定は、出産準備教育の目的・目標や、その教育効果を考慮して行う。たとえば妊婦の場合、妊娠時期や出産経験の有無、夫の参加を考慮した対象の設定をする。

 

参加者の背景やニーズの把握は、出産準備教育への参加申込書などから行い準備に役立てる。参加申込書には、事前に把握したい情報(年齢、出産予定日、仕事の有無、居住地、里帰り予定、準備教育への要望など)の記入欄を設ける。

 

4開催時期と回数

開催時期や回数は、教育内容とその効果などを考慮して決定する。妊婦の場合、その内容に応じて妊娠初期〜中期と末期に開催されている。回数は各時期1~2回、1クール3~4回で構成しているところが多い。

 

保健指導にかかわる法律

・母子保健法
〔知識の普及〕第9条:都道府県及び市町村は、母性又は乳児若しくは幼児の健康保持及び増進のため、妊娠、出産又は育児に関し、相談に応じ、個別的又は集団的に、必要な指導及び助言を行い、並びに地域住民の活動を支援すること等により、母子保健に関する知識の普及に努めなければならない。
〔保健指導〕第10条:市町村は、妊産婦若しくはその配偶者又は乳児若しくは幼児の保護者に対して、妊娠、出産又は育児に関し、必要な保健指導を行い、又は医師、歯科医師、助産師若しくは保健師について保健指導を受けることを勧奨しなければならない。

 

・男女雇用機会均等法
〔妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置〕
第12条:事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和40年法律第141号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

 

5開催日時と所要時間

開催日時は、対象者と開催側の条件により決定されるが、第一に考慮すべきは対象者が参加しやすい日時である。夫も対象とする場合は、土日に開催することが多い。時間帯としては、参加しやすさを考え、午後から開催するところが多い。

 

1回の所要時間は2時間〜2時間半程度で、その間に随時休憩を設ける。伝えたいことの優先順位やポイントを明確にし、運営方法を工夫することで、かぎられた時間を有効に使うことができる。

 

開催時間帯

脳の働きを考えれば午前中に行い、昼食後の1~2時間は避けたい時間帯である。しかし実際は、妊婦が午前中にひととおりの家事を済ませて、夕食の準備に間に合う13:00~16:00の時間帯を選択することが多い。勤労妊婦や夫なども午前中にゆっくりと過ごし仕事の疲れをとり参加できるとして、両親学級などは土曜日のこの時間帯に実施する施設も多い。

 

6運営形式

担当者が妊娠・出産・育児に関する知識を伝える講義型に、実技やグループワーク、先輩妊婦の体験談などを組み込む形式が多い。最近では参加者である妊婦が主役の「参加型マタニティクラス」3)や、妊婦の身体感覚活性化により産む力を引き出すクラス4)などが提唱されている。

 

講義型

多数の人々に、多くの内容を伝えることができ、情報伝達という点で効率的である(図1)。しかし、その効果は講義担当者の力量に左右され、ときには一方通行となりがちである。そのため工夫を必要とする。

 

図1 講義

出産準備教室講義

 

工夫の一例として、
①講義内容、専門用語の使い方、内容の順序性、などについて十分検討する。
②参加者をひきつけるような講師の話し方(声の大きさ、抑揚、速さなど)をする。
③効果を上げるために、用いる資料や媒体などの工夫をする。最近はパソコンのプレゼンテーションソフトを活用し、視覚や聴覚に訴える効果的な講義が展開できる。たとえば、イラストを活用し、楽しい雰囲気をつくる。赤ちゃんや授乳場面、沐浴の様子など写真や動画を取り込むなどである。講義に、参加者同士の交流を促す時間や実技(図2)、グループワーク(図3)などを組み入れる。

 

図2 実技

出産準備教室実技

 

図3 グループワーク

出産準備教室グループワーク

 

参加型

講義型との違いは、主役は参加者で、担当者は「先生」ではなく、参加者の意欲や主体性を育み、学びを促進するファシリテーターという点である5)。したがって、参加型では少人数運営となる。ファシリテーター1人に対して8~10名。人数が多くなった場合は、複数のグループに分けてそれぞれにファシリテーターをつけることが必要である6)

 

参加型では参加者同士がいろんな意見を出し合い、試行錯誤しながら安全かつ安心して自分のしたいお産や子育てを見出すようにプログラムしていく。

 

ファシリテーター

参加型の学びや話し合いを促す姿勢や技法のことをファシリテーションといい、参加型のクラスでは講師兼進行役をファシリテーターという。Facilitate は「引き出す、促す、簡単にする」という意味がある6)

 

プログラムの例<妊娠中の心と身体のつきあい方>

① 1人ずつ自己紹介、または参加者同士(パートナーと参加の場合はパートナーと)ペアとなり他己紹介をする。「今不安なこと、悩んでいること」をひと言話してもらい、全体で共有する。
②ファシリテーターが一つひとつの不安について、参加者の体験談や意見をもらったりしながら、一緒に解決法を考えていく。

 

7参加人数

開催場所や担当者数、出産準備教育の運営形式(講義型か参加型か、実技やグループワークを取り入れるか)により、参加人数が決定される。

 

8開催場所・会場設営

運営形式や参加者数に応じた場所を考慮する。参加しやすく、教育に集中できる場所が理想的だが、病院内で開催する場合は会場選択の余地がないことも多い。その場合は周囲に教室開催などを周知し(図4)、静寂な環境をつくるなどの工夫を行う。

 

図4 会場案内

出産準備教室会場案内


 

会場設営:運営形式(講義、実技、グループワークなど)により、会場の設置方法が異なる(図5図6図7

 

図5 会場の配置方法

出産準備教室 会場の配置方法

 

図6 島型

出産準備教室 会場の配置 島型

 

図7 円型

出産準備教室 会場の配置 円型

 

環境の工夫:BGM を流したり、花や赤ちゃん用品・写真を飾るなどして緊張感を取り除く。温度、湿度、明るさ、換気などに留意して快適な環境をつくる。

 

9費用

参加費は通院中の病院や保健センターなどの公的機関、個人運営など設置主体により無料から1回数千円と様々である。参加費は無料でテキストのみを有料としているところもある。

 

10テキスト

テキストは、参加者の理解を助ける媒体の1つである(図8)。後日、学習内容を確認したり、思い出したり、また夫や家族などにも見せて一緒に出産や育児の準備を行ったりできる。

 

図8 母親学級のテキスト

出産準備教室 テキスト

 

テキストには、クラスで扱う内容以外に、それを補うための内容を載せたりすることもできる。

 

テキストを手作りする場合は、読み手の立場に立って、専門用語の使い方に注意し、イラストなどを活用する。講義などで使った内容や媒体(図、絵)などを載せると理解も深まる。

 

テキスト

クラスで妊娠経過や分娩経過の図などを使う場合は、テキストに同様のものを載せておくと、参加者はメモも取りやすいし、想起しやすい。また必要な内容であるが細かく説明する時間が取れない内容、たとえばマタニティ用品・育児用品などの準備などは、むしろテキストのなかで選択の視点や必要数、そろえ方や作り方などを詳しく紹介するほうが効果的である。

 

11参加者への配慮

受付:参加者の緊張を取り除くよう、温かい雰囲気と笑顔で(図9)。

 

図9 受付

出産準備教室 受付

 

導入:自己紹介(担当者・参加者)とアイスブレイクで和やかな雰囲気に(図10)。

 

図10 自己紹介

出産準備教室 自己紹介

 

アイスブレイク

緊張して氷のようになった気持ちを破るという意味。簡単なゲームなどを入れたりして緊張を和らげる。

 

生理的欲求への配慮:クラスの途中でもトイレや飲水などの生理的欲求は最優先にしてよいことを、最初に伝える。
休憩:集中できる時間や妊婦の体調などを考慮して、少なくとも60分ごとには休憩を取る。休憩時には、お茶や菓子を供したり、BGMをかけたりする。これにより、リラックスした温かい雰囲気をつくり、参加者同士の交流を促すことができる。

 

 

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評価

評価では、出産準備教育の目的・目標が達成できたかどうか、プログラムや運営の実際などから検討し、改善すべき点を明らかにしていく。

 

評価は
・参加者の理解や反応などによる評価
・ 担当者の自己評価
・ 第三者(上記以外の者)による評価
がある。とくに参加者による評価は重要で、参加前後のアンケートや感想、参加中の様子などから評価していく。

 

最終的な評価は、クラスを受講することにより、妊婦やその家族が新しい家族の一員(児)を迎えるための心身の準備を整えていくことができたかどうか(クラス受講が役立ったかどうか)である。

 

 

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引用・参考文献

1)竹村秀雄:母親学級・両親学級指導マニュアル.20、メディカ出版、2000
2)佐藤香代:日本助産婦史研究その意義と課題.58-62、東銀座出版、1997
3)戸田律子:参加型マタニティクラスBOOK.2-20、医学書院、2007
4)佐藤香代:新しいKnow-How を学ぶ これからの出産準備教室−妊婦に寄り添う「参加型」クラスのすすめかた、出産準備教室How to 編アイデアを学ぼう! 世にも珍しいマザークラス(解説/特集). ペリネイタルケア夏季増刊、219-230、 2005
5)小野田レイ:ドキュメント参加型マタニティクラスはこう進める.助産雑誌、61(4):286~301、2007
6)青木将幸:参加型クラスの技法、企画・場づくり編.助産雑誌、61(4):271~275、2007

 

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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