マタニティ・ヨガ
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回はマタニティ・ヨガについて解説します。
立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授
マタニティ・ヨガとは
目的
自己の身体の気づきや身体感覚を高め、心のコントロールを目指すことが中心である。また、身体動作だけでなく、意識の制御のために呼吸法が重要視される。
妊娠中のトラブル解消や出産への準備に役立つように工夫されており、妊娠15週以降2)で、妊娠経過に異常のない妊婦を対象としている。
指導者資格
日本マタニティヨーガ協会認定者
なぜ15週以降なのか2)
妊娠初期は悪心や疲労自覚が多いため、これらの症状が改善されてから開始する。
切迫早産などで安静指示を受けている妊婦は参加できない。多胎や妊娠高血圧症候群などの妊婦は主治医との相談が必要となる。
効果
・妊娠・分娩に対して自信がつき、前向きになれる。
・呼吸法が自然に身につき、分娩時に実行できる。
・分娩時、より楽に開脚できる。
・帝王切開率の減少。
・難産・出血の減少。
・肩こり、腰痛、筋肉痛の予防と改善。
・尿失禁の予防と治療。
・産後の回復を早める。
・母乳がよく出る。
・自律神経系の復活・鍛錬。
・手足のしびれ、血圧不安定、便秘、かぜ、花粉症、気管支喘息の予防。
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マタニティ・ヨガの実際
観察項目
・参加者の服装は、身体の動きを制限しないゆるやかなものとし、靴下や靴も脱いでおく。
・腹部に強い圧迫がかかるようなもの、とくに、腹部の過伸展、過捻転などの運動は、腹緊(腹部の張り)を引き起こすおそれがあるため避ける。
・妊娠により身体の重心が後方に移動しているため、立位時はバランス保持のために足を開くようにする。
注意点
・気分が不快なとき、頻回な腹筋痛を自覚した場合はやめる。
・入浴後30分間以上経ってから実施する。
・食後2時間以上経ってから実施する。
・できるだけゆっくり動かす。
・休憩(15分間の運動に対し5分間程度)を挟みながら実施する。
必要物品
タオル
手順(一般的な運動の流れ)
1回1時間程度を目安とし、身体に疲れが残らないように休息時間も十分に設ける。
1基本の呼吸法
鼻から十分に息を吸い、口からゆっくり吐く。呼吸に合わせて動作を行い、子宮を圧迫しないように行う。
呼吸法
吸気:呼気の割合=1:2
「4秒間で吸い、8秒間で吐く」
2準備体操
花のポーズ
背中を伸ばし、肩や腕を動かす。
①あぐらをかき、背中を伸ばす。
②胸の前で合掌した手を上げていき、息を吸いながら胸を突き上げていく。
③息を吐きながら手を下ろす。
首の体操
①呼吸を整える。
②息を吐きながら頚部をたおす。
③息を吸いながらもとの姿勢に戻す。
3骨盤底や太腿を開く体位、体をねじる体位
開脚のポーズ
①両膝を開いて手を床につけ、殿部を上げてしゃがみこみの姿勢をとる。
②手は胸の前で合掌する。このとき、足の裏は全部床につけておく。
③合掌した手を使ってさらに両膝を開いていく。このとき、息を吐きながら実施する。
④息を吸いながら、合掌した手をもとに戻し、ゆるめる。
立位での骨盤傾斜運動
背骨や背部の筋肉を動かし、緊張や痛みを緩和する。
①両足を肩幅に開き、両手を腰に置き、やや恥骨を前に突き出し、腰を落とす。
②左足を一歩前に出し、息を吐きながら顎を引き、左方向へ腰をひねる。
③息を吸いながら正面へ戻る。
④右足を一歩前に出し、息を吐きながら顎を引き、右方向に腰をひねる。
CHECK
・動作の際には、両足が床から離れないように実施する。左右2、3回ずつ行う。
・腹部が張ってくるようであれば中止する。
4骨盤傾斜の体位
分娩の際に胎児の進行方向を知るのに役立つ。
立位での骨盤傾斜運動
①手の指先を下に向けて両手を腰にあてる。足は肩幅に開く。
②息を吸って殿部を突き上げる。
③息を吐きながら殿部を下げる。恥骨を覗(のぞ)き込むように身体を丸める。
④もとの姿勢に戻り、呼吸を整える。
5各種症状に効く体位法と呼吸法
猫の体位:腰背部痛
①両膝を骨盤の広さに開き、両手は肩幅につき、四つん這(ば)い姿勢をとる。その際、背中がまっすぐになるように留意する。
②頭→胸→腰の順で背中を丸める。
恥骨を覗き込むように息を吸いながら行う。
③息を吐きながら、腰→胸→頭の順でそらせていく。
月と太陽の呼吸法:頭痛
①両足を組んで座り、左手を左の膝に置き、右手の示指を眉間にあてる。
②右手の親指で右鼻孔を閉じ、左の鼻孔から息を吸う。
③右手の中指(中指と薬指)で左の鼻孔を押さえて、右の鼻孔から息を吐く。
④右から吸い、左から吐く。これを3回連続して実施する。
カパーラ・パーティの呼吸法:短息呼吸
①両足を組んで座り、左右の手を膝の上に置く。
②鼻から大きく息を吸う。瞬間的に腹筋を収縮させ、少しだけ息を吐く。
吐いた分は、自然に吸気されるので、繰り返し瞬間的に息を吐く。
深いゆっくりとした呼吸の有効性については表1のとおり。
表1 深いゆっくりとした呼吸の有効性3)
弛緩法
①完全弛緩法(全身の緊張を取り除く)
・仰向けに寝て、両手を身体から少し離し、両足を開く(図1)。
・目を閉じてゆっくりとした呼吸を続ける。
②シムスの体位
腹部に体重をかけないように、片足を曲げて腹部の下に空間をつくって腹這いになる(図2)。
③注意点
はじめは10回から開始し、30回を目標にする。終わったら、深くゆっくりとした呼吸を普通に何回か行い、腹筋の緊張を取り除く。腹筋を使用するため、呼吸法終了後も緊張が続くことがある。その際には、呼吸法の回数を減らすか、中止する。
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引用・参考文献
1)田中泰博監:マタニティビクス・テキストブック、p.4~5、18、日本マタニティビクス協会、1997
2)森田俊一:妊婦のためのヨーガ−妊娠・分娩を楽にする体操−、p.17、26~28、31、82~83、110~114、120~121、124、メディカ出版、1991
3)松本清一監:妊産婦体操の理論と実際、p.22、社団法人全国保健センター連合会、1999
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版