日常生活の過ごし方

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は妊娠期の日常生活の過ごし方について解説します。

 

藤本 薫
文京学院大学保健医療技術学部看護学科教授

 

 

妊婦の衣類・履物

妊娠中期頃より腹部や乳房が増大し、身体の重心や姿勢が変化する。また、妊婦は新陳代謝が亢進しており、発汗や腟分泌が増加するため、妊娠中の変化に合わせた衣類や適切な履物を選択する必要がある。

 

1マタニティウェア

目的

・身体的変化への対処機能がある。
・マタニティウェアを着用することにより、妊婦としての自覚が高まるとともに、周囲に妊婦を知らせる役割がある。

 

選択のポイント

・吸湿性がよく、皮膚を刺激しない素材(綿素材が好ましい)。
・腹部の増大に合わせてサイズが調節できる。
・身体を締めつけない。
・満足できるデザインである。
・手軽に洗濯できる。
・妊娠期から授乳期まで着用できる機能性の高いウェア(図1)は、経済的である。

 

図1 マタニティ授乳ウェア

マタニティ授乳ウェア

妊娠期から授乳期まで着用できる機能的でデザイン性の高いウェアがある(写真提供:モーハウス)

 

マタニティウェアのファッション性

マタニティウェアのファッション性は高くなり、デザインが豊富で機能性の高いウェアがそろっている。したがって、妊婦が衣服を選択する際には、妊娠の経過に伴う身体的な変化にふさわしく、妊婦自身が満足できるデザインや素材のマタニティウェアが選択できる。

 

 

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2下着

ショーツ

ショーツは、腟分泌物が増加することから、吸湿性・通気性がよい木綿のものが適している。

 

選択のポイント

・吸湿性・通気性がよい木綿製。
・腹部の増大に合わせて調節できるもの。
・臍の上まで腹部全体が収まるタイプは、腹部を締めつけず、保温性も優れている。
・ショーツは、帯下の色の変化がわかりやすいように、クロッチ部分(股布)が白いものがよい。

 

おりものシートの使用

ショーツのクロッチ部分につける帯下用シートを使用する女性が増えている。妊娠中は帯下が増加し、腟カンジダ症を生じやすいため、通気性・吸湿性のよい素材の下着のままのほうがよい。

腟分泌量の増加

エストロゲンの影響や皮脂腺、汗腺の働きが活発になることから、腟分泌量が増加する。

 

 

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ブラジャー

吸湿性・通気性がよく、乳房を押さえつけないものが適している。

 

選択のポイント

・生地や構造の工夫によりゴムやホックがを使用せず乳房の増大に対応でき、敏感になる乳房を包み込み乳腺の発達を阻害しないもの。
・前開きタイプのブラジャーは、授乳時に胸が出しやすく便利である。

 

妊娠期の下着で気をつける点については図2のとおり。

 

図2 下着

妊娠期の下着

(写真提供:モーハウス)

 

 

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3腹帯・妊婦用ガードル・腹巻タイプ

効果

・保温効果がある。
・腹部を支持し、安定感が得られる。
腰痛を予防する。

 

ポイント

・腹帯は、きつく巻きすぎない(腹帯の巻き方 参照)。
・就寝の際は付けないほうがゆったりとしてよい。

 

腹帯と妊婦用ガードル、腹巻にはそれぞれ、メリットとデメリットがあります(表1)。

 

表1 腹帯と妊婦用ガードル・腹巻タイプのメリット・デメリット

腹帯と妊婦用ガードルのメリット・デメリット

 

骨盤ベルト

妊娠中は、姿勢の変化による腰痛、エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンの増加による骨盤内靭帯の弛緩がまねく腰痛が生じやすい。近年、骨盤の不安定さをサポートする骨盤ベルトを産前・産後に使用する女性が増えている(図3)。腰痛や恥骨痛の予防によい。産前用と産後用で異なるタイプがあるので注意する。

 

図3 骨盤ベルト

骨盤ベルト

 

 

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4履物

選択のポイント

・ヒールは2~3cmくらいの高さが適切である。
・ヒール底は広いものが安定性がよい。
・足がむくみやすくなるので、やわらかい素材がよい。

 

 

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姿勢と日常の動作

1姿勢

子宮の増大に伴い身体の重心が前方へ移動する(図4)。このため、腹部を前に突き出すような姿勢をとりやすく、腰痛や背部痛などが起こりやすい。

 

図4 妊娠中の姿勢

妊娠中の姿勢

 

姿勢の基本的ポイント

・背筋を伸ばす。
・足は肩幅に開く。
体重は両足にかける(重心を均等に)。
・顎が引いている。
・肩や頭の緊張がとれている。

 

椅子にかけたときの姿勢

腰に負担がかかるため、椅子に深く座り背筋を伸ばす(図5)。

 

図5 椅子にかけたときの姿勢

妊娠期の椅子にかけたときの姿勢

 

階段を上るときの姿勢

子宮の増大により重心が前方に移動していることと、足元が見えにくいため、片足に体重をかけると転倒しやすい。そのために、手すりを持ち、後ろ足にも重心をかけ、押し上げるように前の足を次の段に乗せる(図6)。エスカレータは、手すりを持ち、ステップ上に立ち止まって利用する。

 

図6 階段を上るときの姿勢

妊娠期の階段を上るときの姿勢

 

2動作

妊娠中の正しい姿勢を基本として、日常生活においても、安全で身体に負担の少ない姿勢、余分な腹圧のかからない姿勢や動作が望まれる(図7図8)。

 

図7 余分な腹圧のかからない休み方

余分な腹圧のかからない休み方

 

図8 身体に負担の少ない姿勢・日常動作

身体に負担の少ない姿勢・日常動作

 

 

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睡眠

エストロゲンはREM睡眠を減少させ、プロゲステロンはnon-REM睡眠を増加するなど、妊娠に伴うホルモンの変化は睡眠にも影響する。妊娠初期は眠気や疲れを感じやすく、妊娠中期以降は入眠障害、中途覚醒が起こりやすい。

 

よい睡眠のためのポイント

・寝室の温度や湿度、明るさ(暖色系の明かり)を調整する。
・就寝前の1~2時間はパソコンやスマートフォンなどの電子機器が発するブルーライトを避ける。
・リラックスできる香りを焚いたり、音楽をかける。
・就寝前3~4時間のカフェイン摂取を避ける。
・体内時計のリズムを保つために、規則正しい生活を心がける。
・必要に応じて仮眠をとり休息する。就労中の場合、昼休憩などを利用して30分程度の昼寝も効果的である。

 

 

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嗜好品

カフェイン

2016年、世界保健機構(WHO)は、妊婦のカフェイン摂取について以下の勧告を公表した。
・カフェインは、紅茶、コーヒー、清涼飲料水、チョコレート、コーラナッツ、エナジードリンクなどに含まれる。
・妊娠中のカフェインの過剰摂取は、胎児の成長遅延、出生児の低体重、早産、または死産と関連する可能性がある。
・1日あたりのカフェイン摂取量が300mgを超える妊婦に対しては、カフェイン摂取量を制限するように注意喚起している。

※コーヒーマグカップ2杯(237mL)でカフェイン300mg相当〈カナダ保健省〉

 

タバコ

タバコの母子への影響として、妊婦本人の能動喫煙は早産や低出生体重との関連が明らかである。また、妊婦の受動喫煙の影響については、低出生体重児との関連の根拠は示されていないが、小児の受動喫煙は喘息の既往との関連が明らかである。

 

また、電子タバコへの曝露とリスクとの関連については、電子タバコの蒸気(エアロゾル)から各種カルボニル類など発がん性物質の発生が報告されており、曝露による健康影響の可能性がある。妊娠中は電子タバコの使用も控えるように指導する。

 

アルコール

妊婦の飲酒は、低出生体重、奇形、障害などを引き起こす可能性があり、胎児性アルコール症候群といわれる。近年では多動性症候群(ADHD)や成人後の依存性リスクなど広い範囲の影響も指摘されている。日本では若い女性の飲酒率が増加傾向にあり、妊娠がわかった時点で禁酒を勧める必要がある。

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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