妊娠嘔吐・妊娠悪阻と食事
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は妊娠嘔吐・妊娠悪阻と食事について解説します。
立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授
妊娠嘔吐
妊娠5週頃から50〜80%1)の妊婦に悪心や嘔吐が認められる。妊娠に伴って生じる悪心・嘔吐・食欲不振の3徴候のことを妊娠嘔吐(つわり)という(表1)。つわりは妊娠16週頃に自然に消失する。
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妊娠悪阻
妊娠に伴って生じるつわりの症状が悪化し、食物摂取が損なわれ、代謝異常を起こして全身状態が障害された状態を妊娠悪阻(おそ)という(表2)。入院治療を要するものは全妊婦の1〜2%1)である。
memo:ウェルニッケ・コルサコフ(Wernicke-Korsakoff)症候群
妊娠悪阻によるビタミンB1欠乏により、意識障害、両側外転眼球運動麻痺、運動失調、耳鳴り、難聴、健忘などの症状をきたす疾患のこと。
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つわりの軽減
つわりの症状には、個人差があるが、朝の起床時に強く出ることが多い。また、心理的・精神的な環境にも左右されることがある。
①起床時や空腹時に症状が出現することが多いため、起床後に簡単なものを食べる。
②食べたいときに、食べられるものを少量ずつ摂取するように心がける。
③気分転換をはかる。
④ペパーミントティーやジンジャーティーは、口をすすぐだけでもさっぱりする。
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摂取したい食材
①さっぱりとした食材が好まれる:トマト、レモン、梅干、大葉、酢のもの、そうめん、大根おろし、おひたし、など
②カリウムを補う食材(代謝異常の改善のためにも必要):バナナ、スイカ、柿、ジャガイモ、サツマイモ、小松菜のごまあえ、あさりの酒蒸し、など
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葉酸の摂取
葉酸とは
水溶性ビタミンB群の一種であり、タンパク質や核酸の合成に働いて細胞の生産や再生を助け、細胞の産生に必須の栄養素である。ビタミンB12とともに、赤血球の生産を助ける働きもある栄養素である。
memo:葉酸の摂取
2018年3月、日本先天異常学会は「妊娠を計画している女性、または妊娠中と考えられる女性が、妊娠前4週から妊娠12週までの期間、葉酸サプリメントによって毎日葉酸を400μg=0.4mgを摂取すると、神経管閉鎖障害が起きるリスクが低下する」というメッセージを発信している。
葉酸摂取の意義
妊娠初期に発症しやすいとされる、胎児の先天異常である二分脊椎などの神経管閉鎖障害のリスクを回避するために、葉酸の摂取が必要である。
わが国の神経管閉鎖障害の発症率は、脊椎に癒合不全が生じる二分脊椎が大部分を占め、2012年で5.55/10000であり、発症率は低下していない。
memo:神経管閉鎖障害とは
妊娠初期に起こる先天異常であり、脳や脊髄などの中枢神経系のもととなる細胞の集合体である神経管が閉鎖されることで、神経組織に障害が生じるため、下肢の運動障害や排泄機能に障害が発症する。神経管の下部に閉鎖障害が起きた場合は二分脊椎とよばれる(図1)。神経管の上部に閉鎖障害が起きた場合、脳が形成不全となり無脳症となる。
摂取方法
妊娠初期(とくに3か月)までの間に、葉酸を多く含む食品の摂取に心掛けるようにする。野菜であれば350g/日摂取するとよい。また、サプリメント(栄養補助食品)を摂るように心がける。ただ、過剰摂取になるとビタミンB12の診断への影響も指摘されており、1mg/日を超えないように注意が必要である。
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版