耐糖能検査
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は耐糖能検査について解説します。
小野哲男
滋賀医科大学医学部産科学婦人科学講座非常勤講師
妊娠糖尿病の定義
妊娠中の糖代謝異常は、妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)、妊娠中の明らかな糖尿病(overt diabetes in pregnancy)、糖尿病合併妊娠(pregestational diabetes mellitus)に分類される。
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耐糖能検査の必要性
妊娠中の耐糖能低下はインスリン抵抗性の生理的な亢進に起因し、正常な反応ともいえるが、一方で妊娠前からの糖尿病の悪化や、GDMの原因ともなる。糖尿病合併妊娠やGDMでは、流・早産や羊水過多症といった母体合併症や、巨大児、肩甲難産、新生児低血糖、胎児死亡などの胎児・新生児合併症を引き起こす。
1000名を対象とした研究で、GDMに対する積極的な医療介入は児の重篤な合併症を4%(23/524、うち5名は周産期死亡、16名は肩甲難産)から1%(7/506、うち死亡は0、肩甲難産が7名)に減少させることができるとされ、GDMを早期に発見し医療介入することは重要と考えられている。
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耐糖能検査の実際
すでに糖尿病と診断された妊婦を除く全妊婦を対象として行われるスクリーニング検査と、スクリーニング検査で陽性となった妊婦を対象として行われる診断検査の75gOGTTとがある。
スクリーニング検査
妊娠初期と中期(妊娠24~28週)の2段階法を用いて行う。検査の方法としては次のものがある。
①随時血糖法:食後時間は考慮せず血糖値を測定する方法
②空腹時血糖法:夜間絶食後の血糖値を測定する方法
③50gGCT:食事摂取の有無にかかわらずブドウ糖50gを飲用し1時間後の血糖値を測定する方法(カットオフ値140mg/dL以上)
方法やカットオフ値に関しては様々な意見があるが、スクリーニング特性・コスト・簡便性などを考慮し、一般的に初期は随時血糖法が用いられる。カットオフ値は各施設で独自に設定とされるが、95mg/dL以上もしくは100mg/dL以上とされることが多い。中期は50gGCTが選択されることが多い。
スクリーニング検査で陽性となった場合には、診断検査である75gOGTTを行う。ただし、空腹時血糖126mg/dL以上の場合は75gOGTTを行わない。随時血糖値もしくは50gGCTが200mg/dL以上の場合には表1の2)、3)について検討し、正常の場合に75gOGTTを行う。
以前はGDMハイリスク妊婦には、スクリーニング検査を省略し直接診断検査である75gOGTTを行うことが許容されていたが、糖尿病であった場合に高血糖をまねきかねないことから「産婦人科診療ガイドライン産科編2011」からは削除された。GDMハイリスク妊婦にもスクリーニング検査から行う必要があり注意が必要である。
ガイドラインに従った最も厳しいと考えられるフローチャートを図1に示す。
診断検査
診断検査としては75gOGTTを行う。前日22時以降は絶食とし、翌日早朝より検査を行う。空腹時血糖測定後、75gの糖負荷を行い負荷後1時間値、2時間値を測定する。検査中は血糖の変動を防ぐため、水以外の摂取は禁止、できるだけ安静を保ち、禁煙である。
これまでのGDMの診断基準は、1997年のアメリカ糖尿病学会の診断基準に準じていたが、国際的に統一された基準が必要とされ、世界糖尿病妊娠学会(International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups:IADPSG)が世界統一の妊娠糖尿病診断基準を提唱したことから、日本もこの診断基準を踏襲し、診断基準が設定された(表1)。
以前の診断基準ではGDMと診断するためには3点のうち2点以上を満たす必要があったが、現在用いられている基準では1点でも満たした場合GDMと診断されるため注意が必要である。この診断基準の変更により、妊娠糖尿病患者数はそれまでの約4倍に増加するといわれている。
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妊娠後期
妊娠初期・中期の検査で耐糖能異常がないと診断されても、妊娠後期にGDMを発症することもある。子宮内胎児発育不全、羊水過多や巨大児など母体の耐糖能異常を疑う所見を認めた場合、75gOGTTを行うことが必要である。
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引用・参考文献
1)日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン産科編2020、より2021年12月9日検索
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版