肺水腫(APE)
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は肺水腫(APE)について解説します。
大久保早苗
さいたま赤十字病院CCU看護係長
慢性心不全看護認定看護師・呼吸療法認定士
肺水腫(APE)とは?
肺水腫(APE)とは、肺毛細血管から肺間質(肺胞中隔)へ水分が漏出し、肺胞腔内に貯留する疾患です。貯留した水分によってガス交換が障害されることで低酸素血症をきたし、急性呼吸不全が起こります。
肺水腫(APE)の主なリスク因子は表1です。
水分が漏出・貯留する原因はさまざまですが、最も多いのは、左心不全が原因となる心原性肺水腫です。
原因や機序から表2のように分類されます。
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患者さんはどんな状態?
聴診で両側の肺野に水泡音(coarse crackles)が聴取できます(図1)。
低酸素血症をきたし、呼吸困難、起座呼吸、チアノーゼがみられます。
肺胞内に血球や蛋白成分が漏出することにより、ピンク色で水様または泡沫状の血性痰を喀出します。
心原性肺水腫の場合、心拍出量の低下により低血圧、冷汗や、脳への血流低下による意識障害などもみられます。
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どんな検査をして診断する?
X線、CTでは、特徴的な所見を示します(図2)。
memo:カーリーBライン
肺水腫によって間質浮腫が発生し、肺小葉間に浮腫が生じることでみられる。下肺野の外側に長さ2cm程度の胸壁に直行する線状陰影をいう。
その他の検査内容は表3のとおりです。
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どんな治療を行う?
病態が低酸素血症であるため、最初に行う治療は酸素療法です。動脈血ガスでPaO2を80Torr以上に維持します。
酸素療法のみで低酸素血症が改善しない場合は、非侵襲的陽圧換気(NPPV)を行い、効果がない場合には、気管挿管して人工呼吸器を使用します。
原疾患の治療も同時に行います。心原性肺水腫の場合、クリニカルシナリオ(CS)Ⅰ(表4)に従い治療を進めていきます。
memo:クリニカルシナリオ(CS)
clinical scenario。血圧を参考として急性心不全の初期対応を示した分類で、5段階に分かれている。
左心不全により左室充満圧が上昇しているため、後負荷の軽減をめざし血管拡張薬を投与します。体液貯留により前負荷が増大している場合以外、利尿薬はほとんど使用しません。
呼吸困難に対しては塩酸モルヒネを使用し、苦痛の軽減に努めます。
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看護師は何に注意する?
呼吸困難を主訴とするため、呼吸状態に関する観察とバイタルサインのモニタリングを行い、呼吸状態の安定化を図ります。
低酸素血症となるため、適切な酸素療法が行えているか確認します。酸素療法で呼吸状態が改善しない場合は、NPPVが必要となることを予測して準備しておきます。
呼吸困難は死を連想させ、病状に対する不安や恐怖といった感情を引き起こします。これらに加えて低酸素血症も要因となり、せん妄が生じやすくなります。せん妄が生じると治療への協力を仰げなくなる場合があるため、呼吸困難による苦痛は積極的に軽減を図ります。
NPPVを使用するときには、マスクフィッティングに時間をかけ、愛護的に行うことで、NPPVへの受け入れをスムーズにします。姿勢を変えるときには、フィッティングの微調整を行い、医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)の予防を徹底します。
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肺水腫(APE)の看護の経過
肺水腫(APE)の看護の経過は以下のとおりです(表5-1、表5-2、表5-3、表5)。
表5-1 肺水腫(APE)の看護の経過(発症から入院・診断)
表5-3 肺水腫(APE)の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社