肺血栓塞栓症(PTE)
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は肺血栓塞栓症(PTE)について解説します。
大久保早苗
さいたま赤十字病院CCU看護係長
慢性心不全看護認定看護師・呼吸療法認定士
肺血栓塞栓症(PTE)とは?
肺血栓塞栓症(PTE)とは、末梢静脈や心臓内にできた血栓が遊離し、肺動脈に詰まることで(図1)、急性の呼吸困難、失神、胸痛を引き起こします。
肺動脈本幹あるいは分岐部の血栓の場合には、急性右心不全(肺性心)・低酸素血症をきたし、突然死することもあります。
肺血栓塞栓症の多くは、深部静脈血栓症(DVT;deep venous thrombosis)に起因し、手術後の離床や排便、排尿をしたときに好発します。これを急性肺血栓塞栓症(APTE;acute pulmonary thromboembolism)といいます。
肺血栓塞栓症(PTE)の主なリスク因子は表1です。
慢性の経過においては、肺高血圧症を合併し、労作時の呼吸困難を起こし、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH;chronic thromboembolic pulmonary hypertension)をきたすこともあります。
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患者さんはどんな状態?
呼吸困難や胸痛が主要症状となります。その他の自覚症状として、失神・咳嗽・喘鳴などがあります(図2)。
発症状況として、安静解除後の最初の歩行時、排便・排尿時、体位変換時に起こりやすいとされています。
胸痛には、末梢肺動脈の閉塞による胸膜痛を呈する場合と、中枢肺動脈の閉塞による右室の虚血から胸骨後部痛を呈する場合があります。
呼吸困難と胸痛を呈する疾患として、気胸、肺炎、胸膜炎などの肺疾患、心筋梗塞や心不全などの心疾患があり、鑑別する必要があります。
診察所見としては、頻呼吸、頻脈が高頻度に起こり、低血圧、ショックを認めることもあります。
慢性的な経過により肺高血圧症を認める場合には、右心不全症状(静脈系のうっ血により頸静脈が怒張する)を認めます。
DVTに起因する所見として、下腿浮腫、ホーマンズ徴候があります(図3)。
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どんな検査をして診断する?
血液検査、動脈血ガス検査、X線、12誘導心電図、造影CT、心エコー、肺換気・血流シンチグラフィ、肺動脈造影検査を行います(図4、表2)。
DVTに起因している場合には、下肢静脈エコー・下肢造影CTも行います。
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どんな治療を行う?
最初に行うことは、呼吸と循環の管理です。酸素療法・輸液により対応していきます。
酸素療法を行っても呼吸状態が改善しない場合は、人工呼吸器管理が必要となることもあります。
ショックや心不全を起こし、呼吸と循環が保てない重症の場合には、すみやかに経皮的心肺補助装置を導入する必要があります。
血栓溶解療法が禁忌の患者さんや、施行する時間的余裕がない場合は、カテーテル治療(血栓破砕・吸引術)を行います(表3)。
ショックが持続する症例や血行動態が不安定な症例の場合は、人工心肺を用いて肺動脈内にある血栓を直接取り除く、肺動脈血栓摘除術を行います。
深部静脈血栓が残存している場合には、はがれて流れてきた血栓をフィルターで確保する下大静脈フィルター留置術を予防的に行います(図5)。
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看護師は何に注意する?
急な息苦しさ、胸痛または背部痛を訴えることが多いため、症状と全身状態・バイタルサインの観察を行います。同時に呼吸・循環の安定化を図ります。
低酸素血症となるため、適切な酸素療法が行えているか確認します。酸素療法を行っていても呼吸状態が改善しない場合には、人工呼吸器管理が必要となることを予測して準備しておきます。
活動により再塞栓が生じることを防ぐため、安静臥床が必要となります。このため、安静度の説明を行います。
呼吸困難と疼痛による不安や死への恐怖に対して精神的な支援を行います。同時に疼痛コントロールを図ります。
抗凝固療法に対するセルフケア支援を実施します。注意が必要なポイントは、出血傾向、ビタミンKとの拮抗作用、催奇形性、DVTです(表4)。
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肺血栓塞栓症(PTE)の看護の経過
肺血栓塞栓症(PTE)の看護の経過は以下のとおりです(表5-1、表5-2、表5-3、表5)。
表5-1 肺血栓塞栓症(PTE)の看護の経過(発症から入院・診断)
表5-2 肺血栓塞栓症(PTE)の看護の経過(入院直後・急性期)
表5-3 肺血栓塞栓症(PTE)の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社