患者さんをお手伝いするための「知恵」と「技術」が詰まった1冊|ヤンデル書房(13)
Twitterで大人気の医師・ヤンデル先生が「本屋の店主」になって看護師のみんなにおすすめの本を紹介します。最終回です!
イラストレーション:ネモトマ
Vol.13 もったいない患者対応
こんにちは。お元気ですか。
先日、インフルエンザのワクチンを打ってもらってきました。あらためて見ると、病院ってみなさん本当に忙しそうですね。
ナースの皆さんも、いつもお疲れ様です。
待っている患者さんの一人が、なんだか少しイライラされていたようでしたが、対応されていた方がとても穏やかで、感心してしまいました。
さて、患者さんへの対応のしかたといえば、おすすめしたい本があります。
『もったいない患者対応』(じほう)
著者は「外科医けいゆう」でおなじみの山本健人先生。
けいゆう先生の文章は本当に読みやすいです。ツイッターの短文も、ブログのやや長い文章にも魅力がありますが、書籍になるといっそうすごさが際立ちます。
この本はナースにこそ活用してほしい
帯や背表紙に、「ほんの一言変えれば診療はラクになる」とあります。一見、若い医者や研修医向けの本かな、と思いますよね。
ただ、これ、実際に読んでみると、若い医者向けであることはもちろんなのですが、看護師や医療事務・受付など、多くの方々におすすめできる、大変守備範囲の広い本だということがわかります。
中でも、特にナースの皆さんにこそ活用していただきたいと思います。なぜなら、病院で患者さんと一番やりとりをするのは他でもない、ナースだからです。
この本では、いかにも実際にありそうな「患者さんへの説明時に起こりうるトラブル」が、たくさん例示されます。
ここで主人公になるのは、著者のけいゆう先生……ではなくて、「患者さんへの説明があまりうまくなくて、気持ちばかりがカラ回りしてしまう若い医者」です。このキャラクターがポイントです。
彼は、熱意はあるんです。医学的な知識もある。
しかし、患者さんへの説明時に、ちょっとした配慮が足りていない。
だから、患者さんが不安になってしまったり、予期せぬ怒りを招いてしまったり、トラブルの元になったりする。
たとえば、高齢の患者さんに、胃カメラを施行する際の合併症について説明をします。
「合併症の確率は一般に低いものですが、患者さんが高齢だと、そのリスクは高くなります」。
ここまで、間違ったことは何一つ言っていません。しかし、患者さんは、「そんな怖い検査はしたくない」と言って、検査に拒否感を示してしまいます。
そこに指導役のけいゆう先生が登場です。
リスクの説明をすること自体は大事だけれど、ストレートすぎる表現はNGだよ、ということを丁寧に解説します。このとき、「バカだなー、その言い方じゃ伝わらないよ、こう言えばいいんだ」というような一方的な説明ではなく、「どの部分を理論で補強すると、患者さんの説明がうまくいきやすいか」ということを分析するんです。
“合併症”はやさしく言い換えよう、
具体的な数字を使ってリスクを説明した方がイメージしやすいだろう、
あくまでいたわりつつも加齢がリスクになることをやわらかく伝えよう……。
大変細やかです。しかも実践的。
また、別のページでは、患者に治療方針を選んでもらうシーンが描かれます。
「軽度の虫垂炎で、手術をしてもいいし、抗菌薬で治療をしてもいいですよ。どちらにもメリットとデメリットはあるので、好きな方を選んでいいです。患者さんの選択を尊重しますよ」と、カラ回りしがちな医者は、とてもまっとうなことを言います。しかし、患者さんは治療方針を選べなくて、悩みこんでしまいます。
こんなとき、本当はどう説明したらよかったのでしょうか?
けいゆう先生はこのように解説します。
「専門的知識を持つ医療者だからこそ、患者さんの“選択のお手伝い”をする必要がある」。
明快です。ここからの回答はぜひ書籍で読んでいただきたいです。医療者が陥りがちな「投げっぱなしの説明」を回避するために、具体的にどうしたらよいのかがきちんと書かれています。
「知識」があるだけでは足りないから
看護師を含む医療者の皆さんは、現場での経験や、書籍での勉強を通して「知識」をいっぱい身につけます。努力して覚えなければいけない情報が山ほどあるでしょう。
でも、けいゆう先生のおっしゃるように、「知識」を持っただけでは足りないのです。
その知識を使って、患者さんをお手伝いするための「知恵」が必要になる。
「患者さんとの関係の中で知識を有効に使うためのテクニック」が要る。
この本、「知恵」がとても豊富です。その多くは、先ほどの「熱意はあるけれど、配慮がまだ行き届いていないキャラクター」とのやりとりで描かれていきますが、それだけではありません。
冒頭のChapter 1「わかりやすさのコツ」は必読ですし、Chapter 6の「けいゆう先生の現場で役立つつぶやき」も実践的です。
患者さんにうっかり言ってしまいがちな「お元気そうですね」の一言で患者さんの顔が曇るワケとは? 医療者がつい忘れがちな、患者さんに伝わりづらい病院独特の言葉とは?
……ね、読んでみたくなるでしょう。
隅々まで考え抜かれた本です。
何より、眉毛がハの字でアセアセしている「カラ回りする若い医者」が全編を通じていいスパイスとなっています。彼は、患者さんの不安や不信感を私たちに可視化させてくれる役割を担っています。ダメっぽいんですがチャーミングでもある。
その名もずばり唐廻(からまわり)先生。こういうネーミングでクスッとさせるのがまた、うまいなーと思います。
1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒、国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)、札幌厚生病院病理診断科。現在、同科主任部長。医学博士。病理専門医。著書に『症状を知り、病気を探る』(照林社)、『いち病理医の「リアル」』(丸善出版)、『病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと』(大和書房)など。Twitter、ブログ、noteなどで発信中。良い本を人におすすめするのが大好き。
編集/烏美紀子(看護roo!編集部)
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