不安と、焦りと、もどかしさの中で…|クラスターを経験した永寿総合病院・看護師インタビュー
写真提供:永寿総合病院
「台東区の病院で、新型コロナのクラスター発生」
3月下旬、永寿総合病院で患者や職員に感染者が相次いだことが一斉に報じられました。
ニュースを目にし、「他人事ではない」、そう思った医療者も多いのではないでしょうか。
アウトブレイク発生時、何を思い、どんな日々を過ごしたのか。永寿総合病院の病棟看護師と病棟業務の応援に入った手術室看護師に話を聞きました。
気づかないうちに、自分も感染していた
始まりは、混合病棟の入院患者の発熱でした。
その後、他の患者や看護師にも発熱者が相次ぎ、集団感染が発覚したときには、すでに複数の病棟に感染は広がっていました。
血液内科病棟に勤務する3年目看護師の永山さん(仮名)も、PCR検査で「陽性」と判明した一人。
幸いほとんど症状はなく、自宅療養となったものの、
「かかってしまって申し訳ない気持ちと、みんなが防護服を着て毎日仕事をしているのに一緒に働けない不安とで、精神的にはつらかったです」
と永山さんは当時を振り返ります。
一人暮らしだった永山さん。外出できず、人にも会えず、一人きりで1カ月を過ごしました。
「その時、ニュースを見るのがストレスでした。いろいろ言われるのがつらくて…」
ある日、突然、病棟の応援に行くことに…
朝、病棟へ向かう前に防護服を着用する看護師たち(写真提供:永寿総合病院)
感染者が確認された病棟では、陽性・陰性にかかわらずスタッフ全員が自宅待機となりました。
そのため、手術室や外来の看護師らが病棟業務の応援に入ることに。
手術室に勤務する2年目看護師・野川さん(仮名)も、その一人でした。
「病棟経験のない私も応援に行くことになったのは衝撃でした。看護学生のときの記憶をたどりながら、探り探りなんとか」
暑くて動きづらい防護服を身にまとい、慣れない業務を行う日々。
陽性患者ならではのケアの難しさもありました。使用した物品はすべて捨てるため、陰洗ボトルの代わりに紙コップを使用したり、タオルの代わりにガーゼで清拭したり。
ただ、応援に入った最初のころは、それほど大変さを感じていなかったという野川さん。
「私は応援スタッフだったので、あまり実感がなかったんだと思います。清潔ケア中心でしたし、夜勤もありませんでしたので。もともと病棟で働いている同期は大変そうでした。こんな状況になってしまってどうしよう、休みになってしまった、とみんな落ち込んでいました」
「この状態、いつまで続くんだろう」
しかし、日がたつにつれ、野川さんの気持ちにも変化が現れます。
「5月になっても、手術室看護師としての業務が一切なかったので、この状態がいつまで続くのか、不安になりました」
2年目になったばかりの野川さん。早く一人前の手術室看護師になりたいという焦りから、転職が頭をよぎったこともあったと言います。
このころ、今後のキャリアを考えて病院を去る人が出てきたことも、迷いを強くしました。
「ただ、いろいろ悩みましたが、今は、どこの病院でも手術の稼働率が落ちています。転職先の病院でアウトブレイクが起こらないとも限りません。すでに経験した、この病院のほうが、何かあったとしても、対策も収束も早いのではないか。そう考えて、ここで頑張ることにしました」
「コロナでなければできたことが、できない…」
4月下旬、約1カ月の自宅療養を終え、永山さんは血液内科病棟に復帰しました。
働けなかった時間があったからこそ、役に立ちたいという思いが強くなっていた永山さん。
防護服を着ながら懸命にケアする中で、いつものケアとは違う“もどかしさ”を感じたと言います。
「コロナじゃなかったらすぐにベッドサイドに行けるのに、何かあってもすぐには行けない。防護服を着る時間がすごくもどかしかったですね」
そして、何より心を痛めたのが、エンゼルケアでした。
新型コロナの患者さんが亡くなった場合、厳密な感染対策の必要があり、スタッフの業務負担や精神的負担を減らすことも考え、当直科長などが対応することになっていたからです。
「血液内科の患者さんは入退院を繰り返し、年単位で長くかかわる方もおられます。入職以来ずっと看てきた患者さんが亡くなられても、自分の手でエンゼルケアができなかったときは、悲しくて…」(永山さん)
「応援してくれる人たちがいる」
大変な日々の中でも、永寿総合病院の職員にとって、嬉しいこともありました。
4月初旬、「頑張れ、永寿病院 地元有志一同」と書かれた横断幕が掲げられました。
この横断幕を見て、「まだ、私たちはここにいていいんだ」と思えた看護師も。(写真提供:永寿総合病院)
多くの手紙やメッセージ、個人防護具などの応援物資も届きました。
また、OBやOGの医師らが立ち上げた「永寿総合病院を応援する会」のクラウドファウンディングには、約5000万円の寄付金が集まりました。
「同じ医療従事者の方や地域の方はもちろん、かかわりのない方まで支援してくださったのは、すごく嬉しかったです。病院の食堂に手紙やメッセージが掲示されているのですが、『あ、また増えている』って感じで、みんな、よく立ち止まって見ています」(野川さん)
職員の支えとなった、励ましや応援のメッセージ(写真提供:永寿総合病院)
アウトブレイクを経験した病院の看護師だから思うこと
永寿総合病院で起きたアウトブレイクでは、患者さん109人、職員83人の感染者が出ました。
そのうち、血液疾患や悪性腫瘍などで治療中の患者さん43人が、帰らぬ人となりました。
懸命に対応に当たった職員は、さまざまな葛藤を抱えました。
永寿総合病院が開いた記者会見で紹介された看護師の手記。葛藤の日々が綴られています。=職員手記=
「アウトブレイクは本当に突然の出来事です。いつ起きてもおかしくないと思って、一つひとつ気をつけるしかないのかなと思っています。また、病院に限りませんが、クラスターが発生したときのコロナ差別には心が痛みます。誰でも逆の立場になるかもしれない。そう考えてほしいです」(野川さん)
「ウイルスは目に見えないので、どんなに気をつけていても、避けようがない部分があります。コロナにかかってしまったら、大事な人に会えなくなります。自身も経験したからこそ、みなさんには経験してほしくないと思っています」(永山さん)
***
永寿総合病院では、5月上旬以降、新たな感染者は確認されていません。
既に診療や救急の受け入れが再開され、本来の姿を取り戻しつつあります。
看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo)
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