「ニセ医療」に走るがん患者さん、看護師に何ができる?|勝俣範之さんインタビュー

◯◯でがんが消えた!がんは自分で治せる!医者いらずの◯◯療法などの患者さんを惑わせるうたい文句

 

本屋に行けば怪しい本が、ネットで検索すれば怪しい情報が、平然と紛れ込んでいる――

 

さまざまな情報が溢れる中、そうした科学的根拠の乏しい「ニセ医療」がんの患者さんが目にしてしまうと、つい惑わされてしまうことがあります。

 

この問題に詳しい、腫瘍内科医の勝俣範之さんに話を聞きました。

 

 

患者さんに「ニセ医療」を受けたいと言われたら…?

患者さんの一番近くにいる看護師さんにまずお願いしたいのは、やはり「傾聴」「共感」です。

 

患者さんの話を聞く前に、すぐやめさせようとしたり、強引に説得したりするのはおすすめできません。「そんなこと言うなら、もう来ないでくれ」と突き放してしまうのも最悪な対応です。

 

それでは、患者さんは行き場をなくし、「がん難民」になってしまいます。

 

そのような医療をどうして受けたいと思われたのかや、現在の治療に不安があるのかなど、患者さんの思いを十分に聞いていただきたい。また、患者さんの思いに共感的に接してほしいと思います。

 

この段階で、否定的態度を取ってしまうと、医療者へ相談せず隠れてするようになってしまいます。実際、4割を超えるがん患者さんが、補完代替療法を行っているというデータもあります。

 

日本医科大学武蔵小杉病院内科教授の勝俣範之さん

勝俣範之さん@Katsumata_Nori
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授
がん患者さんを総合的に診る腫瘍内科医で、『医療否定本の嘘(扶桑社)』『「抗がん剤は効かない」の罪(毎日新聞社)』など著書多数あり。科学的根拠のない・乏しいがん治療に関する注意を促す情報をブログやTwitterなどで発信している。

 

薬局で売っているサプリ類であれば、私は止めなくてよいと考えています。何かやっていないと不安な患者さんもいますから。

 

ただ、高額なものや体に悪影響があるものは別。科学的根拠が乏しいことや危険なことをきちんと説明する必要があります。


 

どんなふうに患者さんに説明すればいい?

まずは、患者さんの思いを十分に傾聴し、共感的に接し、十分に信頼関係を築いた上で、しっかりと情報提供することが大切です。

 

医療の現場で信頼関係は最も大切と思います。信頼関係がなければ、単に情報提供しても、患者さんはこちらの言うことを聞いてくれません。

 

標準治療は医学的な有効性が証明されて保険適用となっていることや、治験や先進医療は国の審査があることなどを説明します。

 

その上で、「ニセ医療」かどうか疑うポイントとして、下記3つを紹介しています。

 

患者さんに伝える「ニセ医療」と疑うポイント/標準治療、治験、先進医療以外で下記に当てはまるもの、1:保険がきかない医療(全額自費の自由診療)クリニックで行う免疫細胞療法やビタミンC療法など。2:「がんが消えた!治った!」などのうたい文句、3:医療広告で禁止されている体験談の紹介がある

勝俣範之さんのお話を基に、看護roo!編集部で作成

 

あとは、一つひとつ誤解を解いていくしかありません

 

たとえば、僕が診ている患者さんで、今の抗がん剤は食欲が落ちることはないはずなのに、どんどん痩せていく人がいました。

 

おかしいなと思って「ちゃんと食べていますか?」と聞いたら、患者さんは「食べていません」と。

 

詳しく聞くと、白米でがんが悪化する、食事療法でがんは治るという本がベストセラーになっていると聞いて、玄米や野菜しか食べていなかったそうです

 

痩せて当然ですよね。

 

「食べて大丈夫なんですよ。むしろ、体力をつけるためにも食べた方がいいですよ」と言うと泣いて喜ばれ、次の受診のときには少しふっくらされていました。

 

食事に気を付けること自体は悪くありませんが、極端な食事制限は命の危険があります。

 

患者さんの誤解を解く会話の一例/患者さん「抗がん剤は不安で…昔、家族がひどい目に遭ったから…」医療者「今の抗がん剤は、昔と全然違うんですよ。外来で可能なので、仕事も続けられますよ」/患者さん「抗がん剤は毒ガスから作られるって聞いたんですけど…」医療者「それは抗がん剤ができたころの昔の話です。植物から作られるものもありますし、今の抗がん剤は150種類以上もありますよ。

勝俣範之さんのお話を基に、看護roo!編集部で作成

 

 

それでも考えが変わらない患者さんにどう接すれば?

家や畑を売ったり借金したりしてでも、科学的根拠の乏しい医療を受けたいと考える患者さんはいます。

 

厚生労働省が誇大広告や虚偽広告を規制していますが、ほとんど対応が追いついていないのが現状です。

 

最近も、患者さんの死をめぐって有罪判決を受けたイタリア人医師の怪しい治療に関する書籍広告が新聞に掲載され、問題になりました。

 

そうした怪しい情報を目にしてしまうわけですから、わらにもすがる気持ちで患者さんが手を出してしまうのも無理ないと思います。

 

患者さん本人の納得が得られなければ、仕方がありません。

 

ただ、その時は止められなかったとしても、いつか患者さんが標準治療を受ける気持ちに変わるかもしれません。そう思って、かかわり続けるようにしています。

 

実際、補完代替療法や放置療法を選んでも不安で、当院を受診される患者さんもいらっしゃいますよ。

 

 

不安な患者さんへのかかわりで大切なことは?

勝俣範之さん

「何でも相談してくださいという姿勢でいることが大切です」と勝俣さん

 

患者さんの不安を和らげるために、看護師さんが果たす役割は大きいと考えています。

 

欧米などでは、標準治療の限界が来たとき、看護師さんたちが手厚くケアします。何か不安なことがあったら看護師がメールで相談を受けることで、救急にかかることが減ったという試みもあります。

 

日本でも、ネットやLINEなどを活用し、医療者が不安な患者さんの相談に乗れる仕組みができればよいのではないでしょうか。

 

残念ながら、日本では「もう治療はありません。緩和ケアに行ってください」などと言う医師もいますが…。

 

標準治療を終えた段階で患者さんはまだ元気なことも多いので、「なぜ、これほど元気なのに治療がないんだ」と疑問に思い、「ニセ医療」に流れてしまう構図があります。

 

私自身は、「最後まであなたの主治医なので、いつでも相談してください」と伝えるようにしています。そうすることで安心され、実際に在宅やホスピスへ移行してからも相談を受けることがあります。

 

看護師さんも医師と同じ。患者さんを見捨てないことが一番大切だと思います。
 

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

 

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(参考)

がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版(日本緩和医療学会)

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  3. 患部に温湿布を貼用する
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