「このままでいいのかな…」と迷った6年目に、看護師から治験コーディネーターへ

 

「病棟以外でも働いてみたい」、そう考える看護師が増え、看護師が活躍するフィールドが広がっています。

 

南裕子さんも新しい仕事に踏み出した一人。

 

南さんは、今後の進路に迷っていた看護師経験6年目のときに、治験コーディネーター(CRC、臨床研究コーディネーターとも言う)に転身しました。

 

国立がん研究センター中央病院でCRCとして働く南さんに、CRCになったきっかけや今の思いを聞きました。

 

 

 

きっかけは、進路に迷っていた時の医師からの誘い

CRCは、医療機関で治験や医師主導臨床試験などの臨床研究がスムーズに実施されるようにサポートをする仕事

 

関連部門との連絡調整やスケジュール管理、患者さんへの説明同意の補助、服薬状況や有害事象の確認など、業務内容は多岐にわたります。

 

特別な資格は必要ありませんが、医学的知識、医療情報や医療機関の仕組みを理解する必要があるため、看護師や臨床検査技師、薬剤師などがなることが多い職業です。

 

 

「正直、CRCがすごくやりたかった仕事というわけではないんですよ」と南さん。

 

看護大学を卒業後、国立がん研究センター中央病院で病棟看護師として働いていた南さんは、転職を決めた当時のことを次のように話します。

 

「どこの病院もそうかもしれませんが、看護師になって3年目を過ぎたころから同期の看護師が少しずつ減っていくことに焦りを感じるようになり、プリセプターになった4年目には周りの優秀な先輩と自分を比べて落ち込んでしまい、いつしか『このまま看護師を続けていてもいいのかな…』と迷うようになりました」

 

そんな看護師なら誰もが一度は陥りがちな進路に迷っていた時期に、他院にうつった医師から「CRCが不足しているから、うちの病院に来ないか」と誘われたことが、南さんの転機になりました。

 

南さんが勤務していた国立がん研究センター中央病院は治験が多く、院内にCRCに転身した看護師が複数いました。CRCに直接話を聞いたり、自分でも治験について調べてみたりしているうちに興味がわき、「やってみよう」と決心したと言います。

 

 

CRCは看護師の強みを活かせる仕事

そうしてCRCになった南さん。

 

CRCには、SMO(治験施設支援機関)に所属し、医療機関に派遣される「派遣CRC」と、医療機関に所属する「院内CRC」のおもに2つのパターンがあります。

 

いずれの場合も勤務地は医療機関であるため、製薬企業などに所属して企業側の立場で治験にかかわるよりも、看護師がなじみやすい職業と言われています。

 

 

南さんは、誘われた別の医療機関で院内CRCとして働いた後、結婚を機に国立がん研究センター中央病院に再就職しました。現在は、臨床研究コーディネーター室に所属し、院内CRCとして消化管内科や頭頚部内科、内視鏡科などの主に抗がん剤の企業治験、医師主導治験を担当するチームで働いています。

 

CRCになった当初、エクセルデータの使い方やビジネスメールの書き方、英語での症例報告書の理解など、これまで経験したことのない業務に戸惑うこともあった南さんですが、CRCになってから数年がたち、看護業務と通じるものがあると実感していると言います。

 

「患者さんとの接し方や、医師をはじめとする他職種との調整など、看護師というバックグラウンドの強みを生かせる仕事だと思います」と南さん。

 

また、依頼者である製薬企業やCRO(受託臨床試験機関)など院外の担当者とのやり取りをするようになったことで、ビジネスマナーを学ぶ機会にもなったと南さんは言います。

 

 

治験の間ずっとかかわれることが、CRCの魅力の一つ

治験に使用する検査キットの準備をする南さん。

 

CRCになって南さんが感じたことの一つに、患者さんとのかかわり方の違いがあります。

 

「病棟看護師として働いていたときは、入院中のパジャマ姿の患者さんに接していたため、どうしても病棟中心の見方をしていました。もちろん、病棟で働く場合はそれでよいと思いますが、CRCになって外来で私服姿の患者さんにお会いし、日常生活や仕事の話を聞く機会が増え、より患者さんの生活を意識するようになりました」

 

たとえば、通院で治験を受ける患者さんに薬の説明をする場合。

 

薬の治験では指定された服用ルールを守ってもらう必要があり、中には「服用前2時間と服用後1時間は飲食禁止」という複雑な飲み方の指定もあるため、ライフスタイルを聞き、飲み忘れを防ぐ方法を一緒に考えていきます。

 

家を出るまで時間に余裕がある患者さんであれば、起きてすぐに服用し、1時間後に朝食を取るというルーチンにすれば忘れにくいのではないか。朝起きて30分後に家を出る患者さんではこの方法は取れないので、昼食の前後、帰宅後のいつが一番よいか。そんなふうに患者さんの日常生活に入り込んだ会話を重ねることで、生活者の視点で患者さんを見るようになったと言います。

 

また、抗がん剤の治験では、有害事象が発生したり、効果がないと判断されたりすれば、その段階で治験は終了となりますが、治験期間が長い患者さんでは年単位でかかわることもあります。治験後の追跡調査で電話で話をすることも。「治験の間ずっと患者さんにかかわれることも、CRCの魅力の一つかなと思います」と南さん。

 

 

やりがいは、治験薬の承認だけじゃない

新しい薬が誕生するまでには、約10年以上の長い道のりがあります。

 

CRCはその中で、人に投与して薬の有効性や安全性を確認する臨床試験をサポートする仕事です。

 

 

CRCの仕事を通じ、一つの薬が承認されるまでの長い過程を意識するようになった南さんは、CRCのやりがいについて次のように話します。

 

「自身がかかわってきた薬が承認されることは本当に嬉しいことです。でも、それだけがCRCの仕事の目的でもやりがいでもありません。治験を終え、薬が効く・効かないにかかわらず、『治験に参加してよかったです』と患者さんに言っていただけた時に、CRCとしてのやりがいを感じます」

 

治験には、治験薬とプラセボ(薬効のない偽の薬)や標準治療薬との比較試験がありますが、その場合、治験が終わっても、何を服用したかは患者さんに知らされないことがほとんどで、その点を不安に思う患者さんも多いと言います。

 

参加してよかったという言葉は、自身の病気を治すためと同時に、将来、同じ病気に苦しむ患者さんの役に立つかもしれないという治験の意図を理解してもらえたからこその言葉だから嬉しいと南さんは言います。

 

 

知識や実務能力は、だんだん身についていくもの

CRCは関連部門との連絡調整や治験のデータ入力など、デスクワークも多い仕事

 

最後に、CRCにはどのような人が向いているのか、南さんに聞いてみました。

 

「きちんとした性格の人が向いているなど、多少の向き・不向きはあるかもしれませんが、やってみたいと思うからなるものですよね。看護師になるときと一緒ですよ。患者さんの役に立ちたい、そういう気持ちや興味があれば、知識や実務能力はだんだん身についていくものだと思います」

 

未経験の仕事に挑戦するのは勇気がいるものですが、南さんはCRCになるとき、「合わなかったら、看護師に戻ればいい」と思えたことで一歩を踏み出せたと言います。看護師という国家資格を持っている強みはやはり大きいと言えるでしょう。

 

いつのまにか看護師の経験よりCRCの経験が長くなった南さん。「周りのCRCの先輩を見習い、少しでも近づけるように、コーディネート力や知識をもっともっと伸ばしていきたい。患者さんが治験に参加したことに対して後悔しないようにかかわっていきたい」と話しました。

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

 

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海の救護所で働く「海ナース」に会いに行ってみた。

 

(参考)

CRCの主な業務(日本SMO協会)

くすりができるまで(日本SMO協会)

公認CRC・SMA制度(日本SMO協会)

認定CRC制度について(日本臨床薬理学会)

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