サンリオピューロランドナースのお仕事に密着【後編】 | 病院外の看護現場探訪【5】
医療機関以外で働く看護師さんのお仕事の様子を紹介する「病院外の看護現場探訪」シリーズ。
今回も引き続き、『サンリオピューロランド』で働く看護師のお仕事に密着します。
【前編】はこちらから
「サンリオピューロランドナース」の小泉富子さんは、勤務歴10年のベテランです。
前編では、華やかなテーマパークで働く小泉さんの、1日のお仕事に密着しました。
後編では、小泉さんの看護師ならではの、安全対策への働きに注目。
ナースの視点から、館内のケガなどによる事故を、未然に防ぐために行っている取り組みをご紹介します。
【プロフィール】
小泉富子(こいずみとみこ)さん。看護師歴24年。周産期センターや大学病院各科の外来、クリニックを経験後、10年前より『サンリオピューロランド』勤務。きっかけは、子育てが一段落し、常勤で夜勤のない仕事を探していたときに、新聞の折込広告で求人を見つけたことから。勤務のときは、ハローキティの腕時計を愛用するほどのサンリオファン。
ナースの目線で行う安全対策
救護センターには、転倒による捻挫や打撲を訴えるゲストが多くやってきます。
特に、小さなお子さんがケガをしてしまうケースがとても多いとか。
小泉さんは、実際にケガが発生してしまった際は、必ずその場所に行き、原因を突き止め、上司に報告をするそう。
また、頻繁に館内を歩きながら、自分の目で確認し、危険だと判断した場所も改善を提案していきます。
実はこの仕事、小泉さんが勤務した当初は、看護師の業務ではありませんでしたが、小泉さんは、率先して取り組み始めたといいます。
「今も特に”ナースの業務”として定められているわけではないんですどね(笑)。ただ、思うところがあって。看護師として、発生してしまったケガや病気に対して、的確な看護をすることは重要です。だけど、ここはテーマパークで、楽しい思い出を作る場所。救護センターを利用することになったお子様を見ていたら、未然にケガをしないように対策をすることが重要だと感じるようになりました。
以前は周産期センターで勤務したことと、私自身、母としても子どもを育てた経験もあり、『子どもにとって危険なもの』に対するアンテナがありました。だから、いてもたってもいられなくなって、『ここの階段、段差が不揃いで危ないです!』などと上司に相談をするようになりました。以来、看護師としての業務と並行して、館内の危険箇所を改善する努力を行っています」
危険な箇所をチェックする際は、「子どものゲストなら、どういう行動を取るか」ということを、しっかりと想像しながら行います。
子どもの目の高さにある出っ張りには、先端にゴムをつけています
「大人の目線なら安全な場所も、子どもなら危ない!という箇所は多くあります。特に、夢中でいるときの子どものゲストは、どういう行動に出るかわかりません。だから、子どもがどういう行動を取るか、あらゆるパターンを、大人の頭でたくさん考えて、考えぬいて、危険の可能性を見つけながら、1つずつ取り除いていきます」
事故を30%減らした取り組み
館内において、最も転倒リスクが高いのが、階段です。
館内は暗く、足元が見えにくい上に、ゲストは、前方の華やかな建物や楽しげなイベントの様子に目がいきがち。足元への注意が足りず、結果として転倒事故が発生してしまいます。
「段差の高さや、踏み場の幅がまばらな箇所など、転倒リスクを秘めている箇所もあります。看護師としては、なるべく全てのリスクを取り除くために、構造自体を危険性のないものに変えてほしい、という思いもあります。
だけど、あまりに安全に配慮ばかりしても、テーマパークとしてのデザインや雰囲気が損なわれてしまうので、デザイナーや上司と相談をしながら、バランスを取りつつ、関係部署に安全対策をお願いしています。
例えば、段差が狭くなっているところは、花を置いて通れなくしたり、どうしても暗い場所には、雰囲気を壊さないように、ライトを追加したりなどを行っています」
フェンスの隙間に足や顔を入れてしまい、抜けなくなってしまう子どものゲストも多いそう。
「そのため、隙間にネットを貼って、お子さんがうっかり手足を入れてしまわないようにしました」
「注意喚起のためのメッセージプレートは、あまりに数が多いとゲストに現実感を与えてしまいますが、周囲と話し合って、必要な箇所にはしっかりと貼ることにしました」
「柵を越えて階下に転落してしまうリスクを防ぐため、この柵も、後から追加したものです」
このような取り組みを続けた結果、小泉さんが勤務してからの10年間で、サンリオピューロランドの事故は30%減少したそうです。
利用者の声を反映した「授乳スペース」
他にも、小泉さんの提案で改善された施設があります。
その一つが、救護センターの隣にある、「ベビーセンター」。
この部屋は、赤ちゃんとお母さんのためのスペースで、授乳やおむつ交換を行うことができます。
入り口付近にある授乳スペースは、小泉さんの提案で増設されました。
「以前は、授乳スペースの数が足りてなくて、お昼時には、お母さんの行列ができていました。現在は手前の3つと、奥に1つ、計4つのスペースがあり、以前より、混雑は解消されました」
取材中も、たくさんのお母さんが、ベビーセンターを利用していました。
その内のあるお母さんグループが、ベビーセンターの入り口に立ったとき、
「このお部屋、すごくかわいい!」
と楽しそうに話していました。
「お母さんたちのような、大人の方に喜んでもらうことも、とても嬉しいんです。授乳はお母さん達にとって、やはり大変なこと。夢の世界であるテーマパークのなかでは、現実に立ち返ってしまう行為でもあります。だからこそ、この部屋で授乳をしたことも、楽しい思い出にしてもらえたら本望ですね」
スタッフ全員でつくる「安全」
館内には、社員やアルバイトを含め、常時200~250人ほどスタッフがいます。
その中で、看護師として勤務しているのは、小泉さんも含めて2名だけ。
館内の救護を一手に担うため、責任は重大です。
「とはいえ、私たちナースだけで看護をしているというわけでもないんですよ」と笑顔で話してくれた小泉さん。
「以前のことですが、入場口付近で、70代の男性が倒れたことがありました。無線からの報告を受けて、心肺停止のリスクがあったため、現場に向かう途中で、救急車を呼びました」
現場に到着し、男性の状態を確認すると、すでに心肺停止状態でしたが、小泉さんは、すぐにAEDを使った蘇生術を実施しました。
救急車が到着するまでの迅速な対応が実り、男性はその後、無事に回復し、社会復帰されたそう。
この時、小泉さんは、周囲のスタッフたちがいてくれたからこそ、救助することができたと感じたと、当時を振り返ってくれました。
「私が駆けつけるまでに、複数のスタッフが懸命に患者さんまでの導線を確保してくれていました。もし、導線が作られていなかったら、男性の元までスムーズに辿りつけず、心肺蘇生が間に合わなかったかもしれない。スタッフ全員が、それぞれの役割を把握して行動できたことで、男性を助けることができました」
現在も、救急時におけるスタッフ間の連携は、小泉さんの指導を中心に、スタッフ全員に伝達されています。
東日本大震災の際も、1人もケガ人を出すことはなかったそうです。
「もちろん、スタッフの多くは、看護や救急のプロではないので、実践的な対応法など、なかなか伝わらないこともあります。だけど、『こういうときはどうすればいいですか?』って熱心に質問してくれたり、そして、理解できるまで必死に考えてくれる。スタッフが一丸となって、ゲストの安全のために、取り組むことができていると思っています」
最後に、サンリオピューロランドナースとしてのやりがいと、今後の目標を伺いました。
「ここでの仕事は、救護対応だけではなく、サンリオピューロランドの1人のスタッフとして働ける、接客業としての喜びがあります。看護師としても責任は大きいですが、その分、ゲストにもスタッフにも頼ってもらえることが嬉しいです。
ただ、救護センターは病院ではないので、最新の医療知識は得にくい部分もあり、不安になることもあります。その分は、自分で勉強会に参加したり、病棟に勤務している友人に教えてもらったりしながら補いつつ、私がゲストのためにできることを、いつも全力で取り組んでいけたらと思っています。
その結果として、『サンリオピューロランド』に遊びに来てくれた人が、この場所を好きになって、また遊びに来てもらえたら、それが一番嬉しいですね」
サンリオピューロランドに訪れたゲストに最高の思い出を届けるため、これからも小泉さんは救護センターからゲストを見守りつづけます。
【番外編】かんごるーちゃん、サンリオピューロランドに潜入の巻
サンリオピューロランド
京王線・小田急線・多摩モノレール線多摩センター駅より徒歩約5分
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