看護師の死亡診断書代筆は本当に実現できるのか?
死亡診断は医師の立ち会いが必須ー―。
この常識が変わります。
医師が遠隔診療を行い、看護師が死亡診断書を代筆できる制度が、2017年度内にスタートする見込みです。
具体的には、教育研修を受けた看護師が、ICT端末を使って医師に必要な情報を送ります。
それを基に、医師が遠隔で死亡診断を行い、看護師が死亡診断書を代筆します。
医師の死亡確認に、12時間以上かかると予想される場合に限り適応となります。
◆目次
患者の死亡時に看護師が行うことは?
遠隔での死亡診断が必要だと予想される場合、事前に本人および家族に、書面による同意を得ておきます。
そのうえで、患者の死亡時に最初に看護師が行うことは、「医師と家族間のコミュニケーションを促すための声かけ」です。
声掛けの例は、厚労省のガイドラインに以下のように示されています。
看護師A: (前略)B様がお亡くなりになったときの状況について、お聞きしてもよろしいでしょうか。
遺族C: (前略)今朝の午前7時に私が声をかけたところ返答がなく、息をしていなかったので、体を触ったところやや冷たかったため、ご連絡した次第です。
看護師A: わかりました。まずは私がB 様の状態を確認致しますが、引き続き事前にお話したように、医師D が遠隔から死亡診断等を行います。よろしいでしょうか。
遺族C: どうぞよろしくお願いします。
看護師A: かしこまりました。それでは、遠隔での死亡診断等が終わり、ご家族様へのご説明の準備ができましたら、お呼び致しますので、一度お部屋から出て頂き、お待ち頂けますでしょうか。
遺族C: よろしくお願いします。
このように声掛けを行ったあと、リアルタイムで双方向に医師とやり取りできる端末を使って、医師の指示の下、遺体の観察・写真撮影などを行います。
医師は、看護師から送られた情報をもとに遠隔下で死亡診断を行います。
その後、看護師が医師の指示を受けて死亡診断書を代筆します。
死亡後12時間以内に医師が診察できない等が条件
看護師による死亡診断の代筆ができる際の要件は、主に下記の内容になっています。
〇医師による直接対面での診察経過から、早晩死亡することが予測される
〇終末期の対応についての事前の取り決めなど、医師と看護師が十分な連携が取れていて、患者や家族の同意がある
〇医師による速やかな対面での死後診察が困難
〇法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が、死の三兆候など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できる
〇看護師からの報告を受けた医師が、ICTを活用して患者の状況を把握することで、死亡確認や異常の有無を判断できる
「ICTを利用した死亡診断に関するガイドライン策定に向けた研究」(厚生労働省)より要約
看護師不足の中、どこまで現実的な制度となるか?
死亡診断を代筆することができる看護師の要件は、次の通りです。
実務経験5年以上、看取り経験3例以上などの看護師が対象になります。
〇看護師としての実務経験5年以上
〇その間、患者の死亡に立ち会った経験3例以上
〇看護師としての実務経験のうち、訪問看護または介護保険施設などにおいて3年以上の経験を有し、その間に患者5名に対してターミナルケアを行った経験があること
「ICTを利用した死亡診断に関するガイドライン策定に向けた研究」(厚生労働省)より要約
ここでいう「ターミナルケアを行った」とは、患者の死亡日および死亡日前14日以内に、2回以上の訪問看護などを実施したうえで、ターミナルケアを行った場合をいいます。
一方で、訪問看護の従事者は全体の2%程度と、決して十分な数が確保されているとは言えません。
(厚生労働省:看護職員の就業場所2012年データ)
ターミナルケアの頻度が高い看護師の割合はさらに低いと考えられ、どこまで現実的な制度となるのか、今後の動向が注目されます。
早ければ2017年9月に看護師向け研修がスタート
厚生労働省は、早ければ9月から看護師向け研修を実施し、2017年度内にも遠隔診断を始めたい考えです。
また当面は看護師による死亡診断について全例を把握し、適切に運用されているかを確認したうえで、1年後の2018年3月をめどにガイドラインの再検証を行う予定となっています。
患者の意思決定支援なども研修
死亡診断を代筆するために看護師が受ける研修内容は、「死亡診断を行うにあたって必要な法令の理解」「実際の機器を使ったシミュレーション」「死亡前後の患者・家族との接し方」となっています。
なお、「患者・家族との接し方」では、患者の意向を尊重した意思決定支援が含まれます。
“死に場所”求める入院の解消へ
これまで、亡くなった方を埋葬するには医師による「死亡診断書」が必要でした。
しかし、在宅療養中の患者の場合は、死亡後の速やかな診察が難しいことがあり、そのために死期が近づくと病院に入院するというケースがあると指摘されていました。
また、在宅での死亡後に、医師の到着を待つため、遺体を長時間保存・長距離搬送したりすることが生じているとの報告もあります。
看護師による死亡診断書の代筆は、これらを解消するための1つの方法として期待を集めています。
【ライター:横井かずえ】
(参考資料)
厚生労働省科学研究費補助金「ICTを利用した死亡診断に関するガイドライン策定に向けた研究」
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