オリンピックで外国人患者さんが倍増!?急がれる病院の受け入れ対策
東京オリンピック・パラリンピック(以下、オリンピック)の開催が3年後に迫りました。みなさんの病院では、外国人患者さんの受け入れ準備は進んでいますか? 「東京ではないから関係ない」、そんなふうに思っていませんか?
日本を訪れる外国人は年々増加し続け、昨年、年間2,000万人を超えました。政府はオリンピックが開催される2020年にはその倍に当たる4,000万人の来訪を目標に掲げています。単純に外国人患者さんが倍になるとは限りませんが、増えることは間違いありません。また、オリンピックを機に、東京以外の地域にも足を運ぶ外国人が増えるとみられていますので、これまで外国人患者さんが少なかった地域でも対応が必要になることは十分に考えられます。
今回、「第20回日本臨床救急医学会総会・学術総会」では、2020年のオリンピック開催へ向け、医療者が取り組むべき課題や現状について考えるワークショップ「東京オリンピック・パラリンピック2020までに解決すべき事」が開かれました。
左から川越救急クリニックの上原淳氏と九州大学大学院の永田高志氏
やはり外国語への対応が一番の課題
日本で最初にできた救急専門のクリニックとして知られる川越救急クリニックの上原淳氏は、東京郊外のクリニックの立場から、どのような準備が必要で、いかに対応すべきかについての考えを紹介しました。
同クリニックでは、ここ2、3年で外国人患者さんが急激に増加し、現在では年間120人ほどの受診があるといいます。そのうち、7割近くが外来患者、3割弱が救急搬送患者で、国別にみると中国、米国、韓国が多数を占めているそうです。
上原氏によると、外来患者さんの場合は、本人が日本語を話せたり通訳ができる人が付き添って来たりするため、困らないケースが多いそうですが、救急搬送の場合はまったく日本語が通じないケースもあるといいます。特に困るのが、英語が話せない患者さんで、ベトナム人やパキスタン人などとは、なかなか話が通じないことがあるそうです。
日本病院学会国際医療推進委員会が発表した2015年度の「医療の国際展開に関する現状調査」でも、同様の傾向が見られたといいます。同調査では、全国の同学会に加盟する417病院のうち、英語に対応している病院は88.5%だったのに対し、中国語は27.6%、韓国語は12.9%で、そのほかの言語にいたっては軒並み数%程度にとどまっていました。
また、同調査によると、外国人患者さんを受け入れる上での課題として、95.8%の病院が「言語・会話(多言語対応)」を挙げ、44.6%が「医療通訳の提供体制の充実」を挙げていました。上原氏は、「一番の問題点は、やはり言語・会話・コミュニケーション」と強調しました。
一方で、観光庁が2011年に行った「外国人観光案内所を訪問した外国人旅行者アンケート調査結果」でも、観光案内所にあってほしい情報やサービスとして10位に「外国語の通じる病院情報の入手」がランクインしており、外国人からも外国語への対応が求められていると指摘しました。
翻訳機も通訳も専門用語への対応が難しい
また、上原氏は「日本語が話せない外国人患者さんへの対応は各医療機関の努力に依存しているところが大きい」と強調し、Google翻訳や各種翻訳アプリなどを使って、なんとか対応しているのが実情だとしました。その上で、厚生労働省のバックアップで開発されたアプリ「救急VoiceTra」を紹介。救急業務でよく使われる表現が定型文として登録されており、マイクを通した音声翻訳機能もあるものだと説明しました。ただし、現場から医療機関に搬送するまでを想定したものがメインのため、医療機関内での使用では難しい部分もあるとのことでした。ほかにも、メガホン型の翻訳機であるパナソニックの「メガホンヤク®」なども紹介されました。
上原氏は、現状のITやアプリなどの翻訳機について、「一般的な会話や定型文であれば同時通訳レベルまでいけそうですが、マイクを使ってサーバーにアクセスするには若干のタイムラグがあり、専門用語への対応は難しい。発音が悪いと変な言葉を出すなどの問題点もあります」と指摘し、実際の使用にはまだ課題があるとしました。
一方、通訳ボランティアの活用についても触れ、翻訳機と同様、専門用語に精通していない点に問題があるとしました。また、利用すると医療機関に請求が来るケースもあり、費用負担も難しい問題だとしました。
最後に、多くの医療機関が外国人患者を迎える上での課題としてコミュニケーションの問題を挙げており、「行政や学会が組織立った取り組みをする必要があるのではないか」と訴えました。
熱中症対策にフラッグシステムや氷風呂を提案
九州大学大学院医学研究院先端医療医学部門災害・救急医学の永田高志氏は、開催中に予想される熱中症の増加への対策について提案しました。
永田氏は、すでに名古屋ウイメンズマラソンや福岡マラソンで導入されている、国際マラソン医学協会が提唱する「フラッグシステム」を紹介。ランナーに気象条件やそれによる健康への影響に関するメッセージを旗の色で伝えることで、熱中症患者さんを減らせるシステムだと説明しました。
表1暑さ指数情報伝達システム(フラッグシステム)
たとえば、気温が28℃以上であれば大会をキャンセルし、22~28℃であれば潜在的に危険な状態なので、ペースを落としたり大会途中でのコース変更に注意したりするなど、大会スタッフの指示に従う必要があるとしています。日本ではまだ導入が始まったばかりですが、シカゴでは既にランナーの間でも認知されるまでになっており、優れた方法であるとしました。
そのほか、重症熱中症患者さんには「氷冷水浸漬法(氷風呂)」を用い、まず冷却し、その後、搬送する方法を紹介しました。しかし、会場の医師からは、超低体温で心臓手術をしたケースで、氷風呂に入れた途端に心臓が止まった経験があり、モニタリングをしっかり行わないと助けるつもりが心停止を起こすこともあり得るという慎重な意見もありました。
看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo)
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