「薬物依存は疾患」医療者の認識も不足―法務省・厚労省が支援ガイドライン

元プロ野球選手、清原和博の覚せい剤使用と逮捕が連日、大きく報道されています。

 

一般的に、日本における薬物使用率は諸外国と比べて圧倒的に低いといわれています。同時に、薬物依存者の復帰を支える支援体制も、ほぼ未整備の状態です。

 

こうした状況を打開するために、法務省と厚生労働省は共同でガイドラインを作成。医療者に対しては、依存者を「犯罪者」ではなく「患者」ととらえて欲しいなどと呼びかけています。

 

 

日本人の薬物使用率の低さと危険性

日本人の大麻・覚せい剤等の使用率は、諸外国と比べてはるかに低い数字になっています。たとえば大麻の使用率(一生のうちで使用した経験がある人の割合)は欧米諸国が軒並み30%を超え、アメリカでは40%以上です。

 

これに対し、日本での使用率はわずか1.2%。覚せい剤については最も高いイギリスでは11.4%と10人に1人も使用経験があるのに対して、日本では0.4%です。

 

【表】主要な国の薬物別生涯経験率 

引用元:薬物乱用の現状と対策(厚生労働省)

※アメリカ、日本はメタンフェタミン、その他の国はアンフェタミンの生涯経験率

 

また、大麻については合法化する国が近年相次いでいて、アメリカのワシントン州とコロラド州では2012年、スイスが2013年、ドイツでは2010年から首都ベルリンでのみ合法化しています。

 

依存性のある薬物についての法規制は様々ではありますが、いずれにしても日本の使用率の低さは際立っています。

 

使用率が低い事実はもちろん誇るべきことですが、反面、薬物使用がアンダーグラウンドに潜ってしまい、依存症患者に対する支援体制が確立されにくい、というデメリットも同時に存在します。

 

薬物依存は「疾患」―医療者にも浸透せず

薬物依存は治療すべき疾患ですが、医療従事者であっても、「薬物依存者」=「患者」ととらえず、「薬物依存者」=「犯罪者」と捉える感覚は根強く残っています。

 

患者が薬物依存から抜け出したくても専門科の治療にたどり着くことが難しく、依存を断ち切るチャンスを得られなかった結果、逮捕まで至るというマイナスループに陥っている現状も指摘されています。

 

海外では薬物依存の治療プログラムも普及していて、医療機関や民間支援団体など、依存症患者が外来で治療を受けるための施設もたくさんあります。

日本ではダルクと呼ばれる薬物依存症患者の支援団体があるものの、諸外国と比べて圧倒的に数は不足しています。

 

こうした国内の状況を解決するために、昨年11月、厚生労働省と法務省は「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」をまとめました。

刑務所などの司法機関と医療機関、保健・福祉機関などが連携し、薬物依存の更生者を地域で支えていこうとする試みです。

 

ガイドラインではまず、医療機関に対して、薬物依存者は「薬物依存症という精神症状に苦しむ一人の生活者」であり、先入観を排除して回復を支援するよう求めています。

 

その上で、医療機関と刑務所、保護観察所、保健所、福祉施設などが連携し、連絡会の開催や人材の育成など、切れ目ない社会復帰のサポートを行うシステム作りを提言しています。

 

再犯率61%の薬物依存をなくすには

薬物依存から脱却するには、いくら刑罰を重くしても効果がありません。薬物依存には薬物がないと陥る離脱症状は身体的依存、どうしてもほしくなってしまう精神的依存があります。

どちらも本人の意思だけで断念することは困難な精神疾患であり、専門家によるケアと継続した治療プログラムのサポートが重要です。

 

最近では日本の刑務所内でも、薬物依存の治療プログラムを受けることができます。ですが刑務所内でだけ更生プログラムを受けても不十分。薬物事犯の再犯率が高いのは、「出所直後」や「保護観察終了後」など、刑務所内のプログラムから離れた後だからです。

 

薬物事犯はとても再犯率が高い犯罪です。この10年間で覚せい剤事犯者は約1万4800人から1万1800人(2012年)へと3000人も減少したにも関わらず、再乱用者の割合は53%から61%とむしろ増えています。

このことからも、完全に薬物依存を断ち切ることのむずかしさがわかります。

 

一度落ちると抜け出すことが困難な薬物地獄。

彼らは禁止薬物に手を出した犯罪者であると同時に、激しい離脱症状に苦しむ患者でもあります。依存症治療プログラムの早急な普及が望まれます。

 

(参考)「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」について(法務省)

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