「豊胸前の方が良かった」が75%―胸を大きくする手術の「その後」
看護師が見た豊胸手術の「その後」―Facts About Breast Implants
「理想のボリューム」「自然な仕上がり」
自信に満ちあふれた笑顔の女性と、ビフォー・アフターの写真が印象的な豊胸手術の広告は、「コンプレックスを解消したい」「美しくなりたい」という強い願いを持つ女性なら、一度は興味を抱くのではないでしょうか?
しかし、海外では、豊胸手術に関連した健康被害やトラブルが数多く報告され、“豊胸は永久ではない”という事実も広く知られるようになっています。
そこで今回は、世界一を誇るアメリカの豊胸手術事情と日本人の知らない豊胸のお話を紹介します。
【INDEX】
・本日のKey Word:go under the knife(手術)
豊胸大国アメリカにあって日本にない「年齢制限」
アメリカの豊胸手術は人気・件数ともにNo1。 特に、美しさを追求するハリウッドセレブの影響力もあり、実に年間40万件の豊胸手術が報告されています。
一方、日本の豊胸手術件数は2011年のデータによると、年間約5万件です。
1960年代に、美容目的の豊胸バッグが開発されて以降、ダントツTOPの豊胸件数を誇るアメリカには、日本人のあまり知らない黒歴史があることをご存知でしょうか?
アメリカで豊胸手術が普及し始めた1980年代、日本にもアメリカのシリコンバッグや生食バッグを使った豊胸手術が広まりました。
しかし、日本の厚生労働省に当たるアメリカの政府機関:米国食品医薬品局(FDA)が、豊胸用に使われるバッグの安全性を調査し始めたのは、豊胸による合併症や後遺症が表面化し問題視し始めた1991年でした。
FDAが豊胸用の生食バッグをはじめて承認したのは2000年です。シリコンバッグにいたっては6年後の2006年に承認されましたが、今でも生食バッグは18歳以上、シリコンバッグは22歳以上の女性にのみ使用が限られています。
一方、日本の豊胸手術に年齢制限はありません。保護者の同意書と医師の裁量次第で何歳からでも希望する豊胸手術が受けられます。
アメリカで豊胸用のバッグが承認されていなかった時期があったこと、アメリカには生食とシリコンバッグに異なる年齢制限があること、豊胸手術を行う日本のクリニックのホームページには、この事実はほとんど触れられていません。
永久保証の豊胸はないのに「半永久的」?
日本のクリニックでは「半永久的な豊胸効果」をうたうところが多くあります。
でも、「永久に使える」豊胸バッグはありません。生食であれシリコンであれ、最終的には破けます。
FDAの調査によると、平均寿命は10年です。11年以内に少なくとも片方のバッグが破損する、という研究結果が報告されています。やっかいなのは、シリコンなどの内容物が体内に流出しても気づかないケースが少なくないことです。
一方で、半永久的な豊胸効果を掲げるクリニックの多い日本に、FDAのような詳しい統計調査の記録はありません。つまり、日本のクリニックが好んで使っている「半永久的」は、追跡調査のデータなどを踏まえた根拠のある言葉ではないということです。
豊胸バッグは、10年で入れ替え、または、除去が必要なことを知っておいてください。
そして、決して合併症や後遺症がないわけではないことも。
表には出てこない豊胸後の合併症と後遺症
2014年、アメリカでは23000件の豊胸バッグ除去術が報告されています。その理由としてあがるのは、入れ替えの時期以外に、胸の痛み・感覚麻痺・感染・バッグが硬くなる・バッグが破れるなどです。
最近では、生食バッグ内にカビが繁殖し、それが破損して体内に流出し、深刻な健康被害をもたらしたケースも報告されています。すべてのケースが、豊胸バッグ除去をしたからといって、経過良好にむかう訳ではありません。取り除いた後も、痛みなどに悩まされるケースもあるのです。
私自身、豊胸バッグ除去術に立ち会った経験があります。約10年前に入れたシリコンバッグが固くなったため、除去したいというケースでした。
取り出したシリコンは、暗緑色に変色し柔軟性を失った固形物に変わっていたのを今でも鮮明に覚えています。
「豊胸前のほうが良かった」が75%
FDAの承認を得たアメリカの豊胸バッグ製造会社Allergan と Mentorは、豊胸手術を受けた女性を追跡調査し、その結果を公表する義務が課せられています。
残念ながら、決して安心を示す数値や自信を取り戻した女性を示す結果がすべてではありません。
まず、豊胸手術を初めて受けた女性の2人に1人が痛みなど何らかの合併症や後遺症を3年以内に併発すると報告しています。
さらに、Allergan社は「自分に自信が持てるようになった」を含む12項目の生活の質に関する調査を実施、その結果、12人中9人(75%)が、豊胸前のほうが良かったと答えたのです。
この結果は、豊胸手術の後遺症に悩まされる率が高いこと、そして、豊胸は心の治療にはならないことを物語っています。
「easy come, easy go」、「すぐに手に入るものは失いやすい」、という意味です。
豊胸手術が一時的なコンプレックスの解消や自信につながったとしても、豊胸で自分の内面は変わりません。
思い描いていた美しい胸が崩れ始めたとき、後遺症に悩むようになったとき、豊胸で得た胸への自信は、新たなコンプレックスとストレスに変わり、大金をつぎ込んで選んだ自分の安易な決断を後悔する人が多いという結果です。
憧れの美しい胸を手に入れた女性モニターがずらりと並ぶ美容クリニックの広告サイト。
彼女たちの喜びの声は、魅力的に聞こえるかもしれません。しかし、彼女たちがこれから先少なくとも10年おきに豊胸バッグの入れ替えをし、合併症のリスクを抱えながら生活していくこと、そして、豊胸は心の治療にはならないこともまた事実であることを、豊胸に興味のある方は知っておいてください。
本日のKey Word :「go under the knife」(手術)
日本の「豊胸」をさす英語はいろいろあります。
例えば、「breast implants」「breast augmentation」「boob job 」です。日本のサイトには「豊胸」=「breast enlargement」と載っていますが、あまり使っている人を聞いたことがありません。医療現場では「breast augmentation」、ゴシップ記事などでは「boob job」が多い印象です。
「手術」も「surgery」以外に、本日のキーワード「go under the knife」という言い方があり、雑誌などでよく目にします。
You have to know the ins and outs of breast implants before you make the decision to go under the knife.
(手術やるって決める前に、豊胸に関する表と裏を知っておかなきゃいけないよ)
【Sources】
Facts About Breast Implants(ourbodies ourselves)
Breast implants as therapy? Not so much(National Center For Health Research)
【筆者】佐藤まりこ
2001年旭川医科大学医学部看護科を卒業。2010年California RN Licenseを取得後、LAでRN(Registered Nurse)として活躍中。
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