「私の関心は患者さんの生き方そのもの」病気と共に歩む人生を支えたい
「私の関心は患者さんの生き方そのもの」病気と共に歩む人生を支えたい|慢性疾患看護専門看護師
慢性疾患看護専門看護師
羽田 忍(はねだ・しのぶ)さん
がん研究会有明病院 消化器化学療法科病棟師長
▼2017年度、順天堂大学大学院 医療看護学研究科 博士前期課程 修了
▼2018年度~、慢性疾患看護専門看護師
慢性疾患看護専門看護師の羽田忍さんが勤務するのは、がん専門病院である「がん研究会 有明病院」(東京)。いくつかの職場を経験後、がん研に入職して10年目の2018年度に資格を取得しました。
「がん看護ではなく、どうして慢性疾患看護の専門看護師に?」。思わず出た質問に「ですよね(笑)」と笑いながらも、羽田さんはこう答えます。
「学びたい先生が順天堂大の慢性疾患看護コースの先生だったのも大きいんですが、私の関心は『セルフマネジメントしながら病気と共に自分の人生を歩む』という患者さんの生き方そのもの。そういう生き方を支える慢性疾患看護専門看護師が、私には合ってたのかな」
慢性疾患看護のスペシャリストとして長期のがん治療を支える
慢性疾患看護専門看護師の役割は、慢性疾患を抱える患者さんの治療や健康管理、生活を長期にわたって支援すること。
対象とする疾患は糖尿病、心臓、腎臓、呼吸器などの慢性疾患、神経難病など、多岐に及びます。
そうした中、「がんも慢性疾患の一つとしてとらえることができる」と羽田さん。
「抗がん剤治療やホルモン療法を続けながら、治療と折り合いをつけて日々の生活を送る患者さんは増えています。それは時に10年以上にもなる。
『がんと共に生きる』と言われるように、がん治療の進歩で長期生存も実現できるようになりました。ほかの慢性疾患と同じく、がんも『うまく付き合っていく病気』の一つと私は考えています」
慢性疾患看護の専門看護師としての自分と、がん看護の現場の自分。
羽田さんにとってこの2つの間に境目はありません。どちらの視点も密接に結びつき、セルフマネジメントが必要ながん患者さんを支えることに「手応えを感じている」と話します。
「丸ごとの視点」が捉えた患者さんと看護師の思い
専門看護師である羽田さんが現場に介入するとき、軸としているのは「今、何が起きているのかを丸ごと見る」という多角的・俯瞰的な視点です。
たとえば、ある高齢の男性患者さんのケース。
退院後、自宅で抗がん剤の服用を続けていましたが、副作用の下痢が激しく緊急入院で戻ってきていました。
このとき、羽田さんが「丸ごとの視点」で捉えたのは、患者さんと病棟ナースのそれぞれ2つの姿でした。
1つは、「1日に◯回以上の下痢があったら休薬する」という指示を守らないアドヒアランス不良の患者さんと、「なぜ休薬してくれないのか」と不満そうな看護師たち。
そしてもう1つの姿は、下痢をして痩せていく不安で「良くなるために」服用を続けてしまった患者さんと、以前から高圧的だった患者さんの態度に信頼関係を築きにくくなっていた看護師たちでした。
「こんなふうに患者さんのことや、看護師との関係が丸ごと俯瞰できれば、ここが私の介入どころかなというポイントが見えてくる」と羽田さん。
このケースで羽田さんがポイントと見たのは、下痢症状に対する患者さんの捉え方でした。
この患者さんにとっては、「1日◯回の下痢」という数字の指標よりも、「トイレに間に合わなかった」「体重が減って不安を覚えた」などの症状体験が強い印象を与えていると判断、服薬指示の言葉を変えることに。
副作用についてあらためて説明したうえで、「トイレに間に合わなくなりそうなお腹になったら、お薬を休むときですよ」と体験を中心にした伝え方で不安を解消し、休薬の理解を深めてもらいました。
一方、看護師に対しても、こうした患者さんの捉え方や不安を伝えることで「医療者の意見を聞かない難しい患者だ」というネガティブな印象を取り除き、患者さんとの良好な関係性を取り戻したそう。
「医療の現場には、嫌なこと、困ること、つらいことってありますよね。私はそういうものをポジティブに変換できるようになりたいんです。こうやったら面白くなるよね、良くなるよねって言いたい!」と笑います。
専門看護師は何が違うのか、「まだまだ知りたい」
そんな丸ごとの視点の持ち方や、ポジティブに変換するためのフレームワークは、「専門看護師を目指して進んだ大学院での学びが基礎になっている」という羽田さん。
そもそも専門看護師を目指したきっかけを尋ねると、羽田さんは「大学院で看護を学ぶことそのものに興味があった」という理由に加えて、もうひとつ、あるがん看護専門看護師のエピソードを話してくれました。
「受け持ちだったがん患者さんが『もう鎮静してほしい』と希望をおっしゃったんです。でも、医師はもう少し治療を続けたい、ご家族もまだ頑張ってほしいと考えていたから、病室には重い空気が流れて…」
そのとき、その専門看護師さんがふっと患者さんの額に手を当てて、ただ黙ってうなずいたのだそう。
「額に手を置かれた患者さんは、すごく満足された表情に変わりました。それを見たとき、なぜかわからないんですけど、その場にいた全員が『ああ、そうか、患者さん本人の意思を尊重するべきなんだ』と納得できたんですよね…」
専門看護師がどう考えてその行動を取ったのか、患者さんは何を思ったのか、なぜ自分たちは言葉もなく納得できたのか、ほかの看護師のケアと何が違うのか――。
どうしても知りたくなって自ら専門看護師を目指したという羽田さん。
「でも、これは今も言語化できていません。まだまだ知りたい」と話します。
羽田さんの実践は、これからますます深まっていきそうです。
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
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