専門看護師の基盤は「高度な実践力」にある
日本看護系大学協議会(JANPU)2020~2021年度理事 中村伸枝さん
千葉大学副学長・同大学院看護学研究院教授。JANPU高度実践看護師教育課程認定委員会委員長(2014~2015年度)、小児看護分科会委員長(2012~2015年度)。
専門看護師(CNS:Certified Nurse Specialist)の養成に詳しいJANPU理事・中村伸枝さんは「専門看護師の基盤は高度な実践力だ」と話します。専門看護師を目指すことの意義などについて聞きました。
「新しいケアを創造する力」へ向かって
――専門看護師を目指す意義や魅力は、どんなところにあるのでしょうか?
常に最新のエビデンスを取り入れながら、すでにあるケアを良くするだけでなく、新しいケアを創造していく――。
これが専門看護師の意義であり、その能力の素地を大学院で養えることが、専門看護師を目指す本質的な魅力なのかな、と私は考えています。
専門看護師を目指す人は、学びに対する高い意欲を持っている方たちだと思います。
大学院教育には、そんなみなさんが主体的に学べる環境があり、そこで吸収した知識・視点・研究の手法が、修了後のさらなる学びを支えます。専門看護師は、その養成が大学院教育であるところにやはり大きな特徴がありますね。
――「新しいケアの創造」、専門看護師として大きなやりがいを得られそうですね。
そうですね。
専門看護師には6つの役割(実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究)があり、活動の幅がとても広いですよね。専門とする分野も「がん看護」「精神看護」など、大きな枠組みでくくられています。
その分だけ難しさはありますが、何よりダイナミックに動ける良さがある。
人口構造や社会が変化する中で、医療も大きく変わってきています。求められる看護、看護師像もまた変わっていくでしょう。
その変化に応じた看護ケアを生み出すには、専門看護師のダイナミックな活動が重要です。
社会や制度の変化を見据え、関係者・部署と調整を行い、必要な体制と環境を作り上げる…といった多面的なアプローチは、専門看護師にこそ期待されているところだと思います。
旗振り役も黒子役もー活動の場を作るもの
――そんな専門看護師を育成する上で、重視されていることは?
先ほどは「新しいケアを生む旗振り役」と話しましたが、専門看護師は「黒子役」のような働きも非常に多いんです。
現場で起きているケアの課題は、システムや職場風土の問題なども複雑に絡み合っていたりするものです。そんな「絡み合ったところ」に切り込むには、自身で旗を振るだけでなく、周りの人たちが力を付けていくのを陰で支える役割も求められます。
専門看護師は、そうした働きができる活動フィールドを自ら作っていかなくてはなりません。それは、「専門看護師って、こういう力がある人なんだ」と、周囲の理解を積み上げるプロセスです。
その基盤となるのは、専門看護師もやはり「実践力」だと思うんです。
看護職というのはみなさん、それぞれに自分なりの思いがあって、良い看護をしたいと考えている。そこに新しい知識を示してくれたり技術を学べたりする「高度実践者」として、専門看護師はまず存在するでしょう。
その実践を通じて、専門看護師が持つ視点や判断の多彩さ・深度に触れ、専門看護師への理解と期待を広げ、より幅広い活動につなげる――。
こうした高度な実践力を育てるのが、大学院での専門看護師教育課程だと考えています。
看護の“経験知”を俯瞰し、言語化する
――専門看護師が大学院教育で身につける「実践力」とは、具体的にはどんなことなのでしょうか?
現場での実践には、個々の経験知で得ている感覚や無意識に行っている技術が含まれていることも少なくないと思います。
そうした経験知が看護の現場に多くあるのは素晴らしいことですが、実践が言語化されないために他者に引き継ぐのが難しい、という側面は否定できません。
専門看護師の教育課程で身につける実践力のポイントは、「実践を言語化する力・俯瞰する力」だと言えるかもしれません。
実践に伴う経験知や無意識を明確な言葉にしたり、それぞれのケアの意味をマクロにとらえ直したりする力です。それによって広く的確に伝わり、看護実践の全体の質が向上します。
これは、さまざまな看護理論や知識を系統的に学ぶことで得るところが大きいでしょう。
患者さんが抱える健康問題や家族背景が複雑化し、看護実践の質向上が今まで以上に課題となる現在、専門看護師の「実践力」はますます重要になっていくのではないでしょうか。
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
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