正常な呼吸音の特徴|基礎編(6)

 

聴診器を使用する際のコツや、疾患ごとの聴診音のポイントについて、呼吸器内科専門医が解説します。
構成は、聴診器の使い方から呼吸器の構造を解説した【基礎編】と、疾患の解説と筆者が臨床で遭遇した症例の聴診音を解説した【実践編】の2部に分かれています。基礎編は全8回にまとめましたので、初学者はまずはここからスタートしてください。

 

[前回の内容]

呼吸音と副雑音の分類|基礎編(5)

 

第6回目は、「正常な呼吸音の特徴」についてのお話です。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

ここでは、私が実際に聴診した正常な呼吸音を聴いてみましょう。

 

いよいよですね。私も普段から患者さんの呼吸音を聴いていますが、なかなか違いがわからないんですよね。

 

今回、聴いてもらうのは、健康なヒトの正常な呼吸音ですので、呼吸音の異常や副雑音は聴こえませんよ。

 

じゃあ、この音を覚えておけば、異常があった時の音と比べて判断できるんじゃないですか?

 

その通りです! 正常な呼吸音は副雑音と比較するための指標になるので、ここで紹介した音はしっかりと耳で覚えておきましょう。

 

〈目次〉

 

3種類の音がある正常な呼吸音

正常な呼吸音には、気管呼吸音と気管支呼吸音、肺胞呼吸音の3種類があります。聴診を行う際には、これらの正常な呼吸音を知っていることが大切です。なぜなら、聴診では、正常な呼吸音と異常な呼吸音を聴き分ける必要があるからです。

 

これから紹介する、実際の正常な呼吸音を聴き比べて、それぞれの音の特徴を覚えてください。また、聴診器で自分の肺の音や、同僚の肺の音も聴いてみましょう。音の特徴を覚えたら、実際の患者さんの音も聴いてみましょう。

 

高い音が聴こえる気管呼吸音

気管呼吸音は、吸気・呼気ともに聴こえる高い音です(図1)。

 

図1気管呼吸音が聴こえる位置と音の特徴

 

気管呼吸音が聴こえる位置と音の特徴

 

 

高い音です。吸気・呼気ともに聴こえます。

 

中程度の音が聴こえる気管支呼吸音

気管支呼吸音は、吸気・呼気ともに聴こえる中程度の音です(図2)。音声データが2つありますが、両方とも気管支呼吸音です。

 

図2気管支呼吸音が聴こえる位置と音の特徴

 

気管支呼吸音が聴こえる位置と音の特徴

 

 

 

中程度の音(気管呼吸音より低い音で、肺胞呼吸音より高い音)です。吸気・呼気ともに聴こえます。

 

低い音が聴こえる肺胞呼吸音

肺胞呼吸音は、吸気のすべてと呼気の最初の瞬間に聴こえる低い音です(図3)。

 

図3肺胞呼吸音が聴こえる位置と音の特徴

 

肺胞呼吸音が聴こえる位置と音の特徴

 

 

低い音です。吸気のすべてと呼気の最初の瞬間に聴こえます。

 

聴診器は動かさず、同じ位置でしっかりと聴く

聴診は、前胸部と背部を中心に音を聴きましょう。その際、呼吸を1~2回する間は、聴診器を動かさず、同じ位置でしっかりと音を聴くことが重要です。

 

ここで紹介した正常な呼吸音の特徴を覚えておくと、患者さんに聴診をした際、普段とは違った呼吸音が聴こえた場合に「異常がある!」と気付きやすくなります。正常な呼吸音は、しっかりと覚えておきましょう。

 

memo音の高さと周波数

普段、音の高さのことを「高音」や「低音」といった具合に、「高い」「低い」と表すと思いますが、周波数から音を表すこともあります。高い音は「高調性(の音)」低い音は「低調性(の音)」といった具合です。

 

ドクターによっては、このような表現方法を使う方もいるので、覚えておいてください。

 

Check Point

  • 主に、頸部で聴こえる気管呼吸音は、吸気・呼気ともに聴こえる高い音。
  • 主に、上中肺野で聴こえる気管支呼吸音は、吸気・呼気ともに聴こえる中程度の音。
  • 主に、中下肺野で聴こえる肺胞呼吸音は、吸気と、呼気の最初に聴こえる低い音。

 

[次回]

副雑音の特徴|基礎編(7)

 

 


[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志

 


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