『白い巨塔』松山ケンイチ インタビュー|患者ファーストの里見医師役。看護師との共通点も?
2019年5月、医療ドラマの金字塔『白い巨塔』が帰ってきます。
松山ケンイチさんは、主人公の外科医・財前五郎(岡田准一さん)のライバルで内科医の里見脩二役。
「患者さんを第一に考える内科医」という役柄への思いや、看護師との共通点についても聞きました。
文/白石弓夏(看護師・ライター)
とことん患者と向き合う里見という医師
――松山さんは以前にも医師役を経験されていますが、今回里見を演じるにあたり特別に準備したことはありますか?
松山:まず、主人公の財前は絶対的な自信を持ち、名声を得るためなら手段を選ばない外科医ですよね。
一方の里見は、自分のことよりも患者を優先する医師です。
僕が元々もっていた医師のイメージは、どちらかというと財前寄りでした。
医師と患者の立場は対等ではなく、上下関係になっているイメージ。
患者を第一に考える医師とはどういうものなのか…。
考えを深めるために、医師と患者の関係について書かれている本を読んだんですよ。
本を読んで感じたことは2つ。
1つは、自分が受ける医療については、患者側でも意見をもてるように促す関わりもあるんだな、ということ。
2つめは、医師側はその場しのぎの安心ではなく、本当に必要な治療を提供するのが大切だ、ということ。
それで僕は、治療が必要ではないと思った人には、素直にそう伝え、治療が必要な患者さんにはとことん向き合うのが里見なのではないかと考えをまとめていきました。
ドラマのシーンでも、医師として必要ではないと思ったら、薬の処方をせずに患者を帰す場面があるんですよ。
薬を出すことで患者さんは安心するかもしれないけど、そうではないアプローチがあると知り、演技でも意識しています。
患者ファーストの演技で垣間見た実際の現場のジレンマ
――患者さんとのシーンはいかがでしたか?
松山:台本を読んだときには、患者さんへの対応が里見と財前では大きく違うことが印象的でした。
財前はわかりやすく上から患者さんと接するタイプ。
たとえば、この患者さんには精密検査が必要だ、と財前が思っているときには、「これをやるべきだ、やらないと死ぬぞ」と、脅しのようなセリフも出てきます。
一方の里見は、「もうちょっと詳しく検査させてもらえませんか?」と下から患者さんに接していく。
患者さんに対して「あなたの意思を尊重しますよ」という態度です。
上からいく財前の態度とは、わかりやすく対比させるように演技しました。
主人公の外科医・財前五郎役の岡田准一さんと ©テレビ朝日
――患者さんの意思を下からすくい上げていく里見の考えは、看護師の考えに近いと感じます。看護師とのシーンで印象的なエピソードはありますか?
松山:里見は、よく看護師さんに急かされてましたね(笑)
患者さんの診察をするとき、「はい、次!はい、次!」と事務的ではなくて、一人ひとりちゃんと向き合って時間をかけるから、看護師さんに急かされるんですよ。
「きっと、現場にもこういう医師いるんだろうな」と。
看護師さんだって、より多くの患者さんのために、と思ってやってるんだろうし。
実際の医療者の方も、患者さんと向き合いたくても忙しくて向き合えないジレンマを、こういうところで感じているのかな、と思いました。
ちょっとした言葉やしぐさも気が抜けない
――医療監修の方と、演技についてどんなことを話しましたか?
松山:台本に里見が「大丈夫です」と言う場面がありました。
以前の経験から、「大丈夫と安易に言ってもいいのかな?」と疑問に思ったので、医療監修の方に直接相談しました。
最終的には、別の言葉に変えることになりました。ちょっとした言葉でも、患者さんの人生を左右する医師の発言として作品に作用するので、気が抜けないです。
あとは、診察のときの手元や体の動きには気を遣いました。
診察中に使う聴診器の扱いや、パソコンに向かうタイミングだけでもひとつひとつ確認して…。
医師は毎日何気なくやってるんでしょうけど、首元のリンパの腫れを確認しつつセリフを言うのは、僕にとっては簡単ではないですから。
考え方は正反対。でも病気に向き合う気持ちは同じ
――主人公の財前とのやりとりも多かったと思います。いかがでしたか??
松山:作品の終盤、「目の前の病巣をどうやって治すのか」を財前と里見が真剣に議論するシーンが好きでした。
元々、財前と里見は患者に対する考え方は正反対ですが、今ある症状、病気をどうやって治していくか、考えるゴールは同じところにある気がしています。
これまでにあったお互いのわだかまりを取っ払った先に、病気に向き合う2人の医師がいました。
それが、なんだかとても里見と財前らしいシーンだったと感じていて、好きですね。
役柄を通して考えた、医療者の日常生活
――最後に、ドラマを楽しみにしている看護師にメッセージをお願いします。
松山:『白い巨塔』は少し極端に描かれている部分もあるかもしれません。
僕からみると、医療は一般の人が入り込めないような世界で、なかなか理解されないこともあるんじゃないかと思います。
今回、里見を演じていても、その孤独につらくなってしまうことがありましたよ。
看護師さんも里見と同じような葛藤を抱えているのではないかと思いました。
看護という厳しい現場で、難しいことだとは思いますが、自分自身のことをもっと大事にしてほしいと思います。
里見にも、人を救うことに一生懸命燃えていて、家に帰っても仕事、研究…という場面がありました。
でも、限られた時間でも家族とどう過ごすか、子どもとどう接するかと考えている役柄です。
僕自身、普段の生活で意識しているのですが、「肌の触れ合い」って大事だなと。
撮影でも、さりげないところですけど、里見の子どもとのシーンではそっと触れたり、手を握ったりという演技を入れるようにしました。
医療者は、自分や家族のことは後回しというか…そこまで考えられる余裕がないのはもちろんわかるのですが…。
まずは自分の健康や家族も大切にしながら、仕事に向き合っていってほしいなと思います。
スタイリスト/五十嵐堂寿
メイク/勇見勝彦(THYMON Inc.)
撮影/田実雄大(bridge)
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
松山ケンイチ(まつやま・けんいち)
1985年生まれ、青森県出身。
現在、ピッコマTVで配信中の実写ドラマ『聖☆おにいさん』ではイエス役を演じている。
今後は映画『プロメア』(声の出演/5月公開)、『宮本から君へ』(今秋公開)の出演を控える。
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