ICUへの新人ナース配属は過酷?
ICUは、一分一秒が患者さんの生死に直結する厳しい現場です。そのため、経験の浅い看護師を配属するのは過酷ではないかという議論があります。
2018年7月1日(日)、第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会でも議論が交わされました。
ICUの新人看護師の配属についてそれぞれの立場から語る(右から)山田氏、菅氏
同学会学術集会において、Pro-con※「ICUにおける新人看護師の配置(推進派VS慎重派)」が行われました。
※Pro-con(プロコン)とは、一つのテーマに対して賛成派(推進派)と反対派(慎重派)で役割を分担し、多様な意見があることを示す講演の一形式です。
今回、推進派の立場から山田 亨氏(東邦大学医療センター大森病院 救急救命センター)、慎重派の立場から菅 広信氏(秋田大学医学部附属病院 集中治療室)がそれぞれ発表を行いました。
INDEX
(1)ICUには、新人をじっくりと指導できる環境がある
(2)新人を受け入れることによって、ICU側が学ぶ機会を得られる
(1)ICUによって新人看護師の辛さが増強される
(2)ICUの環境が新人の学習を促す環境に向いていない
新人看護師の教育でICUも育つ|推進派
「ICUにも新人を配属するべき」。このように主張するのが、山田 亨氏です。
山田氏は、新人看護師のICU配属には、(1)じっくりと指導を受けることができる環境があるといった「新人側のメリット」と、(2)新人を受け入れることによって、ICU側が学ぶ機会を得られるといった「ICU側のメリット」の2つがあると話します。
(1)ICUには、新人をじっくりと指導できる環境がある
ICUは多忙です。しかし、病棟での7対1や10対1に比べ、患者さんと1対1で向き合うことのできる環境であり、先輩もそのような状況であるため、比較的サポートに時間を割くことができると話します。
さらに、山田氏はICUと病棟の環境の違いを以下のような、新人看護師が感じやすいリアリティショックの構成要素を挙げて、説明しました。
・実践能力の未熟さ
・身体的な要因
・精神的な要因
・業務の多忙さと待遇
・仕事のやりがい
・責任感
・患者の死に関する対応
※講演の中で山田氏が取り上げた要素の列挙
これらの要素は、病棟の新人看護師と、ICUの新人看護師が同じように感じる要素です。
しかし、太字で示した「業務の多忙さと待遇」は、時間的・人数的に一般病棟よりも余裕があるICUの新人看護師に限っては感じにくいものだと山田氏は言います。
その理由について、「ICUでは看護師一人に対する担当患者が少ないです。そのため、先輩が新人看護師をサポートするための時間や人数的な余裕があります」と説明しました。
(2)新人を受け入れることによって、ICU側が学ぶ機会を得られる
山田氏は、ほかの人に自分の知識を伝えることが、最も学習の効果を得やすいのではないかといいます。
これを看護師に置き換えると、中堅看護師が新人に業務や技術を教えることで、逆にその中堅看護師が改めて学ぶ機会になるということです。つまり、新人を教えることはとても大変ですが、新人を受け入れることによって、ICU側が逆に学ぶ機会を得られると山田氏は説明しました。
そのほかにも、ICU側のメリットとして、新人看護師によるインシデント報告が増えることで、ICUのシステムの改善に向かうことなども紹介されました。
新人看護師にとってICUは酷な環境である|慎重派
「新人看護師にとってICUは酷な環境である」。このように主張するのが、菅 広信氏です。
菅氏は、多くの看護師がICUを酷だと感じる要因として、(1)ICUによって新人看護師の辛さが増強されること、(2)ICUの環境が新人の学習を促す環境に向いていないことの2つを挙げました。
(1)ICUによって新人看護師の辛さが増強される
現在のICUを取り巻く環境は、医療の高度専門化が進み、かつ高齢化によって患者さんの症状の複雑化が進んでいます。看護学校を卒業したばかりの新人看護師にとっては、学ぶことが多く、ついていくことが困難であると想像できます。
菅氏によると、このような状況から、新人看護師は初めての体験の連続で、新人看護師は学生時代とのギャップ、自身の未熟さを自覚するといった経験をすると言います。
また、菅氏は新人看護師のやる気につながる出来事として以下を挙げました。
・自分の行った看護ケアの効果を実感したとき
・患者さんに感謝されるとき
しかし、ICUではこれらを実感することが難しいと菅氏は説明します。
「ICUに運ばれる患者さんの多くは、意識がなく運ばれ、ICUにて治療の後、すぐに病棟に移ります。ICUで勤務する看護師は、患者さんがその後元気に回復したのかを知る機会が少なく、また患者さんと直接会話をする機会も少ないです」
このことから、ICUは、新人看護師にとって、知識不足の自覚の連続、インシデント、心身の疲労など、新人のつらさを増強させることだけでなく、新人のやる気につながる出来事にも遭遇しにくい環境であるといえます。つまり、ICUに新人看護師が配属されると、新人ならではのつらさが増強される傾向にあると菅氏は説明しました。
(2)ICUの環境が新人の学習を促す環境に向いていない
学習において、OJT(On-The-Job Training)は重要だと菅氏は話します。
一方で、ICUにおけるOJTの特徴を以下のように説明しました。
・学習が起こるタイミングが偶然
・仕事経験がただの労働になってしまう
・ICUは何よりも患者さんの生命が優先になる
このような特徴から、新人が学ぶ環境としては不都合な場面が多いといいます。
ICUはさまざまな患者さんが運ばれてくるため、病棟よりもたくさんのケアを経験することができる場所です。しかし、「学び」という視点から見たときには上記のような理由から、ICUは向いていないだろうと菅氏は説明しました。
また、そのほかにも、菅氏は「ICUはオープンフロアである場合がほとんどですが、本来、新人には居場所が必要です。時には指導者の目から逃げたくなることもあります。しかし、ICUは常に先輩に見られている環境です」と、ICUという場所特有の問題も紹介しました。
ICUにおける新人看護師配属の今後
今回、ICUにおける新人看護師配置の推進派・慎重派の意見として、以下のようなことが挙げられました。
推進派
(1)ICUには、新人をじっくりと指導できる環境がある
(2)新人を受け入れることによって、ICU側が学ぶ機会を得られる
慎重派
(1)ICUによって新人看護師の辛さが増強される
(2)ICUの環境が新人の学習を促す環境に向いていない
実は、今回、慎重派として登壇した菅氏ですが、本音を言うとICUへの新人看護師の配属に対して推進派の立場であるといいます。実際に、新人看護師を受け入れている中での苦労や期待について話す一幕も見られました。
ただ、ICUと一言でいっても、各施設でそれぞれ事情は違います。
それぞれの施設にあった方法で、今回挙げられた問題点を考えながら、多様な意見を取り入れて検討していくことが必要だと考えられます。
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看護roo!アンケート「新人ナースのICU配属 アリ?ナシ?」
【松下淳史(看護roo!編集部)】
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