現役看護師・イラストレーター 仲本りささんインタビュー|真っ暗だった1年目を越えて。今伝えたいこと

看護師から圧倒的な共感を集めている書籍『病院というヘンテコな場所が教えてくれたコト。

作者の仲本りささんは4年目の現役看護師です。

 

書籍の土台となったのは看護師1~2年目に経験した実話。

一番苦しかった1年目を描くことで、伝えたかった思いを伺いました。

 

現役看護師・イラストレーター仲本りささんインタビュー

真っ暗だった1年目を越えて。「実はみんな同じ方角を向いてる。だから一緒に踏ん張ろう」

仲本りささん(看護師・イラストレーター)

 

書籍を出版された仲本さんですが、元々はInstagram(以下 インスタ)にアップしたイラストが多くの看護師から共感を集めていました。

 

「最初は、離れて暮らす家族や友だちに近況を伝えたくてインスタにイラストをアップしていたんです。

そのうちに多くの看護師の方からコメントをいただくようになりました。

今は『自分のことだ』と共感しながら見てくださったらいいなという気持ちで描いています。

 

今回書籍を作るにあたって、患者さんとの出来事を『物語にしたい』というコンセプトがありました。なので、インスタにあげたイラストをそのまま掲載するのではなく、全編描き下ろしで制作しました」

 

 

“忘れたくない気持ち”をイラストで残していた

 

「イラストの作成は、看護学生時代に始めました。入職して一度中断しましたが、看護師2年目から再開して現在も続けています。

インスタへのアップは、看護師2年目から開始しました。

 

学生時代は時間がなく、休みの日に1週間分の出来事をまとめて3~4枚描くようなペースでした。

『忘れちゃいけない、忘れたくない』という必死な気持ちで描いていたのを覚えています」

 

 

真っ暗だった1年目

 

「入職して1年間は、イラストを描けなかったんです。

病棟が忙しくて疲れきっていました。

帰宅後は必要な調べ物だけしてすぐに寝てしまう状態です。

 

毎日がハードすぎて、描こうという気も起きなかったですね…。

1年目はずっと真っ暗で、泥の中でもがいているような感覚でした」

 

 

 

1年目で感じた悩み「いつか人を殺してしまうかもしれない」

書籍に描かれている「この世界で私は何ができるのだろう?」という葛藤や、「いつか人を殺してしまうかもしれない」という恐れが印象的です。

 

「1年目は『何もできないのに、ちょっとのことで重大な損失を患者さんに与えてしまうかもしれない』というプレッシャーがつらくてすごく沈んだこともありました。

 

『患者さんに少しでも多くのことをしてあげたい』と思うのに、そもそもの業務が終わらないんです。

先輩だったら、患者さんをシャワーに入れてあげられるかもしれない。

でも、私は仕事が遅いから手浴さえもできない。

すごく悲しくて悔しい毎日でした」

 

 

「2年目になると少し慣れてきて、時間的・体力的な余裕ができて、やっとイラストを再開できました。

描くことで『自分はこんなことを感じてたんだ』と客観視できる機会も増えたように思います。

 

書籍でも、1年目と2年目の出来事を中心に描いています。

印象的な患者さんのことは記憶に残っているんですよね。

『あのときの患者さん、こんな顔していたな』と思い出しながら制作していきました」

 

 

「今までの選択が正しかったのか…」悩んだときに届いた言葉

 

「2年目も半ばになると、また新たな悩みが出てきます。

『私が今までしてきた選択はこれでよかったのか』ともやもやした時期がありました。

 

臨床での出来事を振り返って『あのときにこうしてたらなー』と後悔したり、

看護師という仕事を選んだこと自体に対しても『これでよかったのか?』と悩んでいました。

『別の人生があったのかもしれない』と考えたり。

 

それで『もしもあの時違う選択をしていたら…』というイラストをインスタに投稿をしたことがあったんです。

過去の選択に自信が持てなくて、自分を励ます意味も込めて描いたイラストでした」

 

2016年9月11日、仲本りささんのインスタグラム。

2016年9月11日のInstagramに投稿したイラスト

 

「この投稿に対して、インスタでDMをくださった方がいたんです。

ご自身の家族のことで、命を左右する重い決断を何度も何度も繰り返していたそうです。

 

その決断に対して迷う度に、イラストの中にある「もしも、あの時に戻ったとしても同じ選択をしていたよ。そのくらい、一生懸命選んできた今だよ」という言葉を唱えてくださったそうで、『この言葉のおかげで今日まで頑張ってこれました』というメッセージをもらいました。

 

このメッセージが今でも、描くことの支えの一つになっています。

遠くにいる人にもエールが届いたとわかって、胸に迫るものがありました。

こんな私でも、イラストや言葉では大きな力を発揮できるんだと実感したんです」


 

自分の気持ちを伝えてみてわかったこと

書籍の中で仲本さんが、自分の「悲しい」という気持ちを伝えたり、患者さんと一緒に泣いたり、感情を表出する場面も描かれます。

 

「最初は毅然とした人にならなくちゃいけないと思っていました。

どんな時も冷静に判断ができて頼りになるのが良い看護師だと思って、身構えていたんです。

 

私が影響を受けたのは、本にも描かせてもらった『患者さんと一緒においおい泣いたことあるよ』という先輩の話です。

 

確かに、日ごろ患者さんと感情を共有して、癒し合える瞬間があることはなんとなく感じていました。

話を聴いてくれるだけでいいとか、同じ思いの人がいると知るだけで元気になることってあると思うんです。

 

そんな中で先輩が、『一緒に泣いたことあるよ』と話してくださったことをきっかけに、正直に伝える機会が増えたように思います。

その時自分が感じたことで、患者さんの助けになるかもしれない思いは、伝えるようにしています」

 

 

読者が他人とは思えない

 

「先日、書籍の告知の一環で、ナースが集まるイベントに参加したんです。

そのイベントの直前、どんな人が来るんだろう?気に入ってもらえるかな?とすごく怖かったです。

 

看護師の中ではインスタのフォロワーが多いほうだから『自分とは違うすごい人』『純粋でいい人』って思われていたらどうしようって思っていました。

 

でも、行ってみたら全然心配することはなくて。

学生さんからベテランさんまで、みなさんが『一緒に頑張ろうね』『私もこういうときあったよ』って、仲間のように接してくださいました。

 

不思議と初めて会った気がしなかったんです。

『やっと会えたねー』という感覚でした」

 

 

 

実はみんな同じ方角を向いてる。だから一緒に踏ん張ろう

 

そのイベントを終えて、感激して泣いている仲本さんに、友人の方がこんなふうに言葉をかけてくれたそうです。

 

みんな、感じやすい心と人間らしい生々しさをもちながら働いてて、実は、臨床で同じこと考えているんだよね。

でも、りさみたいには表現できない。

だから、隣の人がどっちを向いているかわからなくてつらいんだよ。

りさが表現してくれたから、暗闇の中で同じ方角を向いているとわかった。

発信してくれてえらかったよ。

 

「この言葉を聞いて、涙が止まりませんでした。

病院では、それぞれ違う文化の中で、それぞれ違う悩みを抱えているように見えます。

でも、実は患者さんを思う気持ちだったり、それに対する無力感やつらさは、多くの人が経験している。

だから、ちょっとでも連帯感というか、自分だけがつらいんじゃなくて、同じように感じている人もいると知ってもらえたらと思います。

『一緒に踏ん張ろう』と伝えたいです」

 

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締切:2018/7/2(月)23:59

※当選者の発表は商品の発送をもって代えさせていただきます(7/4発送)

※応募期間は終了いたしました。

※編集部注:インタビュー中の事例は個人情報保護に十分配慮して記載しています。

※最終更新日:2018/07/03

文/白石弓夏(看護師)

撮影/kuma*

編集/坂本綾子(看護roo!編集部)

撮影協力/リゾットカフェ 東京基地 離 スペイン坂店 

 

 

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