「戦時中」シリアの手術室での1日|国境なき医師団看護師・白川優子さんインタビュー【2】
内戦が激化するシリアに入り、NPO国境なき医師団のオペナースとして活動した看護師・白川優子さん。
シリア国境周辺の民家を改装した病院で、3ヶ月間の活動に参加しました。
戦争という「非日常」が「日常」であるシリアの現場で、どんな毎日を過ごしていたのでしょうか。
「戦時中」シリアの手術室での1日
白川優子さん(39)
看護師・国境なき医師団所属。2013年7月~9月、シリアにて活動。
埼玉県内の看護学校を卒業後、外科・オペ室・産婦人科勤務。その後オーストラリアにて看護学修士課程を修了・看護師として勤務。2010年よりNPO国境なき医師団に参加し、スリランカ、パキスタン、イエメン、シリアへ派遣。現在は日本をベースに、国境なき医師団や医療通訳などの活動を行う。
銃撃戦の情報共有から始まる1日
病院の1日は、朝のセキュリティミーティングから始まります。
セキュリティを担うチームを中心に、デモや銃撃戦の情報をはじめとする周辺地域の情報を全員で共有することが毎朝必須なのだそうです。
「たとえば近くでデモがあって、政府軍が鎮圧したという情報があれば、ここにも負傷者が運ばれてくると予想されるので、緊急オペに備えて準備をします」
その後病棟を回診し、9時頃からオペスタート。
予定しているオペに加えて、緊急で運ばれてくる患者の様子をみながらスケジュールコントロールを行うのも白川さんの役割です。
「今回は、1日平均7~10人くらいのオペを行いました。
うまくいけば18時ごろには終わりますが、どうしても緊急が入るので、夜中になったり朝までかかったりすることもあります。
休憩のコントロールも私の役目です。
特に外科医・麻酔科医は一人ずつなので、替わりがいないんです。
私たちナースはシリア人メンバーが頼もしく育ってくれていたので、ちょっと任せて30分休む、とかもできましたけど・・・
もちろん患者さんの状態によっては、夜通し朝までオペというときもあります。」
ベランダが寝室?現地での生活
そんな「非日常」の中、派遣スタッフの生活は確保されるのでしょうか。
「今回は、病院とは別に住居用の家を用意してもらったので、すごく快適でしたよ。4人1部屋でしたが、前回は、ベランダで寝てましたから。
他のメンバーに話を聞いたら、『俺なんてこの間は防空壕だったよ!ベランダなだけいいじゃん!』なんて言われましたけど。(笑)」
MSF病院のベランダ
国境なき医師団では、どのプロジェクトでも、食事を作るスタッフや掃除スタッフを現地で雇うそう。それによって、各メンバーが自分の仕事に集中できる環境を作るのです。
「シリアの場合は生活水準が高い国なので、生活でそんなに困ることはありませんでした。
洗濯機もあったし、発電機を使ってお湯も沸かせたので、お湯のシャワーも出たし。
ごはんは、シリア料理というのでしょうか。チキンライスとか、ナンよりもうすいパンのようなものもよく出ましたね。調味料は豊富ではないけど普通にあるし、私は特に不満はなかったです。
ちなみに、アメリカ人は何にでもケチャップかけてましたね。(笑)」
他のメンバーが行った派遣地での話を聞くのがとても好きだという白川さん。常に気を張った毎日の中で、生活を共にする仲間たちとの時間は、唯一のリラックスタイムだったのでは。
「可能なときは、夜みんなでごはんを食べたり、トランプやったりもしましたよ。フランス人のスタッフが『大貧民やろう!』って言って、毎晩やってたこともありました。
そういう風に、切り替える方法を持っていることはすごく大事だと思います。
そうじゃないと、精神的に続かない。
インターネットが繋がるときは家族に電話したり、ゲームしたり、みんなそれぞれのストレスリリーフの方法を持っていましたね。」
医療者として、人間として強くあることの必要性
医療を提供するスタッフ自身が、いかに精神的に強く、ストレスを解放する術を身につけているか。
働く場所がどこであっても、生死を目の当たりにする医療従事者にとって、避けて通れない課題です。
「以前20代の若いドクターが来ていたんですが、彼のオペで赤ちゃんが亡くなってしまったことがありました。
それ自体は、ベストを尽くした結果で、仕方がなかったと思います。
でも、そのドクターは精神的にひどくダメージを受けてしまって。
特にこういう場所で医療者として働くには、技術や知識だけでなく、人間としても経験を積んでいることがとても大切だと思います。」
前回は病院の屋上もスタッフの生活場所だったそう
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Vol.2 「戦時中」シリアの手術室での一日
【取材協力】国境なき医師団日本 http://www.msf.or.jp/
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