心も体も癒される ピンクリボンのお宿ネットワーク

乳がん経験者が気兼ねなく入れる温泉とは?

 

日本では、毎年約5万人の女性が乳がんに罹患し、その多くが胸の切除や温存の手術を受けています。乳がんという病気だけでも大きなショックを受ける女性にとって、乳房を失うということの身体的・精神的苦痛は計り知れません。術後8割以上の患者が回復するといわれていますが、治療を終えてからもなかなか前向きになれない、という女性も多くいます。

 

手術痕などを気にして、楽しみだった温泉旅行から足が遠ざかりがちな乳がん経験者。そんな人たちに気兼ねなく旅を楽しんでもらうための、さまざまな取り組みを行っている団体があります。

 

 

心置きなく温泉を楽しんでほしい

ピンクリボンのお宿ネットワーク(リボン宿ネット)は、患者の治療後の生活を支える取り組みができないか、という医療者の声を受け、旅行業界専門誌を発行する「旅行新聞新社」が中心となって2012年に設立しました。2014年6月現在の会員数は、全国の旅館やホテルをはじめ、趣旨に賛同した企業や団体125件となっています。

 

年1回発行する冊子には、全国の約90の温泉宿の情報を掲載しています(2014年版)。巻末に掲載のクーポンは、手渡すだけでピンクリボンのプランを利用することが伝えられるので、乳がんだと申し出ることに抵抗のある利用客に好評です。

 

宿それぞれの取り組み

会員の宿では「入浴着の使用が可能」「貸切風呂がある」「タオルを多めに用意する」など、さまざまな工夫がなされています。「やっぱり大きなお風呂に入りたい」という声に応えて、大浴場の洗い場に仕切りを設けたり比較的空いている時間帯を案内したり、中には宿泊客を乳がん経験者に限定するユニークな取り組みを行う宿も。

 

長野県の湯本旅館

 

リボン宿ネット会員の湯本旅館は、4年前から毎月第3金曜に「ピンクリボンの日」を開催しています。この日は宿泊客を乳がん経験者同士、またはパートナーに限り、一般客は利用できません。

 

「温泉がちょっと苦手になってしまった人のため、乳がん経験者だけがご利用いただける日を設けました」と語る女将の湯本さんは、ご自身が乳がんを経験した一人。利用客と闘病体験などについて話すこともあるそうです。ピンクリボンの日以外は、貸切温泉の優先利用権やウェルカムスイーツなどの特典が付いた「ピンクリボンプラン」を用意しています。

 

2014年版には約90の温泉旅館・ホテル情報がずらり

 

理解を広げる活動も

「会員数は増えていますが、まだネットワークの認知度は低いのが実情です」と話すのは、事務局長の有島さん。患者同士の口コミや病院での配布などで広がりを見せていますが、乳がん経験者自身にもっと知ってもらいたいとのこと。

 

リボン宿ネットは冊子の発行のほか、会員同士の意見交換会や、医療関係者・患者団体と連携し、乳がんを理解するための勉強会も開催しています。今後は男性を含め、乳がんを経験していない人への理解を広げる活動も行っていく予定だそうです。有島さんは「身近で患者さんと接する看護師さんにも知ってもらいたいですね。宿のサービスやネットワークの活動に反映させるために、ご意見がいただければうれしいです」と語ります。

 

現在、リボン宿ネットでは会員のメーカーと共同で、衛生面に配慮した浴用の肌着「入浴着」の開発を進めています。

 

「入浴着への理解など、ネットワークの活動だけでは難しいこともあるんです。医療関係はもちろん、自治体などとの協力を深め、乳がん経験者が気兼ねなく旅を楽しめる環境づくりを進めていきたいです」

 

冊子は会員の施設や企業、全国の病院や看護施設などで配布していて、HPや電話での取り寄せも可能。宿の情報だけでなく、純粋に温泉を楽しむためのコラムなども収録されています。2015年版は、ピンクリボン月間にあわせて10月に発行する予定だそうです。

 


■取材協力■

長野県 渋温泉 湯本旅館

http://www.sibu-yumoto.jp/

ピンクリボンのお宿ネットワーク

http://www.ryoko-net.co.jp/?page_id=52

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