呼吸器のフィジカルアセスメント
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『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は呼吸器のフィジカルアセスメントについて解説します。
平澤真実
さいたま赤十字病院ICU看護主任
慢性呼吸器疾患看護認定看護師
フィジカルアセスメントの目的
フィジカルアセスメントは、正しい方法で観察・評価をして、呼吸の異常を早期に発見するために行います。
フィジカルアセスメントでは、血圧計やパルスオキシメーターなどがなくても、患者さんの全身を目で見て、耳で聞いて、手のひらで触ることにより、患者さんの多くの身体所見を知ることができます。
呼吸のフィジカルアセスメントの順番は、基本的には図1のように行いますが、胸痛や呼吸困難を訴える患者さんについては聴診を先に行うなど、患者さんの症状に応じて変更を考慮しましょう。
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看護師は何に注意する?
看護師は目と耳と手を使ってしっかりと観察します。正しい方法で観察しないとアセスメントにつなげることはできません。
患者さんにはあらかじめ全身の観察を行うことを説明し、同意を得ましょう。また衣服を脱いでもらう必要もありますので、羞恥心に配慮して病室のカーテンを閉め、室温の調整などを行いましょう。
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フィジカルアセスメントの評価項目
視診
呼吸の有無
口元に耳を近づけ胸の動きを見ると同時に、呼吸音が聞こえるか、頬に呼気を感じるかを確認します。
呼吸数・リズム
1分間静かに観察することが必要です(図2、図3)。脈をとるふりをしたり、患者さんの視野外から観察し、患者さんが呼吸に意識を向けないように気をつけます。
呼吸の深さ
1分間以上静かに観察することが必要です(図4、表1)。上下運動がわかりにくいときは脈拍をとっている看護師の手を患者さんの上腹部に置くと、横隔膜による呼吸運動がわかりやすいです。
発語の有無
声をかけて発語があるかどうか観察をします。
もともと会話ができる人で発語がみられない場合には、気道狭窄や窒息の可能性があります。また、発語があっても嗄声や喘鳴がみられる場合には、気道狭窄の可能性があります。このような場合には早急に気道確保を行い、口腔内を確認し、異物がある場合は吸引などで除去する必要があります。呼吸ができないと数秒で意識障害、意識消失、心肺停止につながるため、早急な対応が必要となります。
顔面損傷の有無
外傷などによる顔面の損傷の有無を観察します。
交通外傷や墜落外傷では、顔面損傷がある場合があります。鼻骨や下顎骨折などにより口腔・鼻腔内から多量に出血している場合には窒息のリスクがあるため、早急に気道確保に努めます。
頸部損傷の有無
外傷などによる頸部の損傷の有無を観察します。
頸髄(C1~3)を損傷すると横隔膜を支配する運動神経に障害をきたすため、自発呼吸が著明に障害されます。この場合、気道確保とバッグバルブマスク(BVM;bag valve mask)などによる用手換気、人工呼吸器導入が必要となります。
チョークサインの有無
自分の喉を親指と人差し指でつかむ動作で、食事のときなどに多く見られます(図5)。このような場面を発見したら、すぐに背部叩打法、ハイムリック法(図6)、吸引により異物を除去し、気道確保を行います。
胸郭の動き
胸郭全体を露出した状態で、胸郭の形状、胸郭運動の左右差、呼吸パターンを観察します(表2)。
努力呼吸
通常の呼吸では横隔膜や外肋間筋などの呼吸筋が働いていますが、何らかの理由で換気量が増大している場合や、呼吸筋疲労が認められる場合は、斜角筋や胸鎖乳突筋、僧帽筋などの呼吸補助筋の使用が認められるため、頸周囲を観察します(図7)。
ばち指の有無
低酸素血症が長期間続くと、爪床部を中心とした指尖部の肥大(ばち指)が生じます(図8)。
memo:ばち指が生じる理由
低酸素血症が長期間続くと、本来は肺循環で捕捉されるべき巨核球が手指や足趾の末梢へ達する。その巨核球が血小板由来の増殖因子(PDGF)を放出することで、軟部組織の肥大を起こすといわれている。
爪の色
爪や指先の色が青紫色になるチアノーゼがみられないか確認します。チアノーゼは口唇や耳朶でも観察されます。
100mLの血液中に5g以上の還元ヘモグロビンが含まれるとチアノーゼが出現します。末梢循環不全でもみられることがあります。
memo:還元ヘモグロビン
酸素と結合していないヘモグロビンのこと。
脱水やショックが疑われるときは、爪を5秒間圧迫して毛細血管再充満時間(CRT)を確認します。
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触診
口腔内・頸部の変形の有無
痛み、腫脹、変形の有無を両手でやさしく確認します。
外傷などにより顔面や顎周囲の骨折を認める場合は疼痛が生じるため、やさしく触れるようにして観察します。
頸部を触診した際に疼痛を訴える場合は、頸椎損傷の可能性があります。その際は頭部から頸部を保持して、患者さんには動かないよう説明し、医師に報告します。
胸郭の動き
両手全体で胸郭に触れ、胸郭の動きに左右差がないか、腫脹や変形がないか、皮下気腫(握雪感)がないか、ゴロゴロ振動するような感覚がないかを確認します(図9、表3、図10)。
memo:握雪感
雪を潰すような感覚であり、皮下気腫の存在が考えられる。
胸郭の動きが左右対称でない場合は、動きが悪い方に胸水貯留や無気肺、気胸の可能性があります。また、皮下気腫を認める場合にも、気胸の可能性があります。呼吸状態が急激に悪化する可能性があるので、すぐに医師に報告する必要があります。
皮膚の湿潤
足先・指先までしっかりと触り、皮膚の湿潤の有無を確認します。
頻呼吸による交感神経の興奮によって、皮膚の湿潤を認めることがあります。他の身体所見とあわせてアセスメントする必要があります。
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打診
打診では、空気の多い肺野は清音、さらに空気の多い胃部では鼓音、空気の少ない肝臓や心臓などでは濁音が生じます(図11、図12)。
通常は清音であるはずの肺野で濁音が生じる場合、肺炎、無気肺、肺水腫が疑われます。また、鼓音が生じているときは気胸が疑われます。
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聴診
羞恥心に配慮しプライバシーを保護しましょう。
冷たいチェストピースが胸郭に触れると筋肉が収縮する音が生じるため、手のひらで包み温めておきます。
聴診器を皮膚に密着させ、左右交互に聴診します(図13、図14、図15)。深呼吸時が最もよく呼吸音を聴取することができるため、やや大きめの呼吸をするよう説明します。
気管支の閉塞では、頸部に聴診器を当てて聴診すると、「ボーボー」「ヒューヒュー」などの異常音が聴取されます(図16)。
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社