患者が転ばないために、 環境をどのように整備したらいいの?|転倒予防のための環境整備
『エキスパートナース』2015年9月号<根拠に基づく転倒予防Q&A>より転載。
転倒予防のための環境整備について解説します。
村井敦子
国立病院機構東名古屋病院看護部
患者が転ばないために、環境をどのように整備したらいいの?
〈目次〉
- “転倒危険地帯”を安全に整備するアイデア
- -100円ショップでも、有効な転倒対策グッズはそろえられる
- -合言葉は「何をするにもまず、ブレーキ!」
- -ポータブルトイレへの自己移乗対策「トイレを病室外へ」
- 転倒を繰り返す患者には、センサーの力を借りよう!
- コラム 患者も医療スタッフも巻き込んで、『転倒予防川柳』をつくろう!
“転倒危険地帯”を安全に整備するアイデア
1100円ショップでも、有効な転倒対策グッズはそろえられる
入院患者の居住スペースである病室・ベッド周囲は転倒危険地帯です(1)。(入院中の患者の、何に注意して"予防策を"考えるべき? 表1)にもあるように、「眼鏡」「点眼」あるいは「ペットボトル」など、ふだんからよく使うものを取ろうとして失敗したり、テレビのリモコンを床に落として拾おうとしたりして転倒することがあります。
ふだんよく使うものは、定位置のベッド柵に100円ショップなどで売られているカゴを用意し、S字フックや結束バンドで固定して、ベッド上でも、ベッド外にいるときも手が届くようにします(図1- ①)。
リモコンは紐で柵に結び付けるなどの工夫を行い(図1- ②)、無理な姿勢をとることによる転倒を防ぎます。
ベッド上にティッシュ箱を置く場合、100円ショップで購入できる滑り止めのマットを敷いたり輪ゴムで止めるだけで、滑って落とすことのないようにできます(図1- ③)。
ペットボトルは、ストローつきのキャップにつけかえると蓋の開け閉めにも困らず、柵につけたカゴに入れてベッド上でもこぼさず飲むことができます。
2合言葉は「何をするにもまず、ブレーキ!」
オーバーテーブルや車いす、点滴台、歩行器など、患者が思わずつかまってしまうものにはキャスターがついています。そのため、つかまったまま重心が傾くと、そのままスーっと転倒してしまいます。基本的なことですが、必ずストッパーやブレーキをする習慣を身につけましょう。
私たちが注意するだけでなく、患者にも「何をするにもまず、ブレーキ!」と説明します。
病室・トイレ、洗面所などにはブレーキ確認のポスターを貼ってアピールしたり、カラーテープで目立つようにブレーキ部分にラップフィルムの芯でマーキングをしたりします。ブレーキ忘れに役立ちます(図2)。
3ポータブルトイレへの自己移乗対策「トイレを病室外へ」
ものごとを自分でやろう、やりたいと考えている患者は転倒のリスクが高いと言えます。
そうした場合、例えば衣類などの整理整頓を気にする患者には、手の届く棚に物を移動させ、自由に触れるような配置を一緒に考えると、立ち上がって取ろうとする危険な姿勢をとらずにすみます。
また、ベッドを一方の壁側に寄せて車いすなどが入れるスペースを確保できると、車いすを乗り捨ててまで歩いて棚へ行こうすることもなくなります(図3)。
ところで、ポータブルトイレや車いすを使用する患者で、ベッドサイドにぴったりと設置したままだったために、「自分で移乗しようとして転倒した」というケースはよくありますよね。
毎回のナースコール指導にもかかわらず、看護師に遠慮してナースコールをせずに移乗しようとしてしまう場合には、車いすやポータブルトイレは病室外へ置いて、自分で移乗することを思いとどまらせるようにします。そうすると、必ず声を出して看護師を呼ぶなり、ナースコールを押すなりといったことができるようになります。
転倒を繰り返す患者には、センサーの力を借りよう!
それでも、柵を外して転倒してしまうような患者にはセンサー類の設置を考慮します。
柵を乗り越えて動き出し、何度も転倒を繰り返して受傷してしまうような患者には、あえて足もとの柵を外し、床に衝撃吸収マットと床センサーを設置し、足が床に着いたらセンサーが反応してナースコールと連動するようにします。病室もナースステーションから観察しやすい部屋へ変更します。
大勢の患者を少ない人数で看護している私たちには、患者の安全を守るために、センサー類が必要な場合があります。設置するときも、外すときも、十分に情報を共有してカンファレンスで検討します。
コラム 患者も医療スタッフも巻き込んで、『転倒予防川柳』をつくろう!
当院では、2011年度より患者・家族および医療スタッフから『転倒予防川柳』の募集と掲示を行っています。
川柳の掲示後、有意に転倒が減少しました(P<0.05)(2)。しかしアンケートの結果、同じ川柳を貼り続けることで見慣れてしまうという問題も明らかになりました。
そこで、2012年度は川柳を日めくりカレンダー式に変更し、転倒予防への注意喚起ができないかを検討しました。
結果、日めくりのため見慣れてしまうことがない反面、今度は一句ごとの川柳の内容が印象に残りにくいという意見がありました(結果、一定期間同じものを提示し続ける形式と日めくりカレンダーを併用する方法が有効だとわかりました)(3)。
このように、ポスターなどで視覚を刺激するメッセージは患者も気にかけてくれることがわかったため、かわいがっているペットや孫などの写真に吹き出しつきで「動くときは、看護師さんをボタンで呼んでね!」と大きく患者の目の留まるところに貼り出しています。
また、麻痺があって姿勢が不安定な患者の更衣には、『危ないよ、着替えは座ってやりましょう』と転倒予防川柳を病室の壁に貼り出すなど、その患者に合った内容の川柳を選び注意喚起をすると、患者だけでなく家族も一緒になって転倒予防にかかわることができるようになります。
転倒して受傷しないよう、患者・家族と一緒にポスターの写真選びや転倒予防川柳を作成するのもすてきです(図4)。
当院では転倒予防川柳の活用として、外泊届けにシール紙で印刷した『川柳カード』を貼り、外出・外泊時の転倒にも注意していただくように使用しています(図5)。
[引用文献]
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P.98~100「転ばないために、環境をどのように整備したらいいの?」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年9月号/ 照林社