聴診器が医師の命を救った!? 聴診器がもたらした200年
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聴診器を使用する際のコツや、疾患ごとの聴診音のポイントについて、呼吸器内科専門医が解説している『聴診スキル講座』ですが、ここでちょっと一息。
今回は、本編とは別に、聴診に関する豆知識やグッズを紹介します。
コラムの第6話は、「聴診器が医師の命を救った!? 聴診器がもたらした200年」の解説です。
皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)
今年(2016年)は、聴診器が開発されて、ちょうど200年になる記念の年なんですよ。
そうなんですか!?
じゃあ、万華鏡と一緒なんですね。
え? 万華鏡も200年前からあるんですか?
万華鏡は、スコットランドの物理学者のディヴィッド・ブリュースターが発明したんです。
彼は、光学の分野で数々の業績を上げた人物で、35歳のときに偏光角の実験の最中に万華鏡を発明して、翌年に万華鏡の特許を取得し、それからそれから……
も、もう結構ですよ!(万華鏡の知識量がスゴイなぁ……)
今回は、聴診器の200年の歴史を振り返ってみましょう。
〈目次〉
聴診器が発明されてからちょうど200年
聴診器の歴史は、1816年にフランス人の医師 ルネ・ラエンネック(1781-1826)が、木製の筒型の聴診器を発明したのが始まりでした。これから、今年でちょうど200年が経ちます(1)。Dr.ラエンネックは、そのわずか3年後の1819年に『間接聴診法』を出版しています。
聴診器は英語で、「stethoscope」と言いますが、これは、ギリシャ語の“stethos(=breast)+skops(=watcher)”から来ています。つまり、聴診器には、「胸中を見る」という意味があります。
聴診器は多くの医師の命を救った
フランスで誕生した肺聴診学は、英語に翻訳され、イギリスからアメリカに、ドイツからわが国に、明治時代に伝わりました。これによって、わが国に聴診器が普及しました。
聴診器が発明される前までは、医師が自分の耳を直接患者さんの体に押し当てて呼吸音を聴く、直接聴診法が行われていました(図1)(2)。
図1聴診器が発明される前の聴診方法
このような診察方法を行っていたため、昔の多くの医師は、患者さんからうつった肺結核で亡くなっています。Dr.ラエンネックもその一人です。
時代が進んでも聴診の価値は不変
考えてみると、現代医学には、たくさんの素晴らしい機器(超音波、CT、X線、MRIなど)が登場しており、医療技術の進歩と発展の早さには驚かされます。しかし、聴診の基本は、Dr.ラエンネックの時代から、大きくは変わっていません。
聴診は、リアルタイムに患者さんの病態を教えてくれます。侵襲もなく、いつでもどこでも診察を介して患者さんの情報を得られます。筆者は、聴診の価値は、今後もきっと変わらないものと信じています(3)。
200年前に作られた聴診器が、今も医療の現場で使用されていることはすごいことです。
聴診の歴史は、とても奥が深いので、興味がある方はさまざまな文献を調べてみると良いでしょう。
思わぬ発見や、つながりが見つかるかもしれませんよ。
[文 献]
- (1)皿谷 健. 聴診器発明から200年. 化学療法の領域 2016; 32: 19.
- (2)Edelman ER, Weber BN. Tenuous Tether. N Engl J Med 2015; 373: 2199-201.
- (3)Minami T, Minami A, Manzoor K, Saraya T. Modern Technology in Respiratory Medicine: Lung Ultrasonography–Is it Time for the Stethoscope to Give Up its Throne? Pulm Res Respir Med Open J 2016; 3: 55-6.
[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授
[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授
Illustration:田中博志